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薔薇の隠し事

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薔薇の隠し事

25 - 薔薇の隠し事 第25話

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210

2020年05月31日

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フランクリン

ヴィクターのやつは何処に行ったんだ?

忌々しげに呟くフランクリン警部が闇に覆われたロスを窓越しに見詰めた。

すぐそばではトーマスがひたすら、携帯に耳に押し当てていた。

やがて、諦めたようにトーマスは溜め息を吐いて携帯をしまった。

トーマス

ダメですね

トーマス

ヴィクターのやつ、一向に出る気配がありませんよ

トーマス

コーヒーでも入れます

フランクリン

頼む

互いに頭を抱えながら、コーヒーを飲んでいたときだった。

自動車事故を告げる通報が届いた。

消息不明の部下のことで頭が一杯のフランクリン警部だったが、

通報を受け付けた刑事の言葉を聞いて思わずトーマスと顔を見合わせた。

慌ててパトカーで現場に急行すると、現場は騒然となっていた。

酒と物の燃える臭いが漂う一通りの少ないスラム通りでの事故のようだ。

フランクリン警部は真っ先に通報したという年配の浮浪者に会った。

浮浪者(自らをグレゴリーと呼ぶ)は冷静に経緯の説明を始めた。

グレゴリー

路地裏でウトウトしてたときでさぁ…

グレゴリー

突然、通りの方から「グワッシャーン!」ってすごい音がして

グレゴリー

眠気が吹き飛んじまいやがった

トーマス

…で、気になって見に行った?

グレゴリー

いや、違う

グレゴリー

また寝込んじまったよ

トーマス

どうして様子を見ようとは思わなかったんだ

トーマスは少し怒気を含めた声で言った。

もしそうしていれば、通報も早く受けたかもしれなかったからだ。

グレゴリーは無精髭の生えた顔をニヤッとさせた。

グレゴリー

刑事さんよ、ここはスラムだぜ?

グレゴリー

物騒なことなんて日常茶飯事さ

グレゴリー

いちいち気にしてちゃこんな所で暮らしていけねえよ

トーマス

そうかい、そうかい

フランクリン

フランクリン

通報によると携帯の着信音を聞いたそうじゃないか?

フランクリン警部が相手から漂う異臭に顔をしかめながら尋ねた。

グレゴリー

そうでさぁ

グレゴリー

少ししてでっかい音がした方から奇妙な音が聞こえたんだ

グレゴリー

聞き慣れない音だったからさすがの俺もドキッとしちまったけど

グレゴリー

すぐにケータイってやつだと分かったのさ

グレゴリー

で、放っておくとさすがに不味いと思って通報する気になったんだ

トーマス

それで通報したんだな?

グレゴリー

そういうこと

グレゴリーのいう通り、大破した車の助手席から携帯が一つ発見された。

大型トラックが車のバンパーに乗り上げた状態だったため、

潰れた前部座席から携帯を取り出す作業には時間を要した。

発見された携帯を見たトーマスが「あっ」と叫んだ。

トーマス

ヴィクターのですよ!

フランクリン

間違いないな

フランクリン

お前の着信記録も残ってる

トーマス

…となると、ヴィクターは何処に?

フランクリン警部は険しい眼差して、大破した車に再び視線を向けた。

携帯の発見場所からして、ヴィクターが車に乗っていた可能性は高い。

気になったのは運転していた人間は誰なのか?ということだった。

そのとき、フランクリン警部の前に1人の女性が現れた。

マックスは持っていた注射器を弄んでいた。

彼の目先が自分に向いていないと確認してから、

ヴィクターはナディアを一瞥した。

彼の手話を理解したナディアは、ヴィクターに向かって小さく頷いた。

俄然、ジーナがゆっくりと立ち上がった。

ジーナ

マックス

マックス

………

ジーナ

今の話、本当なの?

ジーナ

エレノアはあなたの妹って…

マックス

………

ジーナ

あなただったの?

ジーナ

エレノアを殺すようにジェシカたちに指示したのは?

マックスは深く息を吸ったかと思うと、大袈裟に吐き出した。

ジーナの射抜くような眼差しがマックスの顔を捉えていた。

ジーナ

答えてよ!

マックス

その通りだと言ったら?

ジーナ

え…?

マックス

俺がもし、こいつのいう通りジェシカたちに命令して

マックス

エレノアを窓から突き落とさせたんだと言ったら

マックス

君はそれを鵜呑みにするのか?

ジーナは困惑気味にヴィクターを見た。

ヴィクター

それが事実だろう?

マックス

マックス

それじゃあ聞くがね、刑事さん

マックス

俺とエレノアが仮に兄妹としよう

マックス

あんたの推理だと兄である俺が実の妹のエレノアを

マックス

ジェシカたちに指示させて殺させたことになっている

マックス

でも、その動機は?

ヴィクターは無言のまま、じっとマックスを睨んだ。

マックス

どうした?

マックス

兄が妹を殺す動機ってものがなんなのかを俺は聞いてるんだぞ

ヴィクター

動機はまだ分かっていない

途端に、マックスは嘲笑を浮かべた。

マックス

ほら見ろ!

マックス

俺とエレノアの関係を勝手に決め付けたところで

マックス

結局は殺害する動機なんか一つも見付けられてないんだ

マックス

ジーナ

マックス

こんな出任せをまさか信じる気じゃないよなぁ?

ジーナ

………

マックス

疑ってるのか?

ヴィクター

いつまでも隠し通すのは無駄だぞ

ヴィクター

確かに動機は分かっていないが

ヴィクター

捜査で得たお前の過去から推理することは出来る

マックス

俺の過去だと?

