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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

俺は合理的に生きていく。

変えることの出来ない過去に すがりつくなんて愚かなマネはしない。

大事なのは「今」と「未来」 過去は過去。

ひりあ小学校同窓会会場

やけにカクカクした字体の看板が設けられた会場には、既に二十数人ほど人が集まっていた。

女は「どこそこの化粧品が良い」だの「夫が一括で車を買った」だの マウントを取り合い

男は早くも酒に酔って、動作と声が無駄に大きい。

話の内容は大人だが やってることは小学生と一緒だ。 下らない。

この会の幹事で、当時の学級委員長が作成した 実質強制参加の召集礼状がなかったら 絶対に来なかった。

口の端を曲げてため息を吐くと、誰かが俺の背中を叩いた。

蓮じゃん。久しぶりィー

聞いたぜ。なんかイチリューキギョーに勤めてるらしいじゃん。同窓会に参加する暇とかあったん?

ねぇよ。

まあな

でさー、ちょっと聞いて欲しいんだけど…

何が「でさー」かよく分からなかったが、元クラスメイトが やたら真剣な顔をしていたので聞いてやることにした。

今日シンジ来てねぇじゃん?

ああ……確かに来てないな。こういうの好きそうなのに

あいつさ、死んだんだよ

…………マジで?

もしかして初耳?

うん。俺この町に着いたの30分前だし

お前は中学の時に この町を離れたもんな

結構騒がれたんだぜ。シンジの奴 変死したから

腕と足が変な方向に曲がった状態で死んでたんだって

腕と足…

それでさ、こっから先はオレしか知らないんだけど…

ユウタっていたじゃん。お前と同じように中学で引っ越した…

………アイツも中学に上がって少しして死んだらしいんだよ。自殺だって

……………へぇ

で、ユウタがこの町にいた頃に住んでた家。今廃墟になってんだけど…………「出る」って噂でさ

中学の時、シンジと2人で廃墟探検みたいなことしたんだ

…………そん時に悪ノリで、廃墟の中にあったモン2~3個くすねたんだよ

それで……さ、シンジが死んだのって それ が関係してるんじゃないかって……

廃墟から くすねたヤツ返さないとマズイよなって………オレ返しに行こうと思うんだけど、付いて来てくんね?

途中から真面目に聞くのが馬鹿らしくなった。

やたら真剣だったので話を聞いてやれば、ただ「2時間ドラマごっこ」に付き合わされただけだった。

いや……1人で行けよ。お前何歳だよ

だいたい そんなに怯えるなら始めから廃墟探検なんかするなって話だ。 下らない。無駄な時間を過ごした。

適当にあしらって その場を離れようとしたが

ユウタの……自殺した理由知ってるか?

小学校の時の いじめがトラウマで学校に馴染めなかったんだってさ

____そのトラウマを作ったのはお前とシンジだろ

嫌な名前を聞いて、立ち去ろうとした足が止まった。

お前だって同罪だろ
ユウタを売ったのはお前じゃんか

仁は俺の肩に手を回した。 不快で醜い笑みがすぐ近くにあった。

オレら友だち だろ
な?頼むよ

___だから小学校の同窓会なんて来たくなかったんだ。

宝探しゲームしよう。蓮くん

ぼく が隠したから蓮くんが見つけてね。何を隠したかは 紙に書いてるから

制限時間は30分

ハズレを開けたら罰ゲームね

もう思い出すことは無いと思っていた思い出は、簡単に脳内で再生された。

それはきっと二十数年ぶりに、ユウタの家を訪れたからだ。

紅茶とお菓子の匂いに満ちていた家は、今はカビと埃に満ちていた。

あの時とは変わり果てたユウタの家。___だから昔を思い出すんだ

一瞬 靴を脱ぐべきか考えたが、埃だらけの床を靴下で踏むのは嫌だったので土足で家に上がった。

ぱさ。

なにかが。 家に上がった瞬間、上から なにかが落ちてきた。

当然 電気などつかないので、スマホで落ちてきた なにかを照らした。

落ちてきたのは、一枚の紙。 血のように赤く歪(いびつ)な文字が踊っていた。

よ う こそ

___隣の仁が、しゃっくりのような声を出して俺にくっついてきた。

なん………なんだよコレ…

前の訪問客の悪趣味な置き土産だろ。誰でも入れるんだろ、ここ。鍵とかかかってなかったし

………でもさぁ
この字……ユウタのに似てね…?

馬鹿馬鹿しい

仁は俺から離れずに喋り続ける。

シンジがな………よく動画サイトに動画をあげてたんだ

そんで「懐かしの廃墟探検動画を撮る」ってラインを最後に………アイツと連絡取れなくなって

____それで、その何日か後に…こ、この廃墟でアイツの変死体が見つかったんだ。…………絶対ヤベエよ、ここ…

いいからもう離れろよ…

密着状態にいる俺達の足下に また 紙が落ちてきた。

~た から探 し ゲー ム~ ・コ イン 20 まい ・た から も の せい げ ん時か ん 30分

…………なにこれ。なあ蓮なにこれ

____知らねぇよ

そう言いながらも、そのゲームに覚えがあった。

既視感とかではない。 俺は小学校低学年の頃、何度もこのゲームで遊んだ。

誰かのイタズラだろ。下らねぇ。
さっさと盗んだモン返して帰ろうぜ

そ、そうだな…

仁が おそるおそる といった体(てい)で盗んだ物を床に置くと、俺は玄関に向かった。 早く出て行きたかった。

しかし。 入る時は何の抵抗も無く開いたドアは、押しても引いても びくともしなかった。

背中に汗が流れた。 後ろから仁の泣きそうな声が届いた。

なぁ……俺たち閉じ込められた、とかじゃないよな…?

