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第1話 - あ

2023年12月14日

#恋愛

結城　真矢

ナオト

おい姉ちゃん！俺の部屋散らかってるんだけど何やってんだよ！

ナオト

さっさと掃除しに来いよ！

アスカ

どうして私が？散らかしたのはあんたでしょ。自分の部屋くらい自分で片づけなさいよ

アスカ

私今、テスト勉強してるのよ

ナオト

は？そんなもん今すぐやめろよ！女に勉強なんか無駄だから

ナオト

それより、家事をやる方が遥かに大事だろ

アスカ

ただでさえ私、家中の家事をやらされてるのよ。掃除も洗濯も料理も！

アスカ

それをあんたは全部免除されて、それなのに碌に勉強もせずに遊んでばかりで、

アスカ

私よりずっと成績悪いじゃない！

アスカ

なのになんで、私があんたの部屋の掃除までしなきゃならないのよ

ナオト

そんなの、家事は女の仕事なんだから当然だろ

ナオト

俺達は姉ちゃんが嫁に行く前に、

ナオト

家事スキルを身に付けさせようとしてやってんの

ナオト

わかったらゴチャゴチャ言わないで、掃除しに来いよ！

アスカ

今時そんなのおかしいよ

アスカ

もう嫌だよ。あんたが散らかすたびにどうして私が掃除しに行かされなきゃいけないの

ナオト

うるせぇ！文句言うなら母さんに言いつけるからな！

～数分後～

シズヨ

アスカ！どうしてナオトの部屋くらい掃除してあげないの。お姉ちゃんでしょ

シズヨ

ナオトが汚い部屋で嫌な思いしててもいいっていうの！？

アスカ

それなら自分で掃除したらいいだけじゃん！

アスカ

私は勉強してるんだってば

シズヨ

そんなことしてる暇があったら家事をしなさいって言ってるの！

シズヨ

女の子なんだからそれくらいしなさい！

アスカ

だったらお母さんがやればいいじゃない！お母さんだって女なんだから！

シズヨ

まぁっ、家事を母親に押し付けるなんて、なんて娘だろうね

アスカ

もう私は充分家事をやってるじゃない！

アスカ

家事も勉強も何もやらず、遊んでばかりで家事を人に押し付けてるのはナオトの方じゃない

シズヨ

弟のことを悪く言わないの！

シズヨ

ナオトはやればできる子なんだし、男の子は家事なんかしなくていいんだから

アスカ

何それ…いつもいつも、お母さんはナオトだけ甘やかしすぎ！

アスカ

お小遣いも私だけ少ないし、

アスカ

私だけ行きたい高校にも行かせてもらえなかった！

シズヨ

当たり前よ。女の子が進学校なんか行っても意味ないの

シズヨ

高校行かせてあげただけでも感謝しなさい

アスカ

入学祝をしたのだってナオトだけで、しかも私は祝いの席にも入れてもらえずに、

アスカ

後片付けだけさせられたよね…

シズヨ

ナオトの祝いにあなたは関係ないもの。後片付けという役目は与えてあげたけどね

アスカ

昔からナオトばかりあからさまに可愛がってたよね。ナオトだけ何でも買ってもらえて

アスカ

私なら怒られることでも、ナオトは怒られず何をやっても許されてた

シズヨ

そうよ。母親は娘より息子の方が可愛いの

シズヨ

だって息子っていくつになっても小さな彼氏みたいなんだものｗ

シズヨ

それに比べて、娘は言葉も早くて生意気なこと

シズヨ

家において、家事や弟の世話という役割を与えてやってるだけでも感謝してほしいわ

シズヨ

どうせ大学には行かせないんだから、

シズヨ

勉強なんてムダなあがきより、ナオトの部屋の掃除を優先しなさい

アスカ

もう嫌だこんなの。お父さんも私達のこと見て見ぬふりだし…

アスカ

お母さんになんて言われようと、奨学金借りてでも大学に行って家を出るから

アスカ

お母さんも嬉しいでしょ。嫌いな女の子が家を出て行ってくれるんだから

シズヨ

勝手にしなさい。こんな反抗ばかりで役立たずの娘は要らない

シズヨ

私にはナオトがいればいいもの

シズヨ

女のくせにこんなに生意気で、きっと碌な人生歩めないに違いないわ

アスカ

はいはい

シズヨ

でもこの家にいる間は、ナオトの部屋の掃除はやってもらうわよ

～数年後～

シズヨ

久しぶりね、アスカ

アスカ

え、お母さん？どうしたの何年も連絡なかったのに

シズヨ

それどころじゃないのよ。今すぐ戻って来なさい

シズヨ

ナオトが、本当に可哀想なことになっちゃったのよ

シズヨ

不幸な事故で、半身不随になってしまったの…

アスカ

えっ、ナオトが！？

シズヨ

そうよ。内定祝いで大学の仲間と飲み会の帰り、

シズヨ

ついほろ酔いで新車のアクセルを踏みすぎてしまって、

シズヨ

電柱に衝突…慌てて救急車を呼んだけど、大怪我を負ってしまったの

シズヨ

しかも利き手である右手が動かなくなって、

