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煉獄杏寿郎

「また、助けられなかったんだ」

いつもは快活な声が、降りしきる雨の中、掠れて響く。 暁闇の中、おびただしい血が雨水に溶け流れていた。 人のものか、鬼ものか。 陽光が差さぬ中、その判別は出来ない。

煉獄杏寿郎

「どうして、失ってしまうのだろうか···」

無力という言葉がのしかかり、彼を潰してしまいそうだ。 腕の中に骸を抱いて、雨に濡れて下りた前髪の間から見えた朱と黄の混在した瞳は、暗い色を宿しどこか別を見ているようで。 私たちと同じ黒い隊服。 背中に描かれた『滅』の文字を撫でるように、そっと背中に触れる。

煉獄杏寿郎

「この隊士に会うのは二回目だ。前回、任務が終わったら共に食事をと言っていたが、俺が緊急討伐に呼ばれてしまい叶わなくてな。次に会ったらと、約束をしていたんだ。大層、甘いものが好きなようで。おすすめの甘味処の話をしてな。それから···彼は俺と同い歳だ。そうなると、君とも同じだな···」

肩に掛かる炎柄の羽織を脱いで、腕の中の彼にそっと掛け、歪な笑顔を作った。

天谷華月

「もういい、煉獄。もう、無理に笑わなくていい。これ以上···」

煉獄杏寿郎

「無理になど···!俺は、無理などしていない!」

感情が追い付かないのだろう。 肩に触れたこちらの手を振り払った瞬間に、彼の大きな手がこちらの頬に強く当たり、唇が切れた。

煉獄杏寿郎

「俺が悲しめば皆を不安にさせる、健在であるためには笑顔でいなければ···!それ以外、出来る訳がないだろう!」

ずっと彼の心には、強く産まれた者は強くあらねばならないと。 呪縛のような信念が渦巻いている。

煉獄杏寿郎

「俺はっ、俺はな···!」

口の中に広がる血の味と共に彼の苦悩を感じ、吐き気がした。

隊士

「炎柱様···!」

「お怪我はございませんか!」

ばしゃばしゃと、隊士と隠たちが雨を蹴散らしながら駆け付けてきた。

煉獄杏寿郎

「俺は大事無いが、救援が間に合わなかった。この隊は全滅のようだ」

皆が息を飲むのが手に取るように分かった。

煉獄杏寿郎

「すまなかった、助けられず。柱としてなんと不甲斐無いことか」

「炎柱様のせいではございません!」

「いつも我々のために御身を削って戦っておられますのに···!」

首を振る隠たちの一人が杏寿郎の傍らにしゃがみこんで、彼の腕の中にいる隊士を見て、その顔をそっと撫でた。 顔見知りなのか同期なのか。 ご苦労さまでした、ありがとうございます、と掠れた声で呟いて、他の隠たちへ目配せして、連れて行きますね、と言葉を続けた。 亡くなった隊士の確認と搬送をするためだろう、隠たちは粛々と各々準備を始めた。

隊士

「天谷様も先導、お世話になりました」

天谷華月

「君たちを置いてきてしまい、すまなかったな」

救援要請があった場所へ向かう隠たちに数名の隊士と同行していたが、途中、別方向から杏寿郎が救援に向かっていると鎹鴉に聞いて、彼らを置いて先に来てしまったのだ。

隊士

「待って、天谷隊士、お怪我を···!」

天谷華月

「ああ、ちょっとぶつけてしまったんだ。気にしないでくれ」

腫れて来た頬を笑って触り、その手を日輪刀へ添えた。

天谷華月

「では、私と炎柱様は周囲一帯に残党が居ないか警らしてくる。君たちには、殉職者の収容が済むまで隠たちの警護を頼むぞ。そして引き続き、帰還する彼らに同行してくれ」

隊士

「えぇっ、炎柱様と天谷隊士が一緒じゃないんですか?」

天谷華月

「なんて顔をしてるんだ。もうじき雨も止むし、太陽も昇る。案ずるな」

頼んだぞ、と隊士たちの肩を叩き、未だ座っている杏寿郎の肩に手を置いた。

天谷華月

「行くぞ」

煉獄杏寿郎

「···ああ」

立ち上がると、その体躯は私でも見上げるほどに大きく。 鍛えられた立ち振る舞いは勇壮で、常に羨望と畏怖の対象になる。

天谷華月

「鬼は居ないようだな」

雨の匂いが濃い林の中を気配を探りながら見て回るも、取り合えず今は周囲には居ないと確認が出来た。

天谷華月

「気を落とすなとは言えないが···及ばない時もあるだろう」

この隊服は言わば、我々、鬼殺隊士の死装束。 背中にこの『滅』の字を背負うということは、鬼殺隊の信念と共に、そこへ墓標を立てることなのだ。 頭では、分かっているつもりなのに。

