とある高校の昼休み。 同じクラスの“みなと”と“アキラ”は 窓際に座って外を眺めながら あんぱんを頬ばっている。
みなと
アキラ
みなと
タクシーの運転手じゃん。
アキラ
そうだったよな。
みなと
昨日の夜
不思議な事が
あったらしいんだ。
アキラ
どんな?
みなと
すごい雨降ってなかった?
アキラ
降ってた。
みなと
午前2時の銀座。 土砂降りの雨が降っている。
みなとの父
すごい雨だなぁ
みなとの父
拾えそうにないな
そう呟きながら、 ふと左前方に目を凝らすと 街灯の下で 傘もささずに 1人の女性が立っている。
みなとの父
あのお客さんゲットするぜー
女性のそばに近づくにつれ ゆっくりとスピード落とすと 女性がスッと 力なく手を挙げるのが見えた。
みなとの父
女性のそばに車を寄せてドアを開けた
みなとの父
すごい雨ですねー
傘お持ちでないですか?
女性
女性が乗り込む。 ルームミラー越しに女性を見ると 全身びしょ濡れになっている。
みなとの父
女性
女性は押し黙ったまま、 うつ向いている。
みなとの父
どちらまで行きましょう?
女性
お願いします。
女性が、か細い声で答える。
みなとの父
みなとの父
いや〜それにしても変な客
のせちまったな。
告げられた行き先が近づくにつれ どんどん人通りが減っていく。
またミラー越しに女性を見ると 先ほどと変わらずうつむいたままだ。
みなとの父
ははーん。さてはあれか?
良くある、
着きましたよって言うと
いつのまにか消えちゃってる、
例のパターンか⁉︎
みなとの父は幽霊などは 全く信じないタイプだった。 ただ よく運転手仲間から そんな話をきかされ、 幽霊かどうかは別として、 本当にあるのかもなぁ とも思っていたのが 正直なところである。
みなとの父
ま、それならそれで
さっさと目的地まで
運んじまおう。
雨にもかかわらず、 少しスピードを上げて走る。
程なくして、目的の住所に着いた。
みなとの父
さて、
これで後ろを振り返ると
どーせ消えちゃってるんだろ。
みなとの父
お待たせしました。
勢いよく振り返ると、 まだ女性は乗っていた。
みなとの父
なんだ、
乗ってるじゃん!
いささか拍子抜けする みなとの父。
女性
タクシー代
手持がないので...
そこの2階の角が家なので
取りに来ていただけますか?
みなとの父
かしこまりました。
女性を下ろし先に行かせ、 車を端に寄せ止める。
みなとの父
はい、でました。
これ家に行くと
お通夜だったりするんだよね。
これもよくあるやつ。
女性に言われた アパートの2階に上がる。 表札を見ると[立花]と書いてある。
呼び鈴を押す みなとの父。
みなとの父
匂いがするな。
ドアが開き、 喪服を着た老女が出てきた。
みなとの父が老女に さっきまでの事情を説明しながら ふと奥を見ると ドアの隙間から家の中が見える。 そこには先ほど乗せた 女性の遺影が...
みなとの父
あちゃー
マジか⁉︎
高校の教室。
アキラ
みなと
青ざめた顔しちゃって!
古典的な話じゃないか!
みなと
アキラ
けやきヶ丘の立花って
言ったよな?
みなと
アキラ、みなとに顔を近づけ 急に小声になる。
アキラ
美奈子。
立花美奈子だよ。
みなと
あーあいつ!
引きこもりの。
アキラ
引きこもりなんて
言ってんじゃねーよ!
アキラ
あいつが
引きこもりになったのは。
みなと
色々あんだろ!原因は。
いろいろ...
アキラ
知ってんだよ。
一年の頃から美奈子の悪口
しつこく言ってただろ?
みなと
アキラ
立花のお母さん
もともと病気がちで、
一昨日亡くなったらしいんだ。
アキラ
最後まで心配しながら
息を引き取ったらしい。
みるみるうちに みなとの顔は青ざめ、 握りしめた拳がかすかに震えている。
アキラ
今頃反省しても遅いぞ。
みなと
みなと
オヤジの話にはまだ
続きがあるんだ。
アキラ
みなと
降りたあと、オヤジを
すごい顔でにらんで
こう言ったらしい...
アキラ
みなと
同じ目に逢わせてあげる、って...