ゆあん
家のチャイムが鳴って 昨日同様玄関の前で既に待機していた 俺はすぐに玄関の扉を開けた。
そんな俺の異常な反応速度に 驚く素振りも見せずゆあんくんは 俺にそう言い放った。
じゃぱぱ
ゆあん
じゃぱぱ
じゃぱぱ
ゆあん
じゃぱぱ
ゆあんくんと話しているとだんだん 自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
絶対に昨日は金曜日だった と思っていたけど 勘違いだったかもしれない。
大きな大きな勘違い。
一度でも 「あの日を繰り返しているのかも」 なんてファンタジーな事を 考えた事を思い出し自嘲する。
そんなことありえない。
そんなことよりも、
昨日はあんなに機嫌が良くなかった のになんだか今日はそれもなかった みたいに振る舞っている。
俺はそれに安堵しいつもより 上機嫌で学校に向かった。
しかし学校での生活も 違和感が沢山あった。
昨日体育の時間で捻挫したはずの クラスメイトに朝会ってみたら なんと普通に歩いていたのだ。
「捻挫してるのに歩けんの?」
と聞くと捻挫なんてしてない と言われた。
その後体育の時間で彼は捻挫をした。
昨日売店前で 不良同士の衝突があった。 とんでもなくくだらない内容で 驚いた記憶がある為 印象に残っているが 今日もまた全く同じ内容の 喧嘩をしていた。
昨日の一日が丸々正夢 だったのだろうか。
予知夢を見たという事なのだろうか。
なんにせよ これが偶然でない事は分かる。
そんなこんなで破天荒な一日を 終えた俺は部活が終わった後 ゆあんくんに一緒に帰ろうと 声をかける為にゆあんくんを探した。
部活のメニューも昨日と全く同じで やはり変な感じがしたので念の為 ゆあんくんと帰ろうと決めたのだ。
あんな夢を見てしまったんだ。 当然だろう。
しかしさっきまで部室に居たはずの ゆあんくんの姿が見当たらない。
他の部員に聞いてみた所 俺が着替えてる時にゆあんくんは ろくに着替えもせず大急ぎで 出ていってしまったらしい。
俺は走った。
何故だか分からないが ゆあんくんの顔を見て 安心しなければという義務感に 駆られて足を止められない。
部活直後の足は 疲労が溜まりパンパンで まるで走れるような足ではない。
それでも走った。
それほどの事をする意味はなんだろう と考えても無駄なんだ。
ただがむしゃらに ゆあんくんの背中が見えてくるまで 走り続けた。
じゃぱぱ
ゆあんくん あまりにも走りすぎじゃないか。
同じ時間に部活が終わっている というのに何故こんなにも ゆあんくんの背中が見えないんだ。
そう思わず口に出した時 やっとゆあんくんの背中が見えた。
大きな声でゆあんくんの名前を呼ぼう と大きく息を吸った時。
ゆあんくんは 線路に吸い込まれていった。
その時初めて踏切警報音が鳴っていた ことに気が付く。
吸い込んだ息の分 俺は大きな声が出た。
我ながら聞き覚えのある 叫び声だった。 鮮明な叫び。
耳に残るは踏切の音。 そして俺の叫び声。 そして蝉の鳴き声。
なのにゆあんくんの声が無い。 笑い声が無い。 こんなに沢山の音があるのに。
一番聞きたい音が無い。
ゆあんくんはまた 俺の目の前で死んだ。
コメント
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ん〜、控えめに言って神ですね!!なので1000いいねしました! 新連載の今後めっちゃ楽しみですワクワクしてます! いつも面白い作品ありがとうございます!尊敬します…!