テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
151
2,346
133
#うちの子
⚠ATTENTION⚠ お馴染みのSAN0コメディです。 僕とChatGPTがノリノリで藍モスのプライドを弄びました。悔いは無し。 ジャンルはヤミナベになりました。
朝日が昇った、その瞬間。
毎度の如く、静寂をぶち破るように家全体を揺らすような声が響く。
白(ハク)
窓ガラスがびりびりと震え、壁の奥の配線すら共鳴するレベルの音量。
目覚まし時計?そんな文明的なものはこの家にはいらない。破壊的な音圧がある。
ノア
すぐさま反応したのはノアだった。
まるで最初から起きていたかのように自然に起き上がり、笑顔で挨拶を返す。
寝起き特有のぼんやり感?そんなものはない。
珠(タマ)
少し遅れて、珠が起きる。 髪をかきあげながら、不満そうに目を細めるが、 体の動きは既に完全に覚醒している。
しっぽだけは、正直にだらんと下がっていた。
一方で。 この程度で起きない連中も当然いる。
夜行性、低体温、ぬくぬく依存、そして──
完全停止系。
マキナ
特に、マキナ。
微動だにせず、爆睡。 昨日とほとんど何も変わっていない。
だが白は、そんな連中に一切の容赦がない。
白(ハク)
藍(アイ)
狙いを定め、容赦なくダイブ。 もはや起床ではない。物理的な強制再起動である。
藍(アイ)
布団を蹴り飛ばしながら、藍が起き上がる。
目は完全に据わっている。うさ耳はピンと立ち、しっぽは苛立ちを隠さずぶん、と揺れた。
さっきまで見ていた夢──スタイル抜群の女の子達に囲まれ、よしよしと頭を撫でられるという、この世の理の全てを肯定したような至福の時間。
それが、粉砕された。
藍(アイ)
怒鳴る。 床にヒビが入るレベルの圧。
白(ハク)
白、きょとん。
時間という概念がそもそも曖昧。 太陽が出たら朝。以上。
白(ハク)
白(ハク)
にっ、と笑う。 悪意ゼロ。純度100%の信頼と好意。
だからこそタチが悪い。
藍(アイ)
藍、舌打ち。 怒りはあるが、完全には爆発しない。
こういう“素で言ってるやつ”に対しては、殴りきれないのが厄介なのだ。
白(ハク)
追撃。
藍(アイ)
即答。 間髪入れず、感情ゼロで切り捨てる。
その瞬間。 藍の頭の中で、昨日の記憶がフラッシュバックする。
メイド服に、執事。
萌え萌えきゅん(未遂)。
あーん。
間接キス。
そして──可愛い扱い。
藍(アイ)
ぴき。 何かが、軽くヒビを入れる。
藍(アイ)
低く、呟く。 うさ耳が、わずかに震える。
白(ハク)
白は、やはり何も理解していない。
その横で、珠が小さく笑う。
珠(タマ)
藍(アイ)
藍の目が、完全に据わる。
騒音がまだ響いている中。 ぬくぬくしている勢の布団の中だけは、別世界のように静かだった。
橙(トウ)
橙は、ゆっくりと体を丸める。
カーテンの隙間から差し込む光が、少しだけ鬱陶しい。目を細め、頭の左右から伸びた植物が、ぴこ、と弱々しく動いた。
朝も昼も動けるけど、好きじゃない。 眩しいし、うるさいし、落ち着かない。
できるなら、このまま。 世界ごと夜にしてしまいたい。
……やろうと思えば、できる。
その時。 脳裏に、ぱちん、と何かが弾けた。
橙(トウ)
口元がゆるむ。 さっきまでの眠たげな顔はどこへやら、じわじわと“悪い顔”に変わっていく。
最近、ちょっとだけ退屈だった。 平和で、ゆるくて、ぬくぬくしてて。
それはそれで悪くないけど── 刺激が足りない。
布団から、するりと抜け出す。 足音はほとんどない。
そのまま、迷いなく向かった先は──モス。
橙(トウ)
わざと、耳元で。 息がかかるくらい近くで、囁く。
ぴくっ。 触角が、わずかに反応する。
だが──動かない。
起きていないのか。 それとも、起きないふりか。
モス
