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第1話 - あ

2023年08月27日

#恋愛

結城　真矢

メイコ

ハルカ？

メイコ

あのさ、今日も一緒に帰れる？

ハルカ

うん！いいよ！

ハルカ

帰ろう！

ハルカ

そういえば、最近どう？

ハルカ

ピアノの練習の方は

メイコ

そのことを今日、帰る時にメイコに相談しようと思ったんだよね

メイコ

でも、今話してもいいかな？

ハルカ

もちろん、メイコが話したいときにいつでも聞くよ

メイコ

ありがとう

メイコ

本当に、ハルカには助けてもらってばかりだよ

ハルカ

そんなことないよ、メイコも私のこと、助けてくれるじゃん

ハルカ

で、どうしたの？またおばさんのことで？

メイコ

うん

メイコ

私、B大学を志望しているんだけど、ヴァイオリンの音楽推薦で行きたいと思っているんだよね

ハルカ

そうなんだ！いいじゃん！

メイコ

でも、お母さんが私の今のヴァイオリンのスキルじゃ無理に決まってる、って

メイコ

言ってきて...

メイコ

推薦枠が多いC大学にしなさい、って言ってきたの

ハルカ

そっか...

ハルカ

私はメイコのヴァイオリンの演奏、好きだよ

メイコ

本当？

ハルカ

うん、繊細だし、1つ1つの音を大事にしている感じがあると思うよ

ハルカ

テンポの速い曲になるとワンテンポ遅れちゃうと気があるけど、

ハルカ

そこを直せるように練習を強化したら、きっとスキルは上達するよ！

ハルカ

メイコならできるよ！頑張って！

メイコ

ハルカにそう言ってもらえたら、何か自身湧いてくるよ

メイコ

ありがとう

ハルカ

そしたら、今度一緒に練習する？

ハルカ

メイコにも、私の演奏聞いてほしいし

メイコ

私がアドバイスなんて、できる立場じゃない気もするけど...

ハルカ

私はメイコの言うこと、信頼してるよ！

ハルカ

はっきり思ったこと言ってくれるし、遠慮しないから、

ハルカ

何が悪いかはっきりわかるもん

ハルカ

私のお母さんに聞いても、よくわかってないから

ハルカ

「いいんじゃない？とか適当な返事しかもらえないからさ」

ハルカ

これからも、私の練習付き合ってよ

メイコ

もちろんだよ！

メイコ

ちなみに、ハルカはどこの大学を受けるの？

ハルカ

私は少し挑戦なんだけど、Ａ大学にしようと思っているよ

メイコ

そうなの！？すごいね！

メイコ

国内でもトップ5に入るような有名音楽大学じゃん！

メイコ

有名音楽家も、数人底の大学出身なんでしょ？

ハルカ

うん、でもそれよりも、

ハルカ

去年の夏にオープンキャンパスに行ったときに、在学生の演奏に圧倒されて、

ハルカ

私もその大学のオーケストラに入って一緒に演奏したい、って思ったんだ

メイコ

そっか～！

メイコ

さすがメイコだね！

ハルカ

そんな、大げさだよ

メイコ

だって、校内で1名しか推薦枠ないんでしょ？

メイコ

相当才能持っている人じゃないと、受からないに決まってる、って

メイコ

そこ行けるのは、ハルカしかいないよ

ハルカ

ありがとう、メイコ

ハルカ

そう言ってもらえると、何か自信持てるよ

ハルカ

そしたら、明日朝練で7時に音楽室来れる？

メイコ

うん、了解！

ハルカ

じゃあ、明日待ってるね、おやすみ

メイコ

おやすみ

～翌日の昼休み～

ハルカ

メイコ、あのね、お願いがあって...

