黒川竜也
危ねぇ!!!

一色茉莉
え?

茉莉の母
……り

茉莉の母
…つり

茉莉の母
まつり!!

一色茉莉
……ぉ…かぁ…さん…

茉莉の母
よかった、気がついた…あなた事故にあったのよ?本当に心配したんだから…!!

一色茉莉
事故…?

一色茉莉
お、お母さん!!

一色茉莉
私と同い年くらいの、男の子も運ばれてこなかった!?

茉莉の母
男の子?

一色茉莉
私を助けてくれたの!!

一色茉莉
生きてるよね!?

茉莉の母
お、落ち着きなさい。

茉莉の母
隣を見て。

一色茉莉
黒川…竜也…

黒川竜也
……

茉莉の母
まだ、意識は戻ってないけど命に別条はないみたいよ。

一色茉莉
……

一色茉莉
よかった……

茉莉の母
あなたも少し入院が必要みたいよ。

茉莉の母
彼が目覚めたら、きちんとお礼を言いなさいね。

一色茉莉
…ん

一色茉莉
朝…?

黒川竜也
あ、起きた

一色茉莉
…!?

一色茉莉
ど、どちら様…!?

黒川竜也
黒川竜也。わかるだろ

一色茉莉
…!あ!

一色茉莉
ええと、事故の件では本当に、ありがとうございました!!

一色茉莉
どこか怪我は…?

黒川竜也
ああー

黒川竜也
左目見えなくなった

一色茉莉
…え

黒川竜也
まぁ片目だけだし別にそこまで問題はねーよ

一色茉莉
え…そんな…

暁月梅香
何言ってるの!?

一色茉莉
!?

一色茉莉
(え、いつからそこに?)

暁月梅香
竜也!片目が見えなくてどうやって黒川組を継ぐの!?

暁月梅香
あなたはその為に生まれてきたのよ!?

黒川竜也
梅香

黒川竜也
今はいいだろ…そんな話

暁月梅香
よくない!!

暁月梅香
あなた!!

一色茉莉
は、はい

暁月梅香
竜也は黒川組を背負う男になる人間なのに…!

暁月梅香
なんてことしてくれたの!?

一色茉莉
あ…

一色茉莉
……申し訳ありませんでした……

暁月梅香
そんなんで済むと思…!!

黒川竜也
おい。

暁月梅香
…っ

黒川竜也
出ていけ。うるさくて休めない。

暁月梅香
……!!

黒川竜也
……ふぅ

黒川竜也
悪いな。あいつ、血が上るといつもああなんだ。

一色茉莉
……いえ。

一色茉莉
……あの

一色茉莉
さっきのお話、お聞きしてもよろしいですか?

黒川竜也
そんな固くなくていい。お前と1つしか変わらないから、俺。

黒川竜也
あー、黒川組てわかる?

一色茉莉
あの、暴力団の?

黒川竜也
まぁそんな感じ。いわゆるヤクザだな。

黒川竜也
俺はそこの人間。現組長の息子。

一色茉莉
……

黒川竜也
ひいたか?

一色茉莉
……いえ。

黒川竜也
気を遣わなくていい。

黒川竜也
まぁ、そーゆー事なんだよ。

一色茉莉
……その

一色茉莉
片目見えないと…組長にはなれないんですか。

黒川竜也
……まぁ、喧嘩するにおいては不利だしな。

黒川竜也
俺は生まれた時から組長になるって決められてただけだから、別にやりたい訳じゃないんだけど。

一色茉莉
……

黒川竜也
まぁ、そんな気にしなくていい。

黒川竜也
お前も頭と脚怪我してるだろ。ちゃんと治せよ。

黒川竜也
ちゃんと守ってやれなくて悪かったな。

一色茉莉
そんな!

一色茉莉
命を助けていただいただけで十分です!!

一色茉莉
それに、あなたの方が怪我の具合ひどいのに…

黒川竜也
ああ、まぁな。

黒川竜也
んじゃあまぁ、治るまでよろしくってことで。

一色茉莉
よろしく…?

黒川竜也
あー、別に慰謝料払えとかのよろしくじゃねーよ笑笑

黒川竜也
友達!てこと。

一色茉莉
とも、だち…

黒川竜也
ダメか?

一色茉莉
い、いえ!

一色茉莉
よろしくお願いします!