正解は後者。
どうせ碌でもないことに巻き込まれる。 それくらいは、もう分かっている。
橙(トウ)
しつこい。 逃がさないと言わんばかりの声。
モス
ほんの少しだけ、反応。 だが、まだ完全には起きない。
橙(トウ)
モス
ようやく、声が返る。 低く、眠気を引きずったままの声。
モス
モス
橙(トウ)
モス
即答に、即ツッコミ。
橙は、こういう時だけやたら素直だ。 悪意も、目的も、隠さない。
モス
モスは、ゆっくりと目を開ける。 完全に諦めた顔。
腕を伸ばし、体を起こす。 触角がだらりと垂れ、翅もまだ眠そうに力が抜けている。
橙(トウ)
橙(トウ)
橙が、にこにことしながら覗き込む。
モス
モス
モスは、淡々と答える。
橙(トウ)
橙は首をかしげる。
橙(トウ)
モス
一瞬、沈黙。
そのあと。 モスの口元が、ほんの少しだけ歪む。
さっきまでの気怠さとは違う。 どこか、昔を思い出したような顔。
元・敵。 元・“仕掛ける側”。
モス
ゆっくりと、目を細める。
モス
橙(トウ)
橙が、ぱっと笑う。
無邪気で、楽しそうで。 でも、その中身は完全に黒い。
その瞬間、この家から。 “まとも”という概念がまた一つ消えた。
朝食後の騒がしさが一段落し、各々が好き勝手に散っていく中。
藍は自室に入ると、ぶかぶかの上着の内側に手を突っ込んだ。
ガチャ、と乾いた音。
取り出したのは、見慣れた工具一式。 スパナ、ドライバー、用途不明の謎工具。
それらを床に広げ、続けて一枚の紙を取り出す。
──設計図。
自分で描いたそれは、線は荒いが無駄がない。
小型、軽量、そして高出力。 自分専用のジェット機。
藍はしゃがみ込み、うさ耳をぴんと立てながら、真剣な目で図面を睨む。
藍(アイ)
指先が、工具へと伸びる。
藍(アイ)
空を切り裂き、音を置き去りにし、誰にも追いつけない速度でぶっちぎる。
どうしようもなく男のロマンだけで構成された妄想が脳内で完成しかけた、その瞬間。
パチン。
乾いた、軽い指鳴らしの音。
藍(アイ)
藍の耳がぴくりと動く。
……違和感。 さっきまで視界にあったはずの設計図に、もう一度視線を落とす。
──そこにあったのは。
藍(アイ)
一瞬、理解が追いつかない。
紙束──いや、写真。 しかも一枚や二枚ではない。大量。
床一面に、ばら撒かれたそれは。
藍(アイ)
喉の奥から、ひっくり返ったような声が漏れる。
そこに写っていたのは、過去の自分。 しかも、よりにもよって──
猫耳メイド服。 フリル満載。語尾「にゃん」強制。 顔を真っ赤にしながら、殺意だけは消せていない目でやり切った、あの日の自分。
さらに別の写真。
ステージライトの下。 ツンデレ猫耳アイドルとして、無駄に完成度の高いポーズを決める自分。
観客席には──なぜかショゴス。 それに向かってファンサをしている、自分。
さらにさらに。
謎の光り輝くトランペット。 明らかにどこかで見たことのある、国民的ヒーロー系の楽器。
ニャルに用意されたそれを必死に吹きながら、神格を退散させている自分。
その他、記憶から消し去ったはずの数々の黒歴史。
拳が、震える。
藍(アイ)
ドンッ!!
扉が、原型を留めずに吹き飛んだ。
藍はそのまま廊下を踏み砕く勢いで進み、リビングへと突入する。
視界に入ったのは──白と珠。
そして。 二人の手にある、同じ写真。
珠(タマ)
珠が、床を叩きながら笑い転げている。
珠(タマ)
しっぽがばたばたと暴れ、完全に呼吸困難寸前。
一方の白は、写真をじっと見つめたまま、真剣な顔で首を傾げる。
白(ハク)
白(ハク)
藍(アイ)
藍の思考が、一瞬で爆発した。 顔が、耳まで一気に真っ赤に染まる。
藍(アイ)
藍(アイ)
叫びと同時に、上着の内側へ手を突っ込み──
取り出されたのは、明らかにサイズのおかしい兵器。
ロケットランチャー。 躊躇、ゼロ。
ドォンッ!!!!