メイコ

うん、どうしたの？

ハルカ

今日、朝練した時にヴァイオリンケースの中に、家のガキ忘れちゃった気がするんだよね

メイコ

マジ？取りに行こうか？

ハルカ

いい？お願いしても

メイコ

うん、私午後の授業に音楽あるから、音楽室行くよ！

メイコ

どこにあるの？

ハルカ

えっとね、奥の準備室のところを入って、左を曲がったところの棚にあるの

ハルカ

大事だから、あんまり人に触られないところに置いてあるんだ

メイコ

長い間使ってるもんね

ハルカ

うん、弦の張り具合もね、実は毎日確認して良い音色が出せる状態にしてるんだ

メイコ

へ～そうなんだ

ハルカ

あんまり人に触られたくないから、信頼しているメイコにしか言わないけどね

メイコ

ほんと、ヴァイオリンが大好きなんだね

ハルカ

うん、もちろん！

ハルカ

A大学を受ける前に、校内で実技テストがあるんだけど、

ハルカ

もうその日にちも近いし、一生懸命練習しないと、だね！

ハルカ

私、Ａ大学受かるために朝練も頑張ってきたから、絶対に受かりたい！

ハルカ

って思ってるよ！

メイコ

さすが！ハルカ！

メイコ

やる気満々だね！

ハルカ

メイコも、実技テストあるの？

メイコ

うん、あるよ

メイコ

音楽の実技テストはユカリ先生が見るらしいね

ハルカ

そうなんだ？

メイコ

1人ずつ音楽室に入って、演奏するらしいよ

メイコ

演奏順位は、志望大学ごとにまとめられるんじゃなくて、ランダムなんだって

ハルカ

じゃあ誰がどの大学受けるかは、教室内にいる人しか分からないね

メイコ

お互いに教え合わない限りは、そうなるね

ハルカ

まあ、でもその方が少し気が楽だよね

ハルカ

余計な心配しなくて済むからさ

メイコ

確かにね

ハルカ

私、意識しすぎると緊張してくるもん

メイコ

私もだよ

ハルカ

やっぱそうだよね、人生かかってるし

メイコ

うん、いよいよ明後日だね

メイコ

お互い頑張ろう！

ハルカ

うん、頑張ろうね！

～実技テスト当日～

ハルカ

メイコ、気のせいだったら申し訳ないけど、

ハルカ

さっき実技テストの時に持ってたヴァイオリン、私のじゃなかった？

メイコ

気のせいじゃないよ、ハルカのやる

ハルカ

えっ？じゃあ、メイコが実技テストの前に私に渡してくれたのは何なの？

ハルカ

「持って来てあげるって言って私に渡して、今私が持っているのは何なの？」

メイコ

音楽室の、いつメンテナンスされたか分からないやつだよ

ハルカ

え？なっ、何でそんなことするわけ！？

メイコ

メイコのヴァイオリン、よくメンテナンスされてるんでしょ？

メイコ

それだったら、メイコの良いヴァイオリンを使うに決まってるじゃん

ハルカ

何でよ...そんなひどいこと、

ハルカ

そんな自分のヴァイオリンじゃないと、いつもの調子出せないこと、

ハルカ

ハルカが一番よく知っているでしょ！？

メイコ

知ってるよ！

メイコ

だから、邪魔しようと思ったの！

ハルカ

は？邪魔って、どういうこと？

メイコ

いつも、ハルカばっかり上手くいって...

メイコ

同じ年齢でヴァイオリン始めたはずなのに、

メイコ

ハルカばかりどんどん上手くなっていって、

メイコ

そんなの嫌だったの！

メイコ

私のこと、置いて行かないでよ...

ハルカ

置いていくなんて、別にそんなつもりじゃないよ

メイコ

じゃあ、私がＡ大学に推薦した、って言っても怒らないよね？

ハルカ

え？なんて！？

メイコ

私、ハルカのヴァイオリン使ってＡ大学に志望を変えたの

メイコ

いつもより、全然良い音色出せて、びっくりした

ハルカ

そんな勝手なこと...

ハルカ

酷くない！？

メイコ

いいじゃん！これまで、ハルカばかり周りから褒められていい思いしてきたんだから、

メイコ

そろそろ譲ってよ！私だって褒められたい！

メイコ

それに、ハルカは県外のＡ大学に行くより、県内のＢ大学かＣ大学に行く方が、

メイコ

親御さんも喜ぶでしょ

ハルカ

親は私がA大学に行くこと、応援してくれてるよ！

ハルカ

それに、褒められてきたのは私がそれなりに努力してきたからだよ！

ハルカ

もともと、才能なんてなかったし...

ハルカ

それでも上手くなりたかったから、頑張ってきたんじゃん！

メイコ

でも、もう結果はほぼ決まったし、

メイコ

私だって人生かかってるから、

メイコ

ごめんね、ハルカ

ハルカ

ちょっと！

ハルカ

勝手なメイコの行動で私の人生、左右されたくない！

メイコ

今までハルカの引き立て役になってあげてきたんだから、

メイコ

もう十分でしょ！

ハルカ

は？引き立て役！？

メイコ

私の隣に入れて、周りの大人から「上手ね、上手ねって言われて...」

メイコ

もう十分じゃん！

ハルカ

そんな話してるんじゃないって

メイコ

悪いけど、私これからユカリ先生と話あるから、

メイコ

じゃあ、またね

～30分後～

メイコ

ハルカ...

メイコ

ユカリ先生に何か言った？

ハルカ

え、何かって...？

ハルカ

試験受けただけだけど？

メイコ

ユカリ先生に、不合格出されたの...

