東雲薫
入るわね。

踏分誠一
お疲れさん。まだ薫の言ってた医者はきとらんで。ってその血はどないしたんや!?それホンマに病院行かんくてええんか?

東雲薫
それはそれで良かったかもしれないわ。この血は怪我とかではないし、今は治まってるから平気よ。それに葵は病院には行きたがらないのよ。なにか事情がありそうなんだけど私たちにも話してはくれないから分からないけどね。

恵美まどか
薫、雪城葵はここに寝かせなよ。ここなら何かあってもすぐに気づけるだろ。

東雲薫
ありがとうまどか。でも寝かせる前に少し洗面所借りるわね。

恵美まどか
その方が良さそうだね。

踏分誠一
薫、場所はわかるか?分からんかったら案内したるで。

東雲薫
さっき見たから平気よ。雪翔、葵のリュック持って洗面所まで来て。この血の着いた服を変えないと。

望月雪翔
うん、わかってるよ。もう吐血の心配はないってことだろ。僕も何か手伝おうか?

東雲薫
…雪翔、洗面所までリュック持ってきたら洗面所に背を向けて、いいって言うまで振り返らないで。いいわね。絶対に見ないでね。見たりしたら怒るし葵にはしばらく近づかせないから。

望月雪翔
ちょっ誤解しないで、着替えを手伝うか聞いたんじゃないからね。だから薫、すっごくいい笑顔で怖いこと言わないでよ。誤解を招く様な言い方したのは悪かったけど、葵の着替えを見たいとかそういうのじゃないから。葵を運んだり、タオルで拭く時に葵を支えたり、何か持ってきたりするのを手伝おうかって言ったの。一人でやるのは難しいだろう?大丈夫葵を支える時は目隠しをするから絶対に見ないと誓うよ。

東雲薫
そうなのね。勘違いして怒ってごめんなさい。じゃあタオルの用意はお願いするわ。支えるのは別にいらないわ。葵は小柄だし軽いから一人ででもできてしまうのよ。

望月雪翔
わかった。踏分さん、汚れてもいいタオルと洗面器あります?

踏分誠一
さっきの電話で薫姉ちゃんに頼まれとったしここに用意しとるで。他のは今は使わなそうやし、恵美のベッドの近くに置いとくから勝手に使ってくれて構わんで。

望月雪翔
ありがとうございます。それではタオルと洗面器お借りします。

東雲薫
あっそうそう、誠一たちも洗面所来ないでね。絶対によ。もし来たらわかってるわよね。

薫と雪翔は葵を連れ洗面所に行った。残されたスワロウテイルの会話。
恵美まどか
わかってるよー。薫を怒らせるようなことはしないから安心して。薫を怒らせるとすごーく怖いのは身に染みてわかってるからね。

踏分誠一
わかったで〜。確かに薫姉ちゃんは滅多に怒らんが怒った時はめっちゃ怖かったなぁ。せやけどなんであんなこと言ったんや?

神柴健三
おや、誠一君分からないんですか?相変わらず鈍いですね。雪城さんと東雲さんは女性ですよ。それで先程雪城さんの服を変えると仰っていたではないですか。そもそもまどかさんも私も一目見てすぐに雪城さんが女性なのは気づきましたよ。これだから誠一くんはモテないのでは?いや、そもそもオカンがモテる訳ありませんね。(笑)

踏分誠一
雪城さんは女性やったんか!?てっきり男の子やと思っとった。でも言われてみればお人形さんみたいに綺麗な顔しとったしな。それと健三一言も二言も多いわ!!俺はオカンやないしモテないのは関係ないやろ。

神柴健三
誠一君と同じ意見なのは嫌ですが、雪城さんが人形のようというのは私も思っていました。

踏分誠一
俺と同じ意見なのは嫌とかわざわざ言わなくてええやろ。いつにも増して嫌味多ないか?

恵美まどか
僕はロボットみたいだと思ったよ。普通あんな写真見たら何かしら思うことがあったり、顔を顰めるだろ。特に子供が見たりしたらトラウマものだろうね。でも雪城葵はあの写真を見てもなんとも思ってなかった。いや、なんの変化もなかった。

踏分誠一
確かにあんな写真見たのに怖がったりすることなく動けるのは凄いと思っとったけど、改めてあの時のこと思い出すと不自然な気がしてきた。

恵美まどか
とにかく僕は雪城葵にはあまり関わりたくないね。健三、喉乾いた〜。紅茶入れてくれない?

神柴健三
…

恵美まどか
健三、どうかしたの?