爆音。閃光。衝撃。 リビングが、一瞬で吹き飛んだ。
壁が弾け、家具が宙を舞い、床がひび割れる。 白と珠はまとめて吹き飛び、壁を突き破って外へ転がっていく。
──それでも。
珠(タマ)
珠、普通に生きてる。
白(ハク)
白、普通に抗議してる。
煙が立ち込める中、藍は肩で息をしながら、まだ燃え残る写真を睨みつける。 指先は震え、うさ耳はぴんと立ち、しっぽは逆立っている。
そして、その背後から。
くすくす、と。 明らかに隠す気のない、笑い声。
藍(アイ)
藍の動きが止まり。 ゆっくりと、振り返る。
藍(アイ)
怒りと羞恥がごちゃ混ぜになった視線の先にいるのは──元凶確定の二人。
藍は廊下を蹴り飛ばす勢いで駆け出した。
ドタドタと荒い足音。 だが動き自体は無駄がない。低い重心、瞬発力、方向転換の速さ。
速い。だが──
藍(アイ)
追っている相手が悪い。
橙とモス。 隠しているだけで、藍より速く動ける連中。
気配はある。 だが捕まらない。
そして、曲がり角。 勢いそのままに、藍が踏み込んだ瞬間。
藍(アイ)
落とし穴。
しかも見事なサイズ感。 藍がすっぽりと嵌るように設計されている。
脇のあたりで引っかかり、完全には落ちない中途半端な姿勢。 元から低い視点が、さらに低くなる。
……そして。
ぬるり。
床の下。 見えない位置から、何かが触れる。
藍(アイ)
次の瞬間。
ぞわっ。
弱いところを、的確に。
複数のツタ。 ぬるり、ぴとり、するり。
藍(アイ)
変な声が出た。 自分でも何が起きたのかわからないような、内部機構が軋むような声。
藍(アイ)
脚をばたつかせ、蹴り飛ばそうとする。 だがツタはひらりと避け、また別の箇所へ。
藍(アイ)
苛立ちが爆発し、視線がギラつく。
藍(アイ)
そう思った、その瞬間。
ずるり。
藍(アイ)
支えていた部分が外れ、落下。
ゴン、と鈍い音。 痛みはない。表面は硬い。
だがそれ以上に。 視界に入ったものに、思考が止まる。
藍(アイ)
目の前に、ぽつんと置かれたそれ。
1D100用のダイス。
藍(アイ)
ゆっくりと周囲を見回す。
タイル。浴槽。湯気。 風呂場だ。
藍(アイ)
藍(アイ)
思いっきり怒鳴る。 壁を殴る。蹴る。扉を引く。
──びくともしない。 空間自体が固定されている。
藍(アイ)
視線が、ダイスに戻る。 これを振れ、と言わんばかり。
藍(アイ)
低く吐き捨てるように呟き。 ダイスを掴み、軽く振る。
コロコロ…… 転がる音が、やけに響く。
藍(アイ)
ダイスの出目は5。クリティカル。
だが次の瞬間。 浴槽の湯気が、一瞬で消えた。
しん、とした冷気。
藍の目が、ゆっくりと風呂を見る。
湯……だったもの。 温度が、5℃。
藍(アイ)
藍(アイ)
ありえない。 入れと?これに?無理だろ。
藍(アイ)
眉がひくりと動く。
数秒、考え。 結論。
空間を、強引に捻じ曲げる。 ガチの力技。
ぐにゃり。
空間が歪み。 別の場所と接続される。
白(ハク)
引きずり込まれるように現れたのは、白。
状況理解ゼロのまま──ドボン。 そのまま5℃の湯へ。
普通なら悲鳴……だが。
白(ハク)
白、ぱちぱちと瞬きをする。 数秒後。
白(ハク)
気持ち良さそうに浸かり始めた。
氷龍と天使の混血児。 常識、無効。
藍(アイ)
藍、即判断。
藍(アイ)
そのまま扉へ。
ドゴンッ!!!
風呂の扉が吹き飛ぶ。 空間の拘束も、無理やり破壊。
藍は殺意満点で飛び出していく。
白(ハク)
残された白は、首を傾げる。 だがすぐに。
白(ハク)
満足そうに、肩までしっかり浸かる。
湯気の代わりに、冷気が立ち上る中。 しっぽがぶんぶんと揺れていた。
廊下。 先程までの騒音が嘘のように、ほんの一瞬だけ静寂が落ちる。
コツ、コツ、と。 ヒールの音が、ゆっくりと響く。
マキナ
小さな欠伸。
マキナ
眠たげな瞳を細めながら、マキナがようやく起きてくる。
歩みは遅い。 というより、眠いから省エネ運転。
だが、その静寂をぶち壊すように。
ドタドタドタドタッ!!
