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その日の宮本は、なんとなく気分が良かった。鼻歌交じりに夜道を進むその足取りは軽やかなものだ。つい一昨日は冷蔵庫にもたれかかって、何もせずにじっとしていたはずだったが…気分障害の性とでも言うべきか、いまの宮本にその面影はなかった。近場のコンビニでマルボロとアイスを2本買ってから、公園へと歩を進める。夜風が耳の辺りをすうっと抜けていって、心地が良い。ちかちか瞬く夜空の灯火たちを見つけて、八幡よりここのが綺麗だな、と宮本は思った。
公園のベンチに腰掛けて、ジッポライターを取り出す。夜空の下、くそまずい煙で肺をいっぱいに満たす。これ程までに尊くて、幸せなことはきっとこの世には存在しないのだろうと宮本は考えていた。もし仮に存在していたとしても、きっとそれは自分の手では届かない場所にある。それをはっきりと理解していたからこそ、宮本は満たされていた。余計な期待はかえって身を滅ぼす羽目になること。
そうやって文字通り滅んでいった人間を、宮本は見たことがある。あいつみたいにはなりたくないよな、内心自嘲しつつも視線を落とした時、宮本ははじめてその人影の存在を認めた。