神柴健三
いえ、すみません。紅茶ですね。すぐにご用意しますので少々お待ちください。

恵美まどか
…(健三の様子少し変だったな。今健三に直接聞いてもはぐらかされるだろうし様子見かな。)

東雲薫
うーん隠せなかったわね。

望月雪翔
そんなに血がついてたら隠すなんて無理だよ。じゃあ僕は後ろ向いてるから何かあったら声かけてね。

東雲薫
ありがとう雪翔。

東雲薫
…ねぇ雪翔、少し大きめの袋持ってない?

望月雪翔
多分葵の鞄に入ってると思うよ。前に色んな袋を持ってると便利だよって葵が言ってたし…

東雲薫
えーっと…あったわ。それにしても葵って用意周到よね。着替えにウェットティッシュに消毒液その他諸々入ってるのよね。それにしてもこの替えの服…着せにくいわね。よし、こっちにしましょう。私が持ってきたワンピの方が着せるのは楽だしね。

望月雪翔
…(なんかしれっと薫が葵用の着替え持ってる発言してるんだけど…これって聞かなかったことにした方がいいのかな?それとも葵のために注意した方がいいのかな?見てないからどんなのかも分からないし一旦聞かなかったことにしよう。)

東雲薫
終わったから振り向いていいわよ。

望月雪翔
意外と早かったね…って薫さん?僕は前にも注意したはずだよね。忘れちゃったのかな?

東雲薫
あ、あれ?雪翔怒ってる?

望月雪翔
そんなこと聞かなくてもわかるよね。それに薫、そういう服は葵が元気な時に着せようって言ったよね?僕の言ってること理解できなかったのかな?

東雲薫
そ、それはそうなんだけど…可愛い子には可愛い服を着せたくなるでしょ。

望月雪翔
はぁ〜薫は中学の時からそうだよね。可愛い物を見つけると途端に周りが見えなくなる。今の葵の状態を理解してるのは薫のはずだよね。僕は医療に関しては専門外だから詳しくはわかんないけどこの服は今着せるのは違うと思うんだけど。

東雲薫
でも、こっちの方が着せやすかったのよ。それに似合ってるでしょ。

望月雪翔
似合ってるけど、眠るのには適さないと思うよ。

東雲薫
そんなことはないわ。だってこのマリンセーラーにはそんなにフリル着いてないもの。それに、これ以上まどか達を待たせるのも良くないわよね?

望月雪翔
さては確信犯だろ。でも確かにあまり待たせるのは良くないし、このままいくしかないかー。ごめんね葵、僕がちゃんと確認していればこんなことにはならなかったのに。

東雲薫
さぁ気を取り直して戻るわよ。

望月雪翔
急にテンション高いなぁ。(葵に自分の持ってきた服を着せられたからなんだろうけど。)

雪翔が葵を横抱きにして洗面所を出て、スワロウテイルの3人が待つリビングに移動した。
東雲薫
お待たせしましたぁー。

望月雪翔
お待ちいただきありがとうございました。ベッドをお借りしますね。恵美さん。

恵美まどか
早く寝かせてやりなよ。(薫の機嫌がすっごくいい。なにかあったのかな?)

踏分誠一
大丈夫やったか?

望月雪翔
踏分さん、葵は大丈夫です。タオルと洗面器ありがとうございました。洗面器はどうしたらいいでしょうか?

踏分誠一
洗面器はそのままでええで。後で洗っとくからな。それと望月さんは年上やし、敬語やなくても構いませんけど。

望月雪翔
ありがとう踏分君。そうだ、タオルは新しいの買って返すから少し待ってね。それと踏分君も敬語じゃなくて話しやすい喋り方でいいし、僕のことは雪翔でいいよ。

踏分誠一
ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えさせてもらいますわ。
薫姉ちゃんから汚れてもいいタオルって言われて用意したから別に汚れてても構わんで。

望月雪翔
いやーとても返せる状態じゃなかったから…それに僕がそうしたいんだけどダメかな?

踏分誠一
雪翔さんがそれでいいんやったら…

望月雪翔
それじゃあ後日渡しに行くね。

踏分誠一
わかったで。

東雲薫
あ、もしかしたら東さんが来たのかも。

踏分誠一
はいはい、どちらさんですか?

東(あずま)
ここはスワロウテイルの事務所であってますか?

踏分誠一
そうですけど、申し訳ないんやけど、依頼やったら今は受けられないんです。

東雲薫
誠一、この人が葵の主治医よ。

踏分誠一
そうやったんか!?そんなら薫姉ちゃんに対応は任してええか?