明らかに普通ではない、殺気を帯びた足音が廊下の奥から迫ってくる。
マキナ
マキナの瞳が、わずかに開かれる。
次の瞬間。 曲がり角で、衝突寸前。
マキナ
反射。 思考より先に、機構が動く。
ゴゴゴゴゴ……ッ
空間が軋み、黄金の巨大な歯車が出現。 幾重にも重なり、回転しながら盾となる。
──そして。
藍(アイ)
勢いそのままに突っ込んできた藍が、見事にそれに激突。 跳ね返されるように、床へと転がる。
マキナ
マキナ、数秒遅れて状況を理解。 歯車が、カチン、と静かに停止する。
マキナ
一応謝る。一応。 だが声色は眠気混じりで、謝罪の熱量はほぼゼロ。
藍(アイ)
藍、即キレ。 うさぎの足だんで床を踏み鳴らす。
そのまま、振り返りもせずまたドタドタと走り去っていく。 完全にブチギレモード継続中。
マキナ
残されたマキナ。 去っていく背中を、じっと見つめる。
歯車が、かすかに回転音を立てる。
マキナ
マキナ
理解。 そして、結論。
マキナ
すぅ、と。 指先が持ち上がる。
空間が、ほんの僅かに歪む。
……それを実行しようとした、その時。
ノア
横から、そっと手が添えられる。
優しく、しかし確実に。 マキナの動きを止める手。
マキナ
視線を向けると、そこにいたのは──ノア。
にこやかな笑顔。 だが、その目の奥には。
妙な熱。
ノア
柔らかく、だがどこか芝居がかった口調。
くるり、と手首を返す。 どこからともなく、取り出される。
カチンコ。 しかもやたら年季の入った、古めのやつ。
ノア
断言。 ぱしん、と軽く叩き合わせる。
乾いた音が、廊下に響く。
マキナ、無言。 理解はしていないが、止められたことだけは理解している。
ノアは一歩前に出る。 まるで舞台の中央に立つ役者のように。
いや──監督。
ノア
カチンコを肩に担ぎ、視線を藍が去った方向へ。
口元が、わずかに吊り上がる。
善意。だが同時に。 エンターテインメントへの執着。
ノア
高らかに宣言。
そして。 もう一度、カチンと鳴らす。
その音は、まるで──開幕の合図。
ただのドタバタではない。 “演出された混沌”へと、空気が変わる。
ノアは満足そうに微笑む。
その隣で、マキナは一言。
マキナ
廊下を駆け抜ける足音は、もはや「ドタドタ」では済まない。 殺意とプライドと黒歴史の混ざった音である。
藍(アイ)
藍は走りながら、珍しく頭を回していた。 ノリと勢いと怒りに任せて突っ込むタイプではあるが、相手が悪い。
橙とモス。 どちらも神格。しかも性格が最悪寄り。
藍(アイ)
それどころか、むしろ──
藍(アイ)
ぎり、と歯を噛み締める。
藍(アイ)
そのまま、気配を感じた扉を蹴り開ける。 勢いよく開いたその先は──
藍(アイ)
別の廊下だった。 しかも、微妙に構造が違う。
藍(アイ)
その瞬間。 ひらりと、上から何かが落ちてきた。
藍(アイ)
反射的に受け取る。
一冊の本。 表紙は……見ないまま。
藍(アイ)
ぺらりと、開く。
藍(アイ)
数秒後。
藍(アイ)
廊下に絶叫が響き渡る。
藍(アイ)
バサバサとページを閉じようとするが、 一瞬見てしまった情報はもう遅い。
脳内に焼き付いて離れない。
藍(アイ)
本を床に叩きつける。
藍(アイ)
魂の叫び。 犯人はほぼ確定している。
藍(アイ)
藍(アイ)
深呼吸。 ふるふると首を振る。
藍(アイ)
ぐっと拳を握る。
藍(アイ)
──そう、相手は神格。 精神的な揺さぶりなんて朝飯前。
普通の嫌がらせじゃ意味がない。
藍(アイ)
ぽつり、そう呟いた瞬間。 藍の目が、獲物を見つけた肉食獣みたいに細くなる。
藍(アイ)
背後から、ぐいっと首元を掴まれる。
珠(タマ)
ガシッ!!
