花の便り

僕は今日も手紙を書く

遠い、遠い貴方へ手紙を書く

手紙を書いて、波にのって

いつか貴方の元へ届くことを願う

あわよくば、返事を貰いたい

そんな希望は

淡雪のように消えてしまう

まだ春愁漂う日のこと

僕はまた手紙を書いた

君に届くことを信じていた

この想いすらも、このボトルに入れて

波に流して、君に届けよう

貴方と出会ったのは、まだ花冷えのする頃であった

僕の手を引いて、ずっとずっと走ってくれた

僕を窓の外へ連れ出してくれた

いつも見るだけだった景色が、辺り一面にあって

僕はずっと笑っていた

初めは景色のために外へ出ていたのに

いつの間にか、貴方に会うための理由になっていた

それでも、終わりはいずれ訪れるもので

君は突然、僕の所へ来なくなってしまった

花明かりに誘われ君と抜けた道は

残響となり寂寞を深く刻む

花明かりに誘われ君と抜けた道は

今や僕だけが知る秘密基地だ

でも、貴方が生きているなら

貴方が、僕のことを覚えているのなら

またあの日のように

風光る逢瀬の場で

この悲愛を笑ってみたい

あの逢瀬の記憶も

貴方への思慕も

惑溺の比喩のように海へと還し

貴方が気づいてくれますように

浅縹色の海へ背を向けて

僕はあの道を通った

まだ薄氷が張っていた

花冷えに少し身震いしてしまった。 花の便りはまだ来ない