………他にも窓とかあるだろ

俺は仁を押し退けて窓や勝手口を調べてみたが____ どれも溶接されているかのように1ミリも動かなかった。

舌打ちして窓を殴りつけた俺の足下に、3枚目の紙が落ちてきた。

あ と2 5 分

なあ蓮…………
シンジが死んだのって…コレが原因じゃねぇよな……?

俺たちもシンジみたいに死ぬのかなぁ…?
俺死にたくねぇよ……!

………だったらちょっとは頭を働かせろよ

悪趣味な誰かのイタズラだろうがユーレーの仕業だろうが、ここまでお膳立てされたら 付き合うしかねぇだろ

______宝探しゲームに

ユウタ___優太には友達がいなかった。

どんくさくて要領が悪くて、何をするにもクラスで一番遅かった。

たまたま隣の席に座っていた俺が優太のお世話係を命じられ、遊んでやれと言われた。

鬼ごっこもかくれんぼも楽しくなかったけど、唯一楽しいと思えたのが「宝探しゲーム」だった。

おもちゃのコインや宝石、ビー玉などが入った箱を制限時間内に見つける__と言う遊びだ。

いくつか「ハズレ」と呼ばれるダミーもあって、それを開けたら罰ゲームがある。

優太の家で、庭で、近くの林で夢中になって遊んだけど 学年が上がるにつれ他の物に興味が向くようになった。

だんだん優太と遊ばなくなったけど、 あれは小学校6年の時だった。

「いいな」と思っていた女子が席替えで優太の隣の席になった。 俺は さりげなく優太に席を代わるよう頼んだ。

難しい年頃の俺は「気になってるから」と言えなくて、察しの悪い優太にだんだんイライラして

「そんなことより宝探しゲームしようよ。久しぶりに一緒に遊ぼう」 満面の笑顔でそう言った優太に ついに切れた。

気になっている人と隣の席になれるかどうか__あの時は十分に死活問題だったのに「そんなことより」で済まされたのが許せなかった。

だから俺は、クラスで猛威を奮っていた仁とシンジに告げた。 「優太がムカつく」と。

1週間もしないうちに、優太へのいじめが始まった…

子供部屋___かつての優太の部屋のベッドの下。 優太の家で宝察しゲームをする時は必ず覗く場所。

埃まみれの床に、あの頃と同じように手をついて覗き込むと あの頃と同じように小さな箱があった。

箱を引きずり出すと、小学校時代の記憶も一緒に付いて来た。

____周りをイライラさせることの方が多かった優太。いじめが始まっても誰も助けようとはしなかった。

教室の雑巾がけ、給食の早食い… 仁とシンジは 何かにつけて「競争しよう」と持ちかけ

強制的に優太に最下位の座を与え、「罰ゲーム」と称してプロレス技を_____…

……あれ?

「罰ゲーム」と言う言葉に引っ掛かりを覚えた。 ___優太を苦しめたその言葉を、俺は優太から聞いている。

宝探しゲームをする前に、優太はいつも満面の笑みで……

「ハズレを開けたら罰ゲームね」

待てよ。じゃあまさか……

ギャアアアアアアアアッ

廃墟に男の___仁の絶叫が響いた。

様子を見に行くまでもなく、仁がどうなっているか分かった。

手足が変な方向に曲がった変死体。 罰ゲームと称して与えた関節技。 「ハズレを開けたら罰ゲーム」

全部繋がった。 全身から汗が吹き出た。

じゃあ俺がベッドの下から引きずり出したこの箱は……? ハズレだったら俺はどうなる…?

ガチガチと歯が鳴るのを自覚しながら、ゆっくりと箱を開けた。

開ける瞬間はさすがに直視出来なかった。

閉じていた目を開けて、手足の無事を確かめると箱の中を覗き込んだ。

中に入っていたのは、一枚の写真だった。

こちらにピースを向ける2人の男子。 小学校低学年の優太と俺だ。

何の機会で撮ったのかは覚えていないけど、優太がひどく喜んでいた。

「ぼくの宝物にする」 「この写真と一緒に寝たら夢でも遊べるかな」

写真を裏返すと拙い字で 「たからもの」 と書いてあった。

こんなどこにでも在りそうな写真を優太は「宝物」と言った。 何よりも嬉しそうだった。

優太の中では、どんな物よりも価値のある

宝物の在り処。 なぜか涙が止まらなかった。

きっと実家を探せば優太との写真が出てくるはずだ。捨ててはいないはずだ。

____涙でぼやけた俺の視界に、 また紙が落ちてきた。

あ と 15 分

…………………はは

渇いた笑いが漏れた。 笑うしかなかった。

どこにでも在りそうな写真を「宝物」と喜んだのは所詮過去。

過去は過去。 大事なのは「今」と「未来」。

仁とシンジに売って勝手に縁を切って、中学進学を理由にこの町を出て行った俺に

優太はどんな思いを抱いたんだろう。 どんな思いで死を選んだんだろう。

ははははは…

ハズレを開けたら「罰ゲーム」。 もちろん時間内に見つけることが出来なくても「罰ゲーム」。

指定されたコイン20枚はまだ見つかっていない。

あと15分以内に見つけないと きっと俺も…

俺は合理的に生きていく。

過去にすがりつくなんて愚かなマネはしない。 過去は過去。

一流企業に勤めて俺は勝ち組になる。

過去に殺されるなんて絶対に御免だ。

たから………もの……たからもの……………タカラモノ

__男はフラフラと廃墟の奥に消えて行った__

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コメント

8

ユーザー
ユーザー

ううう、好きです😢😢😢

ユーザー

落とし所がとても考えさせられますね···この後どんな結末が待っているのだろう? とても面白かったです!

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