とある夢を見た
きっと幼子の時の夢
母親が優しい声音で
おいで…おいで……
って手招く
必死に母の元に行くも
その場で転けて泣く赤子
駆け寄り慰める父と母の姿
初めて母の名を呼んだ時は
半泣きで褒めていた
あぁ………
懐かしい
そんな夢ほど怖いものはない
次の瞬間
あの優しい事から
想像の出来ない闇に
落ちていった…
頭がおかしくなるような
空間で目眩がする…
そして、
ガラスが割れるような音で目が覚めた
こんな縁起悪いもん
朝から見たくなかったな…
夜月
まぁ、見てしまったものは仕方ない
ベッドの上でしばらく座った後
もう一度布団へ潜る
両親はこの5年近く帰ってきてないと 言うのに
どうしてこんな 思い出が今更あるのだか…
人間とはめんどくさい 生き物
ダメ人間はダメ人間らしく
昨日飲んだであろう 睡眠薬の瓶を手に取り
ボーッとしていると
幼子の時に買ってもらったぬいぐるみが 目に止まった
もう随分ボロボロ
ホコリも被ってる
昔はこれを必ず隣に置いて寝ていたのに
もう使い物にならない
テレビでこんなものを昔見た
インチキではあるが…
【大切にしていた人形に4日話しかけ】
【日記を書く】
【己の願いを書いた紙を】
【人形の腹部に埋め込み】
【それを枕元に置けば叶う】
なんて言ってた
そんな今更…
考える前に行動へ入っていた
夜月
書いた内容は……
言ったら叶わないとかあるし
言わないでおこう
1日目
そう変わる事はない
そりゃそうか?
2日目
やはり変わる事はない
3日目
変化なし
4日目
その日は確かに声がした
ただ…
どこかで聞いた事のある少年の声
どこかの古いビデオの実写に思えた
どのビデオだったかな…
少年は確か、
俺に呼びかけていた
無邪気で
どこか自分を求める声
兄さんと呼んでいたんだ…
もう一度会いたい
それしか脳になかった
また同じことを
繰り返し
繰り返し
繰り返し…
気づけば人形はズタズタになり
醜く縫い目が目立った
何故だか人形の綿が赤い…
傍から見たら気味悪い光景だろう
が…
俺はそんな事思う事もなかった
もっと…
もっと会いたい
あの少年に
今は声しか聞こえない
いつか兄と呼んで 駆け寄ってくれる少年に
でも……
誰?
こいつは誰だ?
………………
関係ないか
どうでもいい
あの少年だけは
話を聞いてくれた
それだけが全て
もっと睡眠薬があれば会えるんだ
そうだ
いっそ夢から覚めなければ
この時の俺には 正気という文字はなかったのだろう、
やっと認めてもらえた
やっと評価された
くだらない事も笑ってくれた
でもそれは夢の話
そんな事ほど悲しい事はない
次の日の夜
また夢を見た
ここ最近ずっと
あの少年と話す
今日はいつもと違う場所で 目が覚めた
綺麗な花畑で
向こうには眩しく水面が光る川
振り返れば森と小屋
いつもなら真っ暗な中話していたのに
少年
いつもの声がした
その方向に目をやると
ちゃんと姿が写った少年が 微笑んで立っていた
夜月
夜月
嬉しかった
やっと求めていたものが目の前にあるのだから
でもその姿も見覚えがある気がした
純粋な笑みでこう続ける
少年
少年
夜月
夜月
夜月
夜月
即答出来なかった
こんなに幸せなのに
少年
少年
何を言ってるんだろう
少年
少年
少年
あぁ……それがいい
睡眠薬の味にも飽きてきた頃
頷くと少年は嬉しそうに 腕を引き始めた
楽しい時間
そうして俺は夢に閉じこもった
起きる事の無い夢へ
…………それに
あの少年が俺の事を分かってても
当然だろう
あの姿……
声は……
幼き俺そのもの…
そして…
あの時書いた願いは……
………………
……………
…………
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!