煉獄杏寿郎

「それで、許されるのか」

こちらに背を向けたまま俯いて、拳が強く握られた。

煉獄杏寿郎

「俺は柱なんだ!人より強く生まれた!なれば自らより弱い者を、助けを求める者を救わねば、俺は責務を果たさねば···!」

苦しげに胸の内を吐露する背中を見て、思わず嘆息した。 いつもは颯爽と靡く炎柱の羽織で見えない彼の背中の『滅』の文字が、霞んで震えているように感じた。

煉獄杏寿郎

「何が···何が、柱だ···俺は、見知った仲間を救うことすらできないじゃないか···!」

天谷華月

「煉獄···」

一気に呼吸を使い筋力を上げて、彼の腕を掴んで足払いをかけ体勢を崩させ、その場に尻餅を着かせた。

天谷華月

「のっ、馬鹿ぁ!」

ちょっとした暴言と共に彼の足の間に両膝を着いてしゃがんで。 真っ正面から彼の瞳を、それこそ睨み付けるように覗き込む。

天谷華月

「どこを見ている。私はここだ」

険しく淀んだ瞳に光が戻るかに、彼の瞳が私を映す。

煉獄杏寿郎

「君の、この怪我は、俺が···」

天谷華月

「大丈夫だ。ちょっと当たったくらいで腫れる軟弱な私の頬が悪い」

そんなこと···!と言いながら、その大きな両手でこちらの頬を包んだ。

天谷華月

「私たちは強い。貴方に至っては既に人外の強さだ。まぁ、私も若干その領域に踏み込みそうではあるが」

彼のよりはずっと小さいこの手を重ね、彼へ向けてなけなしの笑顔を作る。

天谷華月

「だからどうした。強き者が泣いてはいけないか?弱音を吐いてはいけないか?」

熱を測るときのように額に額をつけて、まるでこちらの想いが伝わるようにと願いを込めるようだ。

天谷華月

「良いじゃないか、私たちは人だ。神や仏じゃあるまいに。人にしか、成り得ないんだよ」

驚いたように目を見開いて、少しだけ口角を上げ笑顔の形を作った。

煉獄杏寿郎

「···ああ···その通りだ」

頬を包んでいた手がこちらの肩を掴むだけで、雨に打たれてすっかり冷えた身体にじんわりと彼の体温が移る。

天谷華月

「なぁ、煉獄。貴方は太陽のようだよ。私も月のようだと言われた。しかしだな、太陽は必ず沈むし、月が出ない夜もある」

まるで迷子の子供のような顔をして、その特徴的な眉毛を下げて浮かんだのは、泣き顔だ。 その姿が大変困ったことにとても愛おしく、雨に濡れ、すっかり重たくなった彼の焔色の髪に顔を埋めた。

天谷華月

「炎柱様の泣き顔は私の胸の内に秘めておこう」

煉獄杏寿郎

「なれば鍵を···掛けておいてほしい、誰にも覗かれないように」

天谷華月

「承知した、遵守する。ただその鍵は、貴方が持っていてくれ」

いつもの髪型になるように彼の焔色の前髪を掻き上げて、解けた髪紐を軽く梳いて結び直した。

天谷華月

「また泣きたい時は、鍵を持って来られよ。私がいつでも胸をお貸しするぞ、炎柱様」

俺は泣いてないと、そこはちゃんと訂正するが。

煉獄杏寿郎

「なれば···その時は」

やっとというように差した朝陽に晒された笑顔は、いつも通りに太陽を押しやるほどに清々しいもので。 あの泣き顔は私だけのものなのだと、誇りに思えた。

煉獄杏寿郎

「頼り潰すから、覚悟しておいてくれ」

【作者の呟き】 最後も出だしの空気感で終わろうかと思ったのですが、煉獄さんだからさ(´・×・`)と少し明るく締めました。 朝からの豪雨で思いつき、バーッと書きあげたお話です。 初投稿になります。 お目汚し失礼いたしました。

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