蘭に無理矢理引っ張られて、オシャレなカフェに訪れた。
事務所を出る前に抑制剤を飲んだお陰で幾分か楽にはなったが、頭から竜胆の顔が離れない。
──本当は会いたい。けれど会ってしまったら、俺の感情が取り返しがつかないことになるのはわかっている。
それに竜胆にも、他の人にも迷惑を掛けてしまう。何より自分を犠牲にしてまで俺に寄り添ってくれているマイキーに、顔向けができない。
蘭
春千夜
蘭
春千夜
蘭
俺の悩みをよそに、蘭は沢山のケーキを注文して鶴蝶の惚気を延々と語っている。視覚からも聴覚からも甘味に侵されそうで、俺はげんなりしていた。
女性1
女性2
女性1
女性2
静かな店内では、聞きたくない会話も聞こえてくる。
蘭の耳にも届いているはずだが、全く気にした様子もなく楽しそうにケーキを食べている。
春千夜
気がつくと蘭は俺の様子をジーッと見ていて、おもむろに頭を撫でてきた。
蘭
春千夜
蘭
蘭はふわっと笑うと、自分のモンブランをフォークで取って俺の口元に差し出した。
蘭
春千夜
蘭
春千夜
蘭
──…本当はずっと気になっていた。俺と竜胆がパートナーになりきれなかった最大の理由だ。
背に腹は返れなくてモンブランを食べると、たしかに濃厚な栗の味がして美味しかった。
春千夜
蘭
春千夜
蘭
拍子抜けした。確かに蘭はずっと精神が安定していたが、ここまで天真爛漫なイメージはなかった。
春千夜
蘭
13歳の時、俺は学校で実施されたダイナミクスの検査で『Sub』だと診断された。
俺自身も当然ショックだたけれど、それ以上に両親が衝撃を受けた──……いや、失望したようで、酷く叱られた。
父親
母親
父親
蘭
それからは地獄だった。父親と母親は、長男がSubで生まれてしまった罪を擦り付けあって離婚寸前。
父親は俺がDomとして偽って生きていけるように、強い精神力を身に付けさせようと躍起になった。暴言に暴力、時にはコマンドを使って叱りつけられて、酷いもんだった。
その内に俺は荒れ始めて、不良の世界に片足を突っ込むようになった。竜胆は俺を気遣って一緒についてきた。
──そしてあの日、俺達は格上だと思っていた『狂極』を潰した。総長も副総長もDomだった。恨めしいDomをボコボコにして、言い知れないほどの快感を知った。
その時の俺は、副総長の遺体を見て笑みが溢れるほど狂っていたんだ。
蘭
少年院に行ってからも俺の攻撃性は止まらなかった。むしろ周りはDomだらけだったから、おかしな競争心が芽生えて悪化していった。
その日は手頃なDomを取っ捕まえて、半殺しにしていた。いつもは見て見ないふりをしていた竜胆が、珍しく止めに入ってきた。
竜胆
蘭
竜胆
蘭
俺は竜胆の言葉を無視して、気を失ってるDomに拳を振りかざして再び殴ろうとした。
竜胆
急なコマンドに驚いて、俺は動きが止まった。 その時の竜胆はまだダイナミクスの検査を受けていなかったから、自分でもDomだということを知らないはずだった。
竜胆
竜胆のコマンドに勝手に体が動いた。震えながら従うと、竜胆は俺を抱き締めて頭を撫でてくれた。
竜胆
その瞬間、全身に言葉では表せないくらいの安心感が広がって、俺は泣き崩れた。
──ずっと俺はSubである自分を否定され続けてきた。そして誰よりも、俺自身が俺を否定していた。
その時に気付いたんだ。俺の攻撃性は、Subの性質上のネガティブ思考からくるものだったんだって。
竜胆
竜胆
竜胆
蘭
春千夜
なんて言えば良いのかわからなかった。まさか2人にそんな過去があるとは思っていなかった。
蘭
たしかにそうだ。蘭とプレイする時はひたすら優しかったのに、被虐心が強い俺の前では飴と鞭を使い分けていた。
私生活でもよく気が利くお陰で斑目みてーな馬鹿には愛されてるし、俺に楯突く時は大体が配下の気持ちを汲み取っての行動だ。
蘭
春千夜
蘭
春千夜
やけに惚気ると思ったら、そういうことだったのか。
蘭
春千夜
蘭
春千夜
蘭
春千夜
蘭
まさか竜胆がそんなことを考えていたとは、夢にも思わなかった。
竜胆
蘭
竜胆
蘭
竜胆
蘭
竜胆
蘭
竜胆
蘭
竜胆
──…けど、もしチャンスがあるなら三途に伝えたい。俺の本当のパートナーはお前だけだったって。
大事にできなくてごめん。信じて貰えないかもしれないけど、気付かない内にお前は俺にとってかけがえのない存在になっていたんだ。
俺は竜胆からパートナーとして想われていた。その事を知った瞬間に、涙が溢れ出てきた。
春千夜
蘭
蘭
蘭
蘭はにっこり笑って、甘ったるいガトーショコラをフォークで切って俺の口元に差し出した。
凍てついていた胸に、温もりが広がった。
──やっぱり竜胆に会いたい。俺にはアイツしかいないんだ。
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ギャァァァァァァァァ(泣)続き待ってマァァァス