珠(タマ)
珠、完全に巻き込まれ事故。 藍はそのまま顔をぐっと近づける。
藍(アイ)
珠(タマ)
藍(アイ)
だが今はそれどころじゃない。
藍(アイ)
低い声。
藍(アイ)
珠(タマ)
珠、少しだけ黙る。 そして、ぽんと手を打つ。
珠(タマ)
珠(タマ)
藍(アイ)
藍、無言で睨む。 だが珠はにこっと笑って。
珠(タマ)
藍(アイ)
反射で殴ろうとする。 珠、ひらりと回避。
珠(タマ)
藍(アイ)
珠(タマ)
珠、くるりと回って向き直る。
珠(タマ)
にやり、と笑う。
珠(タマ)
珠(タマ)
藍(アイ)
くるり。即撤回。 スタスタと歩き出す。
珠(タマ)
珠、慌てて追いかける。
珠(タマ)
腕を掴む。
珠(タマ)
藍(アイ)
にやり。 クソガキ全開の笑み。
珠(タマ)
珠、やらかした顔。
モス
モスの触角が、ぴくりと強く震える。
違和感。 いや、違和感なんて生易しいものじゃない。
モス
分子レベルで読み取っていた匂いが、ぼやける。
いや、消されているのではなく“歪められている”。 空間そのものが、何かに干渉されている。
その瞬間、橙も顔を上げた。
橙(トウ)
軽い声。だが、その目がわずかに細まる。
橙(トウ)
指先に集めた力が、微妙にズレる。 まるで、世界の“基準点”が書き換えられているみたいに。
──その時。
モス
モスの身体がびくりと跳ねた。
首筋。 ひやりとした、冷たい何か。
だがそれは、“触れられた”というより──“触れられたことだけが脳に直接届いた”感覚。
モス
反射的に振り向く。 だが、何もいない。
……いや。 “何かと目が合った”気がした。
視界には映らない。 だが、確実に“いる”。
──みつけた。
声ではない。音でもない。
それでも、確かに。 魂に直接叩き込まれるように、その言葉は響いた。
橙とモス、同時に無言になる。
そして、ゆっくりと。 影の中から姿を現す。
隠れても意味がないと、本能が告げていた。
その瞬間。
シューーーーッ!!!!
モス
橙(トウ)
完璧なタイミング。 完璧な角度。完璧な距離。
スタンバイしていた藍が、顔面ピンポイントで除草剤と殺虫剤をぶちかました。
モス
触角がばたばたと暴れ、 翅がばさばさと乱れる。
普段の余裕?そんなものはない。
モス
死にはしない。だが。
めちゃくちゃ効く。
橙(トウ)
橙、その場でしおしお。
周囲に生えていたツタが、 しゅるしゅると枯れていく。 完全に弱体化。
藍(アイ)
藍、ふんっと鼻を鳴らす。
藍(アイ)
説得力の塊みたいな台詞。 だが、その手は止まらない。
上着の中に手を突っ込み、ひらり。 一枚の写真を取り出す。
藍(アイ)
モスの視界に、それが入った瞬間。
モス
時間が、止まる。
そこに写っていたのは、恋歌。
まだ幼い頃。誰かに向けて、無邪気に、満面の笑みを浮かべている姿。
──自分には向けられたことのない表情。
モス
声が震える。 触角が、ぴたりと止まる。
藍、にやり。
藍(アイ)
ひらひらと振る。
藍(アイ)
モス
怒りと動揺が混ざる。 だが、身体はもう動いている。
モス
藍、消える。 次の瞬間、別の位置に現れる。
また消える。また現れる。 怪異特有の瞬間移動じみた挙動。
藍(アイ)
完全に煽り。 完全にクソガキ。
モス
モス、翻弄される。
冷静さはどこへやら。 完全に感情で動かされている。
一方。 取り残された橙。
橙(トウ)
ぼんやりと立ち上がる。 周囲を見渡し、ぽつり。
橙(トウ)
さっきの“気配”。 あの見えない何か。
橙(トウ)
丑三つ時。 あの、少しだけ“質の違う藍”。
ぞわり、と。 橙の背筋に、わずかな寒気が走る。
だが、遠くから聞こえてくる。
モス
藍(アイ)
(モスの)全力鬼ごっこ。
橙、少し考えて。
橙(トウ)
にこっと笑った。
モス
リビングに飛び込んだ瞬間。 モスの世界が、匂いで殴られた。