東雲薫
えぇもちろんよ。来ていただきありがとうございます。

東(あずま)
半月ぶりだね。早速案内してくれるかな。

東雲薫
わかりました。異能の使いすぎで暴走したと本人が言って意識を失いました。吐血しましたが、応急処置で鎮静剤を打って今は落ち着いてます。このベッドで葵は眠ってます。

東(あずま)
うん、まあまあだね。

東雲薫
っ…

東(あずま)
意識のない人間に鎮静剤を打つのは得策とは言えないね。吐血したのなら胃にかなりの負担がかかっていたみたいだし、こういう時は胃薬と頭を冷やすのが正解だよ。

東雲薫
すみません。

東(あずま)
まぁいいや、君にはやることがあるんだろ?葵様は私に任せてやるべきことをしておいでよ。

東雲薫
わかりました。

東を葵の元に案内して、薫はまどかたちのいる方に行った。
東雲薫
お待たせ。やるべきことやっちゃいましょう。

望月雪翔
薫、大丈夫?

東雲薫
大丈夫よ。

望月雪翔
無理はしないでね。

東雲薫
ありがとう。

恵美まどか
さて、情報共有だけど、僕が記憶に潜って見たのは、3日前にスーツケースを2つ持っていた三十代後半の男性とすれ違ったという記憶だけど、服装は私服だったし、駅の方にむかって歩いてたみたいだけどあの辺は人が多いから駅に向かったかまでは分からなかった。

東雲薫
スパロウメモリーが掴んだ情報は、4つ。
1つ目、事件が起きた日に〇〇駅では体調不良者や迷子といったトラブルが多発していたこと。2つ目、犯人は少なくとも2人はいて、1人は私たちの目の前で自殺した。3つ目、凶器は氷のナイフで、片瀬の家の冷凍庫で作られたこと。4つ目、〇〇駅にいる水瀬さんは共犯者の可能性が高いが証拠は無いこと。以上が私達の捜査でわかったことよ。

恵美まどか
ねぇ、片瀬と水瀬の写真とかある?

望月雪翔
片瀬の写真ならありますが、水瀬のはないです。これが片瀬の写真です。

恵美まどか
僕が3日前に見たやつと同一人物だね。

踏分誠一
相変わらず恵美の記憶力はすごいな。

望月雪翔
あの、1ついいですか?

東雲薫
どうしたの?雪翔。

望月雪翔
気になることがあるんだ。

神柴健三
望月さんなんでしょうか?

望月雪翔
今回の事件、組織的な犯行の可能性はないでしょうか?

恵美まどか
どうしてそう思ったの?

望月雪翔
実は、片瀬が服毒自殺したのですが、あの毒薬の瓶は見覚えがありまして、普通に入手することはできなかったはずなんです。

踏分誠一
なんやて!?

神柴健三
なんですって!?

東雲薫
どういうことよ!!あの時そんなこと一言も言ってなかったじゃない。

望月雪翔
どこかで見覚えがあるなとは思ってたんだけどさっき恵美さんの言ってたことを聞いて思い出したんだ。

東雲薫
本当にさっきね。

望月雪翔
だからそう言ってるだろ。

神柴健三
あの望月さん、潰した組織の開発した毒とはどういったものなのでしょうか?

望月雪翔
うーん、組織については表のニュースにはならないようにしたから詳しく言うことはできないです。毒薬は科捜研辺りになら資料があるはずだけど、外部に漏らすことが許されてないんですよね。

踏分誠一
そこをなんとかならへんか?

東雲薫
雪翔、この事件を解決するにはその毒薬の情報が必要なの。それに雪翔はもう公安じゃないんだからいいんじゃないかしら。

望月雪翔
わかった。元上司に確認…できないんだった。薫、やばいよ。僕この毒薬について話していいか確認できる人いない。だから言えない。

東雲薫
そんなにやばい情報なの?それに確認できないってどういうこと?

望月雪翔
やばいも何も国家機密だからね。しかもあの毒薬については半年前に殉職した元上司が管理権限持ってたから今は誰が管理してるか知らないんだよね。あの毒薬を知ってるのは公安の警部クラス以上と科捜研くらいかな。警視庁は関わってなかったはずだよ。

東雲薫
…(雪翔はどれくらい上の立場だったのかしら。付き合いは長いのに警察時代のこと殆ど教えてくれないのよね。公安だったのもついさっき知ったばっかりだし。)

恵美まどか
健三、警察にその毒薬について聞いて。

神柴健三
かしこまりましたまどかさん。

踏分誠一
国家機密って…なんで雪翔さんは知ってるんや?

望月雪翔
それはね〜僕が元公安だったからだよ♪

踏分誠一
そうやったんか!?なんで辞めてしまったんか聞いてもええか?

望月雪翔
その話はまた機会があったら教えてあげるよ。それよりも薫、このままだと話せないからどうしよう?

東雲薫
知らないわよ。と言うか雪翔が警察に問い合わせればいいんじゃないの?

望月雪翔
やだ。僕まだ死にたくない。

東雲薫
え!?死ぬ?なんで?