黒川竜也
茉莉。

一色茉莉
あ、黒川くんおはようございます。

黒川竜也
俺今から検査。茉莉は?

一色茉莉
私は…今日は特に何もないですよ。

黒川竜也
んじゃ、昼一緒に食わね?

一色茉莉
はい!

一色茉莉
屋上ですよね。

黒川竜也
おぅ。

お昼を屋上で食べたり、病室でお話したり、天気のいい日には散歩に出かけたり。
黒川組の話が、心のどこかに引っかかったままでいた……
一色茉莉
(今日は黒川くんが1日検査かー…)

一色茉莉
暇だな…

暁月梅香
暇ならツラ貸しなさいよ

一色茉莉
え?

一色茉莉
あ、この前の…

暁月梅香
暁月梅香。竜也の親戚。

暁月梅香
ちょっと話あるんだけど。

一色茉莉
え、は、はい。

暁月梅香
で、話なんだけど。

暁月梅香
来月、黒川組の組長選挙があるの。

一色茉莉
……え?

暁月梅香
竜也の親父さん…現組長の黒川竜吉が引退を宣言してね。

暁月梅香
来月、新組長を決める選挙……まぁ、うちは喧嘩で決めるんだけど。それがあるのよね。

一色茉莉
……

暁月梅香
竜也の怪我は、それに間に合いそうなの?

一色茉莉
……怪我自体は…もう良くなってきているって聞いてますけど…

一色茉莉
…その

暁月梅香
目のこと?

一色茉莉
……はい

暁月梅香
確かに、左目見えないと喧嘩はきついか…

一色茉莉
黒川くんが、組長になれなかったら……黒川くんはどうなるんですか?

暁月梅香
…はぁ。

暁月梅香
これだから普通の人間は話が合わないのよね。

一色茉莉
…え?

暁月梅香
前にも言ったでしょ?「竜也は黒川組の組長になるために生まれてきた」って。

暁月梅香
組長になれなかったのなら、黒川での竜也の居場所はなくなる。

一色茉莉
そ、そんな…家族なのに?

暁月梅香
…家族?

暁月梅香
…フッ

一色茉莉
な、なんですか

暁月梅香
ほんと甘いね考えが。

一色茉莉
え?

暁月梅香
うちの家系はね、「家族」なんて生ぬるい考え方はしないの。

暁月梅香
「使えるか使えないか」そのどちらか。

暁月梅香
使えないと判断されたものの中には、悲惨な拷問を受けた者や、残虐な方法で殺された者もいた。

一色茉莉
そ、そんなの!犯罪…

暁月梅香
そうよ!?

一色茉莉
(いたっ…梅香さん…女の子なのになんて力…)

暁月梅香
私たちは犯罪の中で生きてるの!それは別に何を言われようとも構わない。正しくない生き方だってことくらい分かる。

暁月梅香
けど仕方ないの!黒川の家系で生き残るためには!

一色茉莉
……

暁月梅香
私は「暁月」という分家だからそこまでひどい扱いは受けない。

暁月梅香
でもあいつは違うの。黒川の純粋な血筋を持つ唯一の子なの。

一色茉莉
……どうしてその話を私に?

暁月梅香
……竜也を死なせたくない。

一色茉莉
……

暁月梅香
もし最悪のことになったら死んでも呪うから!!

一色茉莉
!!

暁月梅香
あともうひとつ。

暁月梅香
あんた、竜也に気があるみたいだけど。

一色茉莉
っ、え!?

暁月梅香
私は竜也をあんたなんかには渡さない。

一色茉莉
え……

暁月梅香
それだけ。

一色茉莉
気がある…?私が、黒川くんに?

一色茉莉
ていうか今の話的に…梅香さんは黒川くんが好き?

一色茉莉
嘘でしょ…

一色茉莉
いやそれより何とかして黒川くんを助けなきゃ…

一色茉莉
私に…できることは…

看護師
黒川さーん…検査しましょうかー。

黒川竜也
あ、はい

黒川竜也
あの、茉莉は?

黒川竜也
朝からいないんですけど

看護師
…ああ……

看護師
今日はお出かけになったみたいですね。

黒川竜也
お出かけ?大丈夫なんすか?

黒川竜也
あいつまだ頭治ってないのに?