さっきまで歪められていた嗅覚が、 急に“元に戻る”。
──その反動で。
柑橘。
柑橘。
柑橘。
モス
鼻を押さえる。だが意味はない。 分子レベルで感知する触角が、全力で仕事をしてしまう。
たった数個。 それだけのはずのみかん。
だがモスにとっては、 爆心地レベルの刺激臭。
珠(タマ)
こたつの中心。
ぬくぬく。
ぬくぬく。
ぬくぬく。
珠(タマ)
珠が、何食わぬ顔でみかんを剥いていた。
皮をむく音。 じゅわっと広がる香り。追い打ち。
モス
モス、固まる。
視界の先には。 こたつ(入りたい)とみかん(無理)。 天国と地獄の同時展開。
藍(アイ)
別方向から、ひらひら。
藍(アイ)
藍、完全に余裕の顔。
藍(アイ)
ぴらり。
モス
モスの視界が、そこで止まる。 新たな恋歌の写真。
頬を赤らめて、 何かに照れている表情。
モス
一瞬で声が荒れる。
モス
言っていることは正しい。 だが、足はもう動いている。
完全に追跡モード。
モス
モス
藍(アイ)
藍、即ツッコミ。
モス
図星。 否定しきれない。
ぬくぬくの部屋で、全力追いかけっこ。
藍、ひょい。消える。 ソファの上に出現。また消える。 天井近くに出現。
藍(アイ)
完全に遊んでる。
モス
モス、必死。
だが、嗅覚は地獄。 能力は制限。精神は揺さぶられ中。
コンディション最悪。
珠(タマ)
こたつの中。 みかんをもぐもぐしながら、二人を見る。
その目は、呆れ半分、愉悦半分。
全部、こいつだ。
・空間操作 → 藍有利に調整 ・嗅覚の戻し方 → タイミング完璧 ・みかん → ピンポイント嫌がらせ ・写真 → 入手経路不明(※やばい) ・殺虫剤&除草剤 → 事前準備済み
そして。 モスの性質も、完全に理解している。
珠(タマ)
珠、にこっと笑う。
珠(タマ)
しっぽ、ふりふり。
こたつという特等席で。 安全圏から、完璧に盤面をコントロールする。
これが、真の共犯。
リビングの端では。 ギャグみたいな全力戦。
だがその裏では。 知能戦が完成している。
ホラーのような空間操作。 神格相手の精神揺さぶり。
それを、みかん食いながらやってる。
珠(タマ)
珠、もう一房食べる。
珠(タマ)
橙(トウ)
橙は、ほんの少しだけ肩をすくめた。
リビングの惨状。 藍とモスの全力鬼ごっこ。 その中心でぬくぬくしている珠。
橙(トウ)
除草剤でちょっとしおしおになっただけ。 ツタもそのうち戻るし、問題ない。
──そう、思った瞬間。
ノア
カチン。 乾いた音が、空気を切り裂いた。
同時に。 ふっと、世界の光が落ちる。
昼だったはずの空間が、 一瞬で夜の舞台に変わる。
ノア
背後でも前でもない位置から、声。
ノア
振り向くと。 ノアが、そこにいる。
いつもと同じ、穏やかな笑顔。 なのに、どこか“ズレている”。
ノア
声音は優しい。
だがその裏にあるものは、 完全に“観客を楽しませる側”のそれ。
橙(トウ)
橙、きょとんとする。 本当にわからない、という顔。
ノア
一歩、近づく。
ノア
ぞわり。 橙の背中に、寒気が走る。
恐怖なんて、とっくに壊れているはずなのに。
それでも。 “何かが違う”と本能が警告する。
思わず、一歩後ろへ。
──だが。
ノア
耳元で、声。
橙(トウ)
振り向くと。 さっきまで前にいたノアが、真後ろにいる。
距離が、壊れている。
ノア
楽しそうに、両手を広げる。
ノア
条件提示。だがその声には。 “絶対に見つける”という確信が滲んでいる。
橙(トウ)
橙、珍しく戸惑う。
ノア
ノア、顎に手を当てる。 少し考える仕草。
ノア
そして。 カチンコを構える。
ノア
橙の足に、力が入る。
橙(トウ)
さっきと違う。 切り離されている。
なら──逃げ切れるはず。
橙(トウ)
小さく息を飲む。
ノア
カチン。 その瞬間、ノアの姿が消える。
──Ten.
