はぁ、と吐いた息が
一瞬、大きな白い煙になって
風に溶けるように消えていく
その白い煙が消えていった空を
ゆっくりと仰ぎ見る
そうでもしないと、どうしても
泣きたくて堪らなくなる
否、涙が止まらなくなる
明美
零れた声は暗い空に吸い込まれて
あっというまに遠くなった
明美
もし私が車道側を歩いていたら
隆樹は生きてたの?
一度考え始めると 鮮明に思い出してしまうのは
あの日のこと
あの日――デートの帰り道
あなたは言った
隆樹
明美
隆樹
明美
明美
あるわけ無いと思っていた
信じて疑わなかった
明美
『どうだった?』と聞こうとした
隆樹
明美
あなたは私の名前を強く叫んで
その手で私を突き飛ばした
明美
スローモーションの世界にいる
そんな感じがした
ゆっくりと傾いていく世界の中で
あなたの瞳が優しく私を捉えた
何が起こったか判らなかった
視界に滑り込んできた黒い影も
何かの間違いだと思った
明美
私が地面に尻餅をついたのと
醜い音が同時だった
明美
明美
コンクリートブロックの壁と車体に挟まれて
あなたは荒い息をしていた
車に正面から追突されたようで
腹部から下は赤く染まっていて
見てられなかった
明美
隆樹
弱々しく私の名前を呼んで
あなたはまた優しく微笑んだ
『救急車呼んだぞ!』
そんな声に返事もできなかった
明美
明美
明美
明美
そこまで言った時
あなたの手が伸ばされて
額に軽く触れた
力も入っていなくて、 痛くもないデコピン
隆樹
明美
明美
隆樹
隆樹
明美
ずるいよ
そんな事言われたら、もう...
明美
あなたは少し困った笑顔を向けて
隆樹
あいしてる、なのか
あいしてた、なのか
聞き取れなかった
明美
明美
ふと頭上を見ると
腹が立つくらいに澄んだ夜空
明美
まだ少し滲む目を擦り
星空をじっと睨む
死んだ人は星になって見守ってる
そんな話を聞いたことがあった
でも
明美
あなたに逢いたい
もう一度だけでいいから、 あの温かい手に触れたい
戸惑いも、本音も、遠慮も
すれ違いも、苛立ちも
“好き”も、楽しさも、嬉しさも
ときめきも、高鳴りも
全部
あなたがいたからそこにあった
あなたが生きていた時は
あなたとの距離が近すぎて
それを壊したくなくて
『愛してる』を言えなかった
流れた涙は、昨日積もった雪の上に静かに落ちる
どうして言えなかったのかな
今はもう、あなたが遠い
遅すぎたよね
ねえ
私はこれからどうすればいい?
手を伸ばせば届きそうな星空には
絶対に触れることはできない
頑張らなきゃ、と思うのに
どこにいても
いつだってあなたを探してしまう
だめだね
明美
どうすればよかった?
そんなことわからない
どう生きていけばいい?
まだわからないよ
だけど、1つだけ
明美
それだけはわかるんだ
あなたに言われたね
『こっち来んな』って
だから私が生きてるんだよね
だからって
明美
どうすればいいのかな...
出てくる筈の無い答えを探して
私はまた涙を流す
この問いはきっと、まだ消えない
消えないよね
その答えが見付かった時は
私がまた前に進める時だから
答えが今すぐ見付かるなんて 思ってもない
明日見付かるわけもない
...わかってるよ
だからもう少し
もう少しでいいから
今は、今だけは――
瞳を閉じる
記憶の中のあなたに
そっと微笑み返して
伝えられなかった言葉を呟く
そこから遠く離れた場所で
1つの光が微かに瞬いた
ねえ―――
Fin
非リア弟様主催『四季コン』の
“冬の夜”に
参加させていただきました。
コメント
11件
美しい文体ですね(*´꒳`*) 素敵なお話でした!✨
切ない...。とても良かったです( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)
泣けるやつだ...くそ、目から汗が!