看護師
許可が出たので大丈夫ですよ。

黒川竜也
…

黒川竜也
そ、そうすか…

暁月梅香
逃げずに来たのね。

暁月梅香
まさか、あんたからこんな提案が出ると思わなかったわ。

一色茉莉
……

暁月梅香
もう一度聞くけど。

暁月梅香
ほんとにするの?

一色茉莉
…はい。

暁月梅香
あんたがそんなことをしても、竜也にそれが伝わることは無いのよ?

一色茉莉
むしろ知られたくないです。

暁月梅香
あんたまだ病み上がりだし、何より普通の女の子が。

暁月梅香
黒川の男達、本気でくるわよ。大丈夫なの?

一色茉莉
大丈夫…ではないかもですけど。

一色茉莉
私が黒川の人たちと対戦して、30分気絶せずに耐えれたら、黒川くんを組長にしてくれるんですよね?

暁月梅香
まぁ、竜吉さんはその条件飲んだみたいだけど

暁月梅香
半殺しにされるわよ…

一色茉莉
…もう、やるって決めたので。

暁月梅香
…

暁月梅香
そう。

黒川竜吉
…来たか、女。

一色茉莉
…こんにちは。

黒川竜吉
梅香から脅かしは聞いてきただろうが…

黒川竜吉
本当にやるのか?

一色茉莉
はい。

黒川家の男
なに即答してんだてめぇ笑笑

黒川家の男
女が勝てるわけねーよ

黒川家の男
さっさと帰った方が身のためだよ?笑

黒川家の男
やめろよ、せっかく面白いものが見れそうなんだから笑笑

一色茉莉
…何と言われてもやめません。

黒川竜吉
…うむ

黒川竜吉
では、10分後、懲戒部屋で始めよう。

黒川竜也
はぁっ、はぁっ……

黒川竜也
(くそっ、あの看護師、何か怪しいと思ったらやっぱり嘘ついてやがった…!)

黒川竜也
茉莉…黒川に行って何をする気なんだ!?

暁月梅香
……10分たったわね

暁月梅香
……いくよ、一色茉莉

一色茉莉
はい。

暁月梅香
では…はじめて。

黒川家の男
うらぁ!!

一色茉莉
…!!

黒川竜吉
(ほぉ。)

黒川家の男
え?避けたぞ?

黒川家の男
なんだお前、割と動けるんだな。

一色茉莉
……

黒川家の男
こっちは3人いるんだぜ?

黒川家の男
ああ。さっさとやるぞ

一色茉莉
……

黒川家の男
うらぁ!!

一色茉莉
……っ

黒川竜吉
(あの速さが限界、か)

黒川家の男
うらぁ!!

一色茉莉
うぁっ!!

暁月梅香
…!!

黒川家の男
あーあ、顔面か笑笑

黒川家の男
青くなりそー笑笑

一色茉莉
(い、痛い)

一色茉莉
(視界が歪む…)

一色茉莉
(黒川くんは、こんな歪んだ視界の中生きてるんだ)

一色茉莉
(私のせいで。)

黒川家の男
俺ら女だから手を抜くとかねーから笑

一色茉莉
(勝たなきゃ…)

一色茉莉
(30分、耐えなきゃ!)

黒川家の男
おら!!

黒川竜吉
(ほぉ)

黒川竜吉
(さっきより速くなったな……)

一色茉莉
はぁっ、はぁっ、

黒川竜吉
(だが体力がもたんな。気合いだけでどうにかなる差ではない…)

黒川竜吉
(これはもう、勝負ありか…)

一色茉莉
はぁっ、はぁっ…

暁月梅香
一色……

黒川竜也
まつりぃぃっっ!!!

黒川竜吉
む?

黒川家の男
あ?

暁月梅香
竜也!?

一色茉莉
はぁっ…

一色茉莉
(黒川くん…来たらダメ…なのにもう…)

一色茉莉
(声が…でな…)

黒川竜也
茉莉!!!

暁月梅香
一色!!!

黒川竜吉
……勝負ありだな。

黒川家の男
ふ、ふっ、ちょろ。

暁月梅香
あんた何言ってんの!?こんな一般人にあんなに拳よけられて!!

黒川家の男
う…梅お嬢…そんな怒らず、ね笑

黒川竜也
茉莉、茉莉!!!

一色茉莉
……

黒川竜也
まつ…

一色茉莉
くろか…わくん…

一色茉莉
ごめん…ごめんなさい…

黒川竜也
何言ってんだよお前自分の状況分かってんのかよ

黒川竜也
顔殴られたなこれ。

黒川竜吉
竜也。

黒川竜也
…!