ヴィクター

お前を預けた親戚のアンダーソン家から話を聞いたんだよ

ヴィクター

当初は中々口を開いてはくれなかったがね

ヴィクター

ヴィクター

お前とエレノアの両親であるアリスとウィリアムは

ヴィクター

2人をとても寵愛していた

ヴィクター

お前とエレノアの兄妹関係も良好だったと聞いたよ

ヴィクター

ところが、突然お前のエレノアに対する態度に変化が現れた

ヴィクター

お前は妹に暴力を働いた

ヴィクター

やがて、エレノアの身を案じた両親の決断により

ヴィクター

お前は親戚であるアンダーソン家へ引き渡されることになった

ヴィクター

なぜ、エレノアへの態度に変化が起きたのか?

ヴィクター

ヴィクター

これは憶測になるが

ヴィクター

エレノアは自分が妹だという認識を無視し

ヴィクター

兄のお前に好意を抱いていた

ヴィクター

当初からエリート願望のあったお前は妹に優しく諭したかもしれない

ヴィクター

「兄妹の愛は実らない」と

ヴィクター

だが、エレノアの気持ちは変わらなかった

ヴィクター

やがて、お前の妹に対する見方に変化が現れた

ヴィクター

可愛い妹から自分の将来に悪影響を及ぼしかねない脅威と、ね

マックス

バカバカしい!

マックス

いくら一方的な好意を持たれたからって

マックス

自分の妹を将来の脅威と見るなんておかしいじゃないのか

ヴィクター

それじゃあ、お前がアンダーソン家に引き渡される直接の原因となった

ヴィクター

エレノアへの暴行についてはどう説明をするんだ?

マックス

………

ヴィクター

お前は常々、両親に将来を期待されて育ったのかもしれない

ヴィクター

将来、エリートへの道に上る目標を掲げていただけに

ヴィクター

些細な悪影響になり得る事柄にも異様に敏感だったんだろう

ヴィクター

アンダーソンご夫妻も言っていたが

ヴィクター

お前は常にトップに立つための努力に必死だったという

ヴィクター

いつか、エレノアの自分に向けられる恋心が将来に響くリスクがある

ヴィクター

それで、諭すのが無理だと分かり

ヴィクター

最終的に暴力で教えることにした

ヴィクター

違うか?

マックスの表情は変わらなかったが、息づかいは荒かった。

ヴィクターはジーナたちに視線を向けた。

ジーナのそばにいたナディアはいつの間にかなにかを握っていた。

瓶に入った硫酸だった。

淡々と語るヴィクターにマックスの注意が向けられていた間に、

ナディアはスチールラックから硫酸入りの瓶を手に取ったのだ。

ヴィクター

(あとはこいつの目を他に移せれば…)

突然、マックスがヴィクターに向かって迫った。

が、その足はすぐに止まった。

ジーナが震えながらマックスの行く手を塞いだのだ。

マックス

どけ

ジーナ

いいえ、どかないわ

マックス

どくんだ!

ジーナ

あなた…ずっと私を騙してたのね

マックス

なにを言い出すんだ、いきなり?

ジーナ

私、エレノアから聞いたことあるの

ジーナ

「薔薇の隠し事」を昔、一緒に観に行ったときに彼女は

ジーナ

「この2人は再会を本当に喜んでいる」

ジーナ

「もう永遠に離ればなれにはならない」

ジーナ

「私もいつかそうなれればいいな」って

ジーナ

そう言って、彼女は兄に付けられたという傷跡を見せたの

ジーナ

そのときの彼女、泣いてたわ

ジーナ

彼女はあなたが実の兄であることを私を含め

ジーナ

周囲の人にも一切話してなかった

ジーナ

多分、あなたに遠慮をしていたんだと思う

ジーナ

でも、あなたとエレノアが他人の振りをしてダンスを習う様子が

ジーナ

今思うと「薔薇の隠し事」に出てくる2人とよく似ていたわ

マックス

もういい、どくんだ

ジーナ

正直に言ってちょうだい

マックス

なにを正直に話すんだ?

マックスがイライラした様子で怒声を上げた。

それを合図にしていたかのように、

ナディアが素早くヴィクターの背後に移動した。

マックスは目の前に立ちはだかるジーナ以外はなにも見えないらしく、

ナディアが動いたことに気付いていなかった。

ジーナ

あなたがエレノアを殺すよう指示したの?

マックス

またそれか…

ジーナ

私、もうあなたを信じられないわ

ジーナ

エレノアを泣かせたあなたが彼女の復讐を果たすなんて…

ジーナ

ジェシカたちを殺した動機も本当は別にあるんでしょ?

ヴィクターは突然、手に猛烈な熱を感じた。

と、同時にジューッという音も耳に入った。

ナディアが瓶から流した硫酸が両手首に縛られたロープを焼いたのだ。

ヴィクターは歯を噛み締め、両手に感じる高熱に耐えた。

一方、マックスとジーナの睨み合いはエスカレートしていた。

マックス

そのバカみたいな想像力をもう一度俺に向かって言ってみろ

マックス

お前もただじゃおかないぞ?

ジーナ

好きにしてみなさいよ!

ジーナ

私はエレノアのために今回の計画に加わる決意をしたのよ

ジーナ

それなのに、それなのに…

ジーナ

クソ野郎!

ジーナが発した言葉とも、声とも思えない怒号が響いた。

マックスの中でなにかが切れた。

彼は持っていた注射器を放ると、

ジーナの髪を鷲掴みにし、激しい平手打ちを食らわせた。

ジーナが悲鳴を上げてスチールラックに激突した。

ナディアが声にならない悲鳴を上げて瓶を放り投げた。

硫酸入りの瓶が粉々に砕ける音が響いたのと、

ヴィクターの両手首を縛るロープが千切れたのはほぼ同時だった。

2020.05.31 作

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