望月雪翔
あのねぇ、国家機密になるような情報をホイホイ話していいと思ってるの?そういうのはきちんと手順を踏まなくちゃいけないの。普通に連絡しても無駄だよ。それに警察は警察でもほぼ上層部しか知らない情報だから上層部の人間に聞くしかないんだけど…僕が知ってる人はもう居ないから連絡のしようがないんだよね。

東雲薫
そんなに頻繁に上層部って変わるの?

望月雪翔
いや、そんなことはないんだけど僕がやめた後に色々あったみたいなんだよね。そういうわけだから僕から連絡するのは無理だよ。そもそも上層部に知ってる人いないから繋げてもらえなさそうだしね。

神柴健三
まどかさんすみません。警察に聞いてみましたが、現在解析中でまだなんの薬品なのかわかってないという答えしか返ってきませんでした。

東雲薫
ねぇ雪翔、今野刑事は貴方の元後輩でしょ。なら知ってるんじゃないの?

望月雪翔
残念ながら今野は上層部との関わりはほとんどないよ。僕が辞めたあとすぐに捜査一課に異動願い出てたしね。警察庁にいたのはほんの1年ほどじゃないかな?

東雲薫
そうなると雪翔の持ってる情報は使えないわね。

望月雪翔
…(解析中?そんなはずは無い。あの毒薬のみちゃんと表に記録されているはず。経緯とかどこで作られたかとかはデタラメだけど毒薬の効能と瓶については科捜研にあの毒薬の資料とかがあるからもう結果が出ていてもいいはずなのに。そうなると元上司の引き継がなかった又は引き継げなかったか、意図的に消されたかだ。それとも中身が違うのか。それならあの毒薬についてカマをかけてみるか。上手くいけば上層部が釣れる。)

東雲薫
雪翔?そんなに考え込んでどうしたの?

望月雪翔
いや、僕、1度警察庁に行こうと思ってね。殲滅した組織については秘密裏に処理したけど毒薬と瓶については科捜研に記録があるはずなんだ。だけど未だに解析中ということは中身の毒薬が違うのかそれとも誰も把握出来ていないかの2択だ。もし、中身が違うなら仕方ないけど、そうじゃない場合僕の知ってる情報を科捜研や警視庁の誰も知らないなら警察庁を巻き込もうと思う。殲滅した組織については警察庁のどこかに資料があるはずだからね。

東雲薫
だいぶ危険な綱渡りね。大丈夫なの?

望月雪翔
本当は葵もいてくれたら良かったんだけど…

東雲薫
そうね。葵は嘘を見抜くのが上手いし、何より交渉慣れしてるのよね。私は行ったところで足でまといになりそうだしここで待ってるわ。

望月雪翔
何言ってるの?薫も一緒に行くからね。

東雲薫
え?でも私が行っても意味ないんじゃ…

望月雪翔
そんなことないよ。薫はね、僕らが無茶なことをしようとしたら止めてくれるし、優しいからいろんな人に好かれやすいし、警戒心を解くのが上手いと言うか、警戒心を抱かせない稀有な存在なんだよ。それに葵が前に言ってたけど薫がいなかったらとっくに死んでたかもしれないって。僕もそう思う。薫がちゃんと葵の健康、体調管理、無茶なことをさせないようにしてるのは知ってるんだからね。それに僕だってそうだよ。薫が美味しいご飯作ってくれたり、本当に危険な時は止めてくれるから五体満足でいられるんだよ。

東雲薫
うーん私としてはあまり無茶はしないで欲しいのだけどね。でも私が警戒を解くのが上手いなんて初めて言われたわ。

望月雪翔
そりゃああんなに自然に警戒心を解いていくんだから普通の人は気づかないよ。

東雲薫
そうなのね。自分では気づけなかったわ。ありがとう雪翔。

望月雪翔
どういたしまして。まぁ、僕としては薫にはもう少し危機感をもっていただきたいんだけどね。(薫はモテるけどその自覚がないからなぁ〜。まぁ、変な輩は見つけ次第排除するけど…)

東雲薫
待たせてしまってごめんなさい。私と雪翔は1度警察庁に行ってくるわ。時間がかかるかもしれないから葵をスワロウテイルの事務所で預かって貰いたいのだけどいいかしら?

恵美まどか
そうなるよね。僕はあまり気は進まないけど、預かってもいいと思う。誠一と健三はどう?

神柴健三
私はまどかさんの意見に従います。

踏分誠一
俺は、預かることは別にかまわんで。

東雲薫
ありがとう、まどか。一応医者がいるからなにかしないといけないってことはないと思うけど、なにかあったら連絡してね。

望月雪翔
ありがとうございます。スワロウテイルの皆さん。警察庁での用事が終わったらここに戻ってきますのでそれまでの間葵をお願いします。

雪翔と薫はスワロウテイルの事務所を出て警察庁に向かった。