黒川竜也
組長。

黒川竜吉
見ての通りだ。その女は負けた。お前は組長にはさせない。

一色茉莉
……っ

黒川竜也
…ああ。分かってる。

黒川竜吉
……

黒川竜也
つーかな!俺はもう組長どころか、黒川家から出るつもりなんだよ!!

暁月梅香
!?

黒川竜吉
なに?

一色茉莉
え……

黒川竜也
ここ最近…茉莉と過ごしてて…これまでの自分の生き方と…これからの生き方について、考えてみたんだ。

黒川竜也
…茉莉といるとあったかくて、心地いい。黒川にいたら感じられなかった、初めての感覚。

暁月梅香
…

黒川竜也
俺は分かったんだ。ずっと、生まれてから組長になって喧嘩して死ぬだけの人生を嫌がっていたってことを。

黒川竜也
茉莉がくれたような、人の温かさを欲してたってことを!!

黒川竜吉
……

黒川竜也
俺は黒川の名を捨てる。こんな、人を、ましてや女を殴って平気でいられるような生き方はしたくない。

黒川竜吉
……出ていくか。

黒川竜也
はい

黒川竜也
……お世話になりました

一色茉莉
黒川く…

黒川竜也
茉莉、もう俺は黒川くんじゃねーよ

黒川竜也
竜也、て呼んで。

一色茉莉
……竜也…くん…

暁月梅香
……竜也

黒川竜也
梅香……

暁月梅香
…私は、あんたの判断は正しいとは言えない。

黒川竜也
…うん

暁月梅香
でもっ!!間違ってないと思ってるから!!あんたが言ったこと全部!!

黒川竜也
…!

一色茉莉
梅香さん…

黒川竜也
…梅香……ありがとう

暁月梅香
うん

暁月梅香
さよなら…竜也

暁月梅香
茉莉も…

一色茉莉
……はい…

けどその表情は、スッキリとした、初めて見る彼女の笑顔だった。
黒川竜也
とりあえずよかった、頭の傷口開いてなくて。

一色茉莉
……勝手なことしてごめんね…

黒川竜也
ホントだよ何してんだよお前。

黒川竜也
俺マジで焦ったんだからな?

一色茉莉
はい…

黒川竜也
ったくよー、交番行って「女探してるんだ」っていったら職務質問されるしよ。

黒川竜也
髪染めてたら誰でも不良扱いしやがるんだよなアイツらは。

一色茉莉
…名前捨てるってほんと?

黒川竜也
え?

黒川竜也
ああ。

一色茉莉
……これから、どうやって生きてくの。

黒川竜也
……そりゃー、

黒川竜也
バイトして頑張る?

一色茉莉
……あのさ

一色茉莉
お母さんに何とかしてもらえないか聞いてみるよ

黒川竜也
え?

一色茉莉
命の恩人だもん、何とかしてくれると思う

黒川竜也
まじで?あざす!

黒川竜也
感謝しかねー

黒川竜也
…いろんな意味で。

一色茉莉
え?

黒川竜也
言っただろ?お前に会って俺は変わったんだ。

黒川竜也
人の温かさも知ったし、真っ当に生きたいって願望もいだけた。

黒川竜也
名前を捨てる決心ができたのもお前のおかげ。

黒川竜也
本当…ありがとう

一色茉莉
…私こそ。

一色茉莉
あなたが私を助けてくれなきゃ、今私は生きていないから。

一色茉莉
…ありがとう

黒川竜也
…茉莉

一色茉莉
はい

黒川竜也
……俺が

黒川竜也
真っ当な生き方をしたいって思ったのは

黒川竜也
お前に釣り合う男になりたかったからだ。

一色茉莉
え?

黒川竜也
自分の悪い思い出、繋がりは断ちたかった。

黒川竜也
お前はいつだって優しくて誠実だったから。

一色茉莉
…そんなこと

黒川竜也
……茉莉

黒川竜也
まぁ、もうわかってると思うけど。

黒川竜也
俺はお前が好きだ。

黒川竜也
いつか俺がもっと大人になって、誠実になった時

黒川竜也
「黒川」じゃない、新しい俺の苗字に、なってくれませんか。

一色茉莉
……!

一色茉莉
……はい

一色茉莉
なりたいです…すごく

黒川竜也
……!!