メイコ

ハルカのヴァイオリン使ったら、

メイコ

「それハルカさんのヴァイオリンよね？って...」

メイコ

ハルカ、私が使ったこと先生にばらしたんでしょ！？

ハルカ

別に言ってないって...

ハルカ

誰のヴァイオリン使おうが、違反には関係しないし、

ハルカ

言っても意味ない、って思ったもん

メイコ

あっ、ユカリ先生からメッセージだ、

メイコ

また後で、連絡するから

ユカリ先生

何で、ハルカさんのヴァイオリンを使っていたの？

ユカリ先生

本人から許可はもらったのかしら？

メイコ

いえ、もらってはいないですが...

メイコ

でも、どんなヴァイオリンを使ってもいいですよね？

メイコ

私、今までで一番いい成績を出せたと思っていますし、

メイコ

先生もそう言ってくださいましたよね！？

ユカリ先生

そういう風に言ったけど、やっぱり、取り消しかしらね

メイコ

え？何でですか？

ユカリ先生

人がせっかく苦労をかけて調整したヴァイオリンを使うなんて、最低と思わない？

ユカリ先生

その人の努力を奪った、ってことになるのよ？

メイコ

努力を奪うつもりじゃなかったんです

メイコ

ただ、少しハルカの力を借りようと思っただけです

メイコ

すいません、ばれなきゃいい、って思ってしまって...

ユカリ先生

あのね、自分で弦の張り具合を調整したってことは、

ユカリ先生

良い音色は本人にしか出せないの

ユカリ先生

引き具合とか、止め具合とかは人それぞれ力の加減が違うでしょ

ユカリ先生

あなたは上手くいった、と思ったと思うけど、

ユカリ先生

ハルカさんの音色に似てて、私、確信したの

ユカリ先生

そういうわけで、メイコさん、あなたは失格ね

メイコ

えっ！？失格なんて...

ユカリ先生

当然のことじゃない？

ユカリ先生

自分が何をしたか分かってる？

ユカリ先生

彼女が朝早くに学校に来て個人練習をしてきた努力を踏みにじったの

メイコ

え？朝ですか？

ユカリ先生

そうよ

ユカリ先生

最近ね、ほぼ毎日、朝に来て音楽室で練習してたわ

ユカリ先生

私も朝学校に来るの早いから、あの子の音色、覚えちゃったの

ユカリ先生

たまに、個人練習も頼んできたの

メイコ

え？そんな...

ユカリ先生

知らなかったと思うけど、あなたが見ていないところで人一倍頑張っていたの

メイコ

でも、ハルカはそれよりも、もともと才能がある子なんです

メイコ

いっつも大人に褒められてばかりで...

ユカリ先生

その才能って、作ってきたものだと思うけど？

メイコ

作ってきた？

ユカリ先生

彼女、入学当初はチューニングにすごい時間がかかったけど、

ユカリ先生

練習するうちに自分の型を見つけたみたいね

ユカリ先生

あなたが騙して渡した学校のヴァイオリンも、

ユカリ先生

本番前にチューニングを終わらせてたし

ユカリ先生

しばらく誰も使ってないヴァイオリンにしては、

ユカリ先生

良い音色が出ていたわ

メイコ

え？待ち時間の短い間でチューニングしたんですか？ハルカが？

ユカリ先生

そうよ、あなたにできる？

ユカリ先生

無理かしらね

ユカリ先生

人がしっかり音を揃えたヴァイオリンを使って、

ユカリ先生

ズルして実技テストに臨むような人には...

メイコ

すみませんでした

メイコ

私、どうしてもハルカより上の大学に行きたかったんです

メイコ

だけど、ハルカがそんなに努力していたなんて知らなくて、

メイコ

ついこんなこと...

ユカリ先生

先に彼女に謝った方がいいんじゃないかしら？

ユカリ先生

ついでに、もう一度再試験を受けられることも伝えておいてくれる？

メイコ

え？再試験ですか？

ユカリ先生

そうよ、

ユカリ先生

それで、あなたには推薦枠は与えないから

ユカリ先生

そのつもりでね

メイコ

え？あの、私音楽大学以外は考えていなくて

ユカリ先生

自分から人生を棒に振るなんて、残念なことしたわね

ユカリ先生

一生、悔やむと思うわ

～後日談～

ハルカ

私は再試験を受けた後、無事Ａ大学に受かることができました

ハルカ

メイコとは学校で会うことはありますが、何も話していません

ハルカ

本人から謝られてもいないけど、別にもう気にしていません

ハルカ

音楽大学の推薦はなくなったと聞き、

ハルカ

親からも厳しく叱られてショックを受けていると聞いたからです

ハルカ

なので、私から話すことは何もないですし、これからも関わらないと思います

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結城　真矢

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