静寂

ガチャ

僕には 出来の良すぎる"弟"が居る

学力では数十年に1人の逸材 と言われ運動をさせれば直ぐに 全国レベルまで上り詰める

高い学力と運動能力 その上人を惹きつける 話術と笑顔

僕とは全く正反対の素質を持つ 双子の弟

松野 千冬

同級生たちより 華奢な体型 とがった顎 白く透き通る様な肌 長いまつ毛下の薄茶色の双瞼まで

鏡に映した様に 僕らは同じ形をしていた

どうせ素質も性格も似ていない 姓も違う双子なら

外見も全く似ていなければいいのに 僕は心からそう思っている

10年前........

母の実家は 地方の大地主であり複数の会社 を経営していて その全てをグループの会長である 僕らの祖母が束ねていた

その年の夏休み 僕らは新潟の 『花垣本家』に呼び出された

僕と千冬はいつもの様に おばあちゃんの家に 遊びに行くのだと そう思っていた

子供だった僕には 分家の子供だった父が早くに両親 を亡くし本家から援助を受けて生活 していた事やその本家の1人 娘で婚約者のいた母と半ば強引に 結婚した事

ましてや、父の両親が祖母から 少額ではない借金をしていた事など .... 知る由もなかったのだけれど

あの場で 僕は頷かなければいけなかった

そうでなければ 『皆が困るから』

この 世界中から愛されている様な 立派な弟は

真っ直ぐで綺麗で 恵まれた人間だけが言える言葉

イライラする

千冬は知らない

千冬目当てで 僕に近づく人間が少なくない事

三ツ谷さんは 嘘をついた訳じゃない

昔の生徒の事なんか 忘れていただけだ

........僕は

あの人の言葉だけ 聞いていればいい