テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ステンドグラスから、色のない光が差し込んでいた。
天井の高い、誰もいないチャペル。
椅子は整然と並び、奥にはひとつの祭壇。
でも、そこに"神"はいなかった。
レイ
レイが、静かに言った。
今日は司祭の格好をしている。
ローブの裾が音もなく揺れる。
レイ
私は、チャペルの奥へ歩いていく。
歩くたびに、記憶のかけらが床に浮かび上がる。
「いい子でいてね」
「君ならできるでしょ」
「あんたが我慢すれば、全部丸く収まるの」
どれも、大人たちの"正しさ"だった。
それに私は、いつも頷いてきた。
祭壇の前に立つと、そこには鏡があった。
神像の代わりに、私自身が映っていた。
日向
私の声が、チャペルに反響する。
日向
レイがそっと隣に立つ。
レイ
私は鏡に手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、鏡にヒビが入る。
ぱきんーーという小さな音とともに、世界が揺らいだ。
ステンドグラスの色が落ちていく。
椅子が消え、床が崩れ、レイまでも白い光の中に溶けていく。
でも、怖くなかった。
私は、やっと"神さまに見放された子"じゃなくなった。
たとえ祈りが届かなくてもーー
私は、自分を見捨てない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!