コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
初めて君と会った日のことを今でも覚えている
晴天で、桜が満開の季節だった
友人と花見に来ていた僕は
桜の下のベンチに座る君を見つけた
桜の花びらが舞い、君の髪や頬にまとわりついていた
僕は無意識に目を向けていた
それに気づいた友人が悪ノリし、君に声をかけた
キミ
その声に振り返った君に僕は声を失った
今までの人生で1番「美しい」と思った瞬間だった
少し潤んでいる瞳や
桜の花びらのような、ほんのりとピンク色に染まった頬を見ていると
思わず交際を申し込んでいた
あの時君は、とてもびっくりした顔をしていた
無理も無い。自分でさえも、びっくりしたのだから
それよりもびっくりしたのは、君の答え
少しの沈黙の後
キミ
そう答えたのだ
桜が美しく満開に咲き誇る頃だった
交際してから1年ほど経った頃だった
君と1ヶ月ほど連絡が取れなくなった時があった
ずっと心配していたら
突然君から電話がかかってきた
何かあったのか問いただしても、ひたすらにはぐらかすばかりで何も教えてくれなかった
僕は諦め、一緒に花見に行くことで許した
桜の花びらが散り始めた頃だった
桜の季節が終わり、夏へと季節が移り変わろうとしている時期
また、君と連絡がつかなくなった
今度は、前より長い間
秋の季節になるまでだった
久しぶりに会った君は、前より痩せているように見えた
心做しか、元気が無さそうにも見えた
相変わらず君は、僕の質問には答えてくれない
ただ、笑って
…いや、少し苦しそうに
笑ってはぐらかす
そんな顔を見ると僕は、何も言えなくなった
桜の葉が散り始めた頃だった
次の年の春が終わる頃
君とまた、連絡が取れなくなった
それも、前よりもっとずっと長い間
君のことを知っている人たちに居場所をきいても
「知らない」そう言われるだけ
君の家に何度訪ねても、誰も出てこない
…頭に嫌な考えが過ぎる
考えないようにするが、どうしても考えてしまう
「事故」や「他の男」の可能性
「他の男」の可能性は低い
…はずだ
君は、嘘をつけるような性格ではないし、そんな不純なことをする人ではないと思っている
そう信じている
それから、また数ヶ月が経った
また突然、君から連絡があった
「いつもお花見をしている場所に来て欲しい」
そんな内容だった
久しぶりの君との連絡に僕は
嬉しさや怒り、不安が混ざりあった気持ちになった
半年以上会ってなかった君は
見るからに痩せていたし
少し触れただけで壊れそうだった
僕を見て微笑む姿は、苦しそうで
何かを決心したような力強さも感じられた
僕は不信に思った
今までに見たことのない表情だった
少し辺りを散策していたら、君が突然立ち止まった
僕はそれに気づき、立ち止まると
君が突然真剣な顔になった
…嫌な予感がした
「何も聞いたらいけない」
本能でそう感じた
でも、僕は何もできずに君の声を聞くことしかできなかった
できるなら耳を塞ぎたい
そう思うが、君があまりにも真剣そうだから、そんなこともできない
少しの沈黙の後
君が一言
キミ
そう言った
…聞き間違えだと思った
笑いながら、もう一度尋ねると
キミ
僕の目を見据え、はっきりと言い放った
なにかの冗談だと思った
…いや、
冗談だと思いたかった
あまりにも突然で
僕は、その言葉を理解するのに時間がかかった
ようやく理解した時に僕は
ボク
そんな問いに君は
キミ
そう言って立ち去っていってしまった
僕はその姿を呆然と見送るしかなかった
ポケットに入った指輪を手にしながら
さっきまで、あんなに楽しかったのに
…プロポーズしようと思ったのに
桜の葉が散りかけた頃だった
それから数ヶ月が経ったある日だった
君から連絡がきたのは
…いや、違う
正確に言うと、君の「親」からだった
必死に何かを訴えかけてきた
何かあったのか尋ねると
「はやく病院に来てくれ」
ということだった
言われた住所の病院に行くと
君のお母さんが入口付近に立っていた
忙しなく動いていて、落ち着きがない
僕が声をかけると
君とそっくりな瞳に涙を含みながら
キミノオカアサン
キミノオカアサン
訳もわからず、後をついて行くと
真っ白なシーツの上に横たわる
痩せ細った君がいた
周りには、看護師や医師と思われる人がいた
腕時計を見て、時間を読み上げている
イシ
目の前で起こっている光景に言葉が出なかった
ボク
夢…
夢だと信じたかった
今起きていること全て
君は、僕が名前を呼びかけても返事をしない
ただ眠っているだけに見える君の
真っ白な頬に触れると
陶器のように冷たく
やっと僕は理解した
君が「帰らぬ人」となったことを
桜の葉が全て散った頃だった
君の葬儀などが片付いて
僕の身の回りが一段落したとき
僕は、君のお母さんから渡された君の手紙を読もうと思った
君と出会った桜の下のベンチで
「陽介くんへ 私は陽介くんに謝らないといけないことがあります。 一つ目は、突然、別れを告げたこと。 二つ目は、突然連絡を断ったこと。 多分、陽介くんのことだから、私のことをすごく心配してくれたと思う。 でも、私はどうしても連絡をすることができませんでした。 私は、心臓に重い病を抱えていました。
ボク
最初、陽介くんのお友達に話しかけられたときは、本当にびっくりしました。 陽介くんに交際を申し込まれたことも。 あの時の陽介くん、顔が真っ赤でとっても可愛かったよ、写真を撮りたいくらいに(笑) 交際の申し込みにOKをしたのは、もう、どうにでもなれっていう浅はかな気持ちだったの。 でも、私はあの時にOKをして本当に良かったと思っているの。
ボク
それがわかったとき、余命はもう、一年程しかない、そう言われました。 陽介くんと出会ったあの日のできごとです。
ボク
多分、この手紙を読んでいる頃には、私はいないんだろうね。 私は、どうしてもこの病気を陽介くんに打ち明けることができませんでした。 もし、打ち明けたら、陽介くんに嫌われるんじゃないか、逃げられるんじゃないかって思ってしまって。 陽介くんはそんな人じゃないってわかってる。 でも、不安だったの。 結局、一方的に別れを告げて、逃げてしまってごめんなさい。
ボク
いつ死ぬかわからない私と一緒にいて、陽介くんの人生を私の勝手で縛り付けたくないと思って。 余命より、長く生きてる私は毎日、今日こそ死ぬんじゃないか、今日は死なずに生きた。そんなことの繰り返し。でも、陽介くんとの思い出が私の生きてる意味だった。 死んでまでもねちっこくてごめんね。
ボク
最後に、陽介くん! 私は、あなたと一緒にいられて幸せだった!出会った瞬間も、一緒にデートした場所も、電話やメールをしたことも、全部、ぜーんぶ私の宝物! 私の好きな花は、桜。 あなたと出会えた場所にたっていた桜の木に咲いていた桜が一番好き! 本当に、あなたが好きだった! 一緒にいた全ての瞬間が、幸せで、何よりも大切だったの! だから、陽介くんも他の子見つけて幸せになりなよ? 一生独身とか笑えないからね? ありがとう。 そして、さようなら。 咲桜」
ボク
僕は、手紙を読み終え、ベンチの傍に深い穴を掘った
掘り終え、僕はポケットから指輪を出した
君にあげるはずだった指輪
数滴の涙と一緒に土に埋めた
桜の蕾が膨らみ始めた頃だった