鼓膜に直接、声が響く。
──Nine.
距離感も方向も、わからない。 ただ、確実に“近い”。
橙、即座に動く。
橙(トウ)
影を見る。 だが、本能が拒否する。
橙(トウ)
理由はわからない。 だが、入った瞬間に“終わる”気がした。
視線を走らせる。
庭に立っている、木々の一つ。
橙(トウ)
駆け寄り、手をかざす。 魔術発動。
ぎゅるり、と。 内部を削り、広げる。
さらに、結界。遮断。感知妨害。 ありったけを重ねる。
橙(トウ)
中に滑り込み、 きゅっと体を縮める。
目を閉じ、息を殺す。
──Three.
──Two.
──One.
カウントダウン、終了。
……静寂。そして。
コツ、と足音。
だが、床の音じゃない。 鼓膜に直接響く“足音”。
どこから来るかわからない。 前か、後ろか、上か、下か。
橙(トウ)
橙、動かない。 動けない。
橙(トウ)
ノアは、匂いがない。 気配がなく、存在感すら希薄。
無害そうでいて。 “見つける側”としては最悪の存在。
橙(トウ)
違う、それだけじゃない。
“見つける役を楽しんでいる何か”がいる。
──その時。
ブゥゥゥゥゥゥゥン……
すぐ横。 木の外から、チェーンソーの音。
ノア
すぐ隣から、優しい声で。
確信を持って。
夕方。 さっきまでの喧騒が嘘のように、リビングには静かな空気が流れていた。
……床には、その原因が二つ、転がっている。
藍(アイ)
藍は仰向けのまま、片腕で顔を覆っていた。 荒い呼吸。だが傷はない。あるのは純粋な消耗だけだ。
対してモスは、床に伏したまま、指先すら動かさない。
モス
か細い声。
藍は、ちらりとそちらを見て──
藍(アイ)
と、上着の内側から取り出した写真を、無造作に放る。
モス
モスの触角がぴくりと跳ねる。 反射的に、写真が床に落ちる直前で止まる。
触れないように、ほんの僅かに浮かせたまま。 慎重に。壊れ物を扱うように。
モス
それを見た瞬間、モスの表情が緩む。 悪戯も、報復も、全部どうでもよくなるくらい。
そこに写っているのは──自分の知らない、けれど確かに存在していた、恋歌の笑顔。
静かに、満たされる。
その空気を、あっさり壊す声が一つ。
ノア
モス
モスの表情が引き攣る。 振り向けば、そこにはノア。
そしてその腕には──橙。
完全に力の抜けた身体。 魂がどこかへ行ったような顔で、ぐったりと預けられている。
モス
モスは、目を逸らした。
モス
絶対に何かあった。 だが、絶対に聞いてはいけない。
その後ろから、規則正しい足音。
マキナ
マキナが現れる。
手には分厚い哲学書。まるで最初から最後まで関係なかったかのような顔で。
マキナ
ノアは、少しだけ首を傾げて笑う。
ノア
そして、橙をそっと床に下ろし、しゃがみ込む。
ノア
橙の目線に合わせて、優しく。
ノア
にこり、と笑う。 その笑顔は優しいのに、逃げ場がない。
ノア
そして、少しだけ声音を落とす。
ノア
ノア
橙は、びくりと小さく震えた。
橙(トウ)
か細い返事。 完全に、理解させられている。
その空気を、ぶち壊す声が響いた。
白(ハク)
白だった。
きょとんとした顔。 本当に、何も知らない。
藍(アイ)
橙(トウ)
モス
一瞬の沈黙。
モス
モスが、心底疲れた声でそう言った。 それ以上は、誰も何も言わなかった。
──こうして。
イタズラから始まった大乱闘は、静かに幕を閉じる。
騒がしくて、理不尽で、意味がわからない。 そんな、人外だらけのシェアハウスの三日目も、終わりを迎えたのだった。
コメント
1件
大変お久しゅうございます なんか見たいのあったら言うのだぞ