欲望地獄

欲望は犯罪を生む

政府はそのような極論とともに 新しい制度を導入した

｢欲望抑制法」

人の欲望に繋がるものは すべて抑え込む法案である

争いごとや盗みなど 犯罪はすべて欲望から生まれる

そのような思考から原案作成され 少なからずの反対意見は出たものの

大多数派を占める現政権により 閣議決定から審議を経て可決までの 道程はすんなりと進んだ

そして昨年、法律は公布された

18歳の年齢を迎えた男女は 欲望指数を調査するべく 必ず検査を受診する

国家の研究員が総動員され 天文学的な費用で製作された 最新の機械により 欲望を計られるのである

よくわからない機械が 弾き出したデータは尊重される

基準値を超えた者は入院という 言葉とともに収容監禁され 更生プログラムという名の下で 半ば拷問に近い荒療治を受けるのだ

言いにくそうにしている 検査員の脇から 女性の博士はズバリと男に聞いた

女性博士は恥ずかしげも無く 突然に自分の胸をはだけた

男にのしかかる狂った女性博士 もうすでに英智の欠片すら見えない

ドタドタドタと 白衣を着た集団がなだれ込んでくる

ムリヤリの検査である 暴れる者もいるのだろう

慣れた手つきで注射器を手に持ち いつものように針を刺した

そう

いつものように被験者に

博士にのしかかられ 下になっていた男に

ブスリと麻酔針を刺された博士は すでに意識のない男の上で

と、呟きながら静かになった

男は夢を見た

実の母から毎日罵られて

三人の姉からは 蹴られたり殴られたり

挙げ句の果てに 体の服をひん剥かれ

あちこちをイタズラされた

それを母親は笑ってみていた

地獄だ ここは地獄だ

休まる日々なんてこない

睡眠はおろか 食事すら簡単にありつけない

にくい

女がにくい

にくいにくい

こわい

こわい

こわい

夢にうなされ、飛び起きた男

フラッとする男にかけよる看護士

看護士もまた 胸をはだけて抱きついてきた

顔を真っ赤に火照らせながら ねっとりと抱きついてくる看護士

外をよく見ると海であった

全く気付かなかったが フェリーの船室に運ばれていたのだ

性欲指数が驚くべき位に はるかに高い人種がいる

そこにいるだけで男を狂わす人種 性欲の悪魔と言っても過言ではない

男は妙に納得した

褒められているのか 蔑まされているのか

とにかく男は特殊な 人間のようだった

国家も絡んでいる以上 あがいても無駄な気がする

良い暮らしができる その言葉にも気分が揺らいだ

今までの辛いトラウマも あるのかもしれない

島につくと男の 歓迎会らしきものが開かれた

サキュバス島とはいうが はたまた更生施設とはいうが

あまりの惨状に驚く

この島の女性に狂わされた男どもが 島内を素っ裸で歩いている

顔に生気もなにも無い

ただただ捌け口にされる性奴隷

まったくそれを気にしない女性たち

突然抱きついて キスをしようとしてくる

男は振り払う

こわい 喧嘩が始まった やっぱりこわい

その場をそうぅっと 離れようとした男に気付き 看護士は言った

男は喧嘩の二人から離れ 足早に部屋の外に向かう

声が聞こえない距離を確認すると 看護士は呟いた

そそくさとドアから出ようとすると 誰かと肩がぶつかった

後から羽交い締めにされた

男は押さえつけられる

何人だろう

四人

四人に押さえつけられ 服を脱がされる

誰だ？見えない？ 暗くてどんな人物かが見えない

助けての言葉すら 出すことができない

四人はハーハーと息を切らし 男を押さえつける

男も必死にもがいたが力尽きてきた

そう諦めかけたとき 近くのドアが風で開き 偶然にも光が差した

四人は男の顔に気付かない

男は思い出していた

ああ、あの時の小さい頃と同じだ

あの時もこんなことされたっけ

そうか……理由がわかった

俺はいじめられていたんじゃない

ただの捌け口だったんだ