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レモンクリームパスタ

第1話 - レモンクリームパスタ①

2020年04月24日

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wat/SuZu

晴人

いらっしゃいませ

晴人

お好きな席へどうぞ

女性

…はい

晴人

（この人、毎月7日に必ず来る人だ…）

女性

レモンクリームパスタ1つ

女性

それから、

晴人

ガーリックトーストお1つ、それから、アイスレモンティーですね

女性

そう。流石に覚えられちゃったか

晴人

いつも、ありがとうございます

晴人

すぐお持ちいたしますね

休憩中

店長

晴人君、休憩中に悪いけど話したいことがあるんだ

晴人

店長、何でしょうか

店長

実はね、俺、病気が見つかって

晴人

えっ？！

店長

治療で、しばらく休まなきゃいけなくなったんだ

店長

本部には、すでに伝えてあるんだけど

晴人

店長…

店長

しばらく有給休暇を取らせて貰う。その間は、晴人君に店長として、店を回して欲しいんだ

晴人

え、えー？！

店長

だって、パートの真木さんは17時からしかシフト入れないし、間宮さんは来月辞めちゃうし、

店長

秦さんは入ったばっかりで、いきなり店長をさせる訳にはいかないでしょ？

晴人

ああ…そういうことですね

晴人

（要はフルタイムで働ける社員が俺しかいないんだ。）

店長

事務仕事も少しあるから、一週間くらいで引き継ぎしたいんだ

店長

もちろん残業手当は出すから、お願いしてもいい？

晴人

俺は構わないですけど、店長の体調は大丈夫なんですか？

店長

実は、症状が無い初期の状態なんだ。たまたま健康診断で見つかってな

店長

だから幸い、痛みは無くてね。病院も、最短で治療開始できるのが来週になるらしい

店長

晴人君に、来週前までに引き継ぎ含めて、色々お願いしようと思う

晴人

…分かりました

晴人

店長

ん？

晴人

絶対、戻ってきてくださいね！

店長

勿論！まだ娘も小さいし、病気なんかやっつけて、必ず戻るから！

店長

よろしく頼むぞ

晴人

…はい！

数日後

晴人

（晴れて良かった）

晴人

（もう、3年か…）

今日は、母さんの墓参りに来た

店長の話を聞いて、

どうしても母さんに話を聞いて欲しくなった

晴人

母さん、久しぶり

晴人

俺の勤めてるレストランの店長、治療で休みを取るんだけどさ…

晴人

その間、俺が代わりに店長に指名されて…

晴人

不安になっちゃった

晴人

（よりにもよって、店長まで、母さんと同じ病気なんて）

晴人

どうしてなんだろう…

遠くで、雷が鳴り出した。

晴人

わっ、空が急に暗くなってきた

晴人

母さん、またね。母さんに伝えても意味ないかもしれないけど、どうか、

晴人

店長の病気が、治りすように

そして、大雨が降り出した。

晴人

わあ！雨まで降ってきた

晴人

（とりあえず車に戻ろう）

べシャッ

晴人

ん？何の音…？

女性

痛…急いで歩いてたらヒール折れちゃった…

晴人

あ、あなたはいつもうちのレストランで、レモンクリームパスタを頼む…

女性

…え？

女性

ああ、あそこの店員さん？

晴人

折りたたみですけど、傘あるんで入ってください。風邪ひいてしまいます

女性

…いいの

晴人

え？

女性

いいの

晴人

何言ってるんです？！

よく見たら、女性も喪服を着ている。

彼女も墓参りをしていたのだろうか。

晴人

車に行けばバスタオルもありますから

女性

…嫌

晴人

お墓参り、来てたんですよね？

晴人

亡くなった方も、あなたがびしょ濡れのまま、この場所にいるなんて、望まないです

晴人

ほら

女性

…

晴人

あなたが動かないなら、俺もここにいます

女性

え？！何で？

晴人

よく見かける方をびしょ濡れのまま放っておくこと、できませんから

女性

本気なの？

晴人

はい

女性

…

女性

…わかったわ

晴人

とりあえず俺の車に行きましょう。タオル貸しますから

彼女の靴が壊れていたので、

俺は彼女を背負って車まで向かった。

晴人

ホットココア、どうぞ

結果的に、車で俺の家まで二人で来た。

まだ、彼女の名前も知らない。

女性

それより先に、お仏壇に、お線香上げていい？

晴人

ありがとうございます。母も喜ぶと思います

女性

…さっきは、ごめんなさい

女性

今日、夫の3周忌だったの

晴人

そうでしたか…

晴人

（いつも店では指輪してないけど、今日はつけてる）

晴人

（旦那さんのお墓参りだったか…）

女性

あなたも、お母さんのお墓参り、してたの？

晴人

はい、母も亡くなって3年経ちました

女性

そうだったのね…

女性

あなたのいる、あのレストランでね、レモンクリームパスタいつも頼むでしょ？

女性

毎月7日に。

女性

何でか、わかる？

晴人

今なら分かります

晴人

旦那さんの、月命日ですか？

女性

そう。私の手料理よりも、あのお店のレモンクリームパスタが好きだったの

女性

あまったレモンクリームパスタのソースに、ガーリックトーストを付けて食べるのが、彼のお気に入りだった…

晴人

それで、毎月注文されていたんですね

女性

…そう。レシピ真似しようと思っていたら、突然夫が亡くなったから

女性

一度だけでも、家で作ってあげれば良かったって、毎月後悔してるの

晴人

（全然気づかなかった…）

晴人

俺も、その食べ方真似してみようかな

晴人

実は俺、今度店長になるんです

女性

そうだったんだ

女性

おめでとう、でいいのかな？

晴人

本当は、おめでたくないんです

晴人

病気の店長の代わりなので…

晴人

でも、今の店長が戻ってきた時に、安心させてあげたいんです。皆で協力して、大切なお店を守れました、って

晴人

店長に、胸を張れる自分になりたいんです

女性

そうだったんだ…

女性

私、必ず今までどおり毎月行くから

女性

大変かもしれないけど、頑張ってね

晴人

ありがとうござます。あの、今更なんですが

女性

何？

晴人

お名前、お聞きしても？

女性

…名乗るほどの者じゃないわ

晴人

（ああ、これは一線ひかれたな）

晴人

（別に、親しい関係になりたい、とかじゃないけど）

晴人

（名前さえ教えてもらえないのは、流石にショックだな…）

女性

あ、雨の音、しなくなったわ

晴人

本当だ！あんなに暗かったのに

女性

ここからなら歩いて帰れそう。ヒールまで直してもらって、助かりました。本当にありがとう

晴人

いいえ。またレストランでお待ちしています

数分後

女性

（名前、あの人に言いたくなかった）

女性

（あの人の名前も、聞きたくなかった）

女性

（だって、）

女性

きっと名前を聞いてしまったら、

女性

後戻り、できなくなるから…

女性

（私は生きている限り、ミナトさんを愛するって決めてるんだから…）

女性

こんなことで揺らいだら、ダメなんだから…

女性

しっかりしろ、私…！

つづく

レモンクリームパスタ

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