シズヨ

お医者さんが言うには回復の見込みはなく、一生このままだろうって…

シズヨ

あぁ、可哀想なナオト。なんでこんなことに…

アスカ

なんでこんなことにじゃないよ

アスカ

それって、飲酒運転じゃない！何やってるのよナオト…

シズヨ

可哀想なナオトを責めないでちょうだい

シズヨ

ちょっと浮かれて飲んじゃっただけよ

シズヨ

それなのに、会社も可哀想なナオトの内定を取り消すし…酷いわ！

シズヨ

この先ナオトはどうすればいいのよ！

アスカ

そりゃ当たり前じゃない。飲酒運転で事故を起こしたんだから

シズヨ

うるさいわね！姉のくせに弟に同情もしないの！？血も涙もないの！？

アスカ

だって、自業自得だもの

アスカ

お母さん達が甘やかした結果でもあるけどね

シズヨ

相変わらず生意気で反抗的な娘だこと！

シズヨ

いいからあんたはさっさと実家に帰って来なさい！

アスカ

なんでよ？

シズヨ

なんでって…ナオトの面倒を見るために決まってるでしょ

アスカ

え？なんで私が

シズヨ

ナオトの入院中に色々介護の勉強もしたんだけどね、

シズヨ

お父さんは無関心だし、私一人じゃ無理だという結論が出たのよ

シズヨ

ナオトは絶望して荒れまくってるからなおのこと

シズヨ

だから、あんたが面倒を見なさい

アスカ

お母さんには小さな彼氏とやらのナオトだけいればいいんじゃなかったの？

シズヨ

まぁっ、こんな時にまで逆らう気！？

シズヨ

お姉ちゃんのくせに、弟の面倒を見る気もないの！？

アスカ

実家にいた時もそうだったけど、都合のいい時にだけ頼られても困るよ

アスカ

私にだって事情があるもの。こっちに仕事だってあるんだし

シズヨ

そんなの知らないわよ！

シズヨ

どうせ大したことない中小企業で働きながら貧乏生活してるんでしょ！

アスカ

自慢じゃないけど、大企業だよ

シズヨ

女が大企業で働いて何になるっていうの！

シズヨ

そんなものを優先して、可哀想な弟を、苦労している私を見捨てるっていうの！？

シズヨ

相変わらず優先順位がわかってない娘ね！酷いわ、薄情者！

シズヨ

いいからさっさと帰って来なさい！

アスカ

ある人がさっきからお母さんと話したがってるから、つなげるわね

（【ジュンコ】が追加されました）

ジュンコ

うちの娘に、何か用でしょうか？

シズヨ

へ？

シズヨ

何言ってるのよいきなり出てきて。アスカは私の娘よ。あなた誰よ！

ジュンコ

いいえ、アスカさんはうちに嫁いだのですから、もう我が家の娘です

シズヨ

嫁いだって、つまり、結婚したってこと…？

ジュンコ

申し遅れました。私、アスカさんの姑でジュンコと申します

ジュンコ

アスカさんは就職された大企業で息子と出会い、結婚しました

ジュンコ

姑である私とも快く同居してくれて、

ジュンコ

息子と二人でバリバリ稼いでは私に楽な暮らしをさせてくれて、

ジュンコ

本当に良い娘ですわ

シズヨ

なんですって！？結婚したなんて…そんなの聞いてないわよ！

ジュンコ

それは、あなた達に対して思うところがあったからではないですか？

シズヨ

な、何よ思う所って

ジュンコ

アスカさんから聞いていますよ

ジュンコ

弟さんばかり溺愛して、姉であるアスカさんとは

ジュンコ

あからさまに待遇に差をつけていたそうですね。それでいながら何かと面倒を見させて…

シズヨ

だったら何よ！

シズヨ

母親ってのはね、娘より息子の方が可愛いの！

シズヨ

むしろ娘には腹が立つのよ！

シズヨ

あんたにはどうせ息子しかいないからわからないでしょうけど

ジュンコ

私にも、遠くから仕送りしてくれる娘がいますよ。息子の姉です

ジュンコ

でも、あなたの気持ちはわかりません。どちらも可愛い子供ですから

シズヨ

そんなこと言わないで、本音を言っていいのよ！

ジュンコ

いえ、これが本音ですから

シズヨ

考えてもみなさいよ

シズヨ

私達が若かった頃、女というだけでどれほど差別され、不自由な思いを味わってきたか

シズヨ

それなのに娘は、私達の頃よりずっと自由が認められていて、そんな時代に生まれて、

シズヨ

見ていて腹立たしいし、ずるいじゃない

シズヨ

少しくらいいじめて、差別して、やっと公平になるってものじゃない？

シズヨ

そう思うでしょ

ジュンコ

思いません

ジュンコ

自分が辛い思いをしてきたなら、自分の子にはそんな思いをしてほしくないと、

ジュンコ

そんな思いをしなくて良かったと思うのが、親というものではないですか？

ジュンコ

それを、自分が抑圧する側になってどうするんですか

シズヨ

そんなのは綺麗事よ！

シズヨ

いいから、アスカを返しなさい！

シズヨ

所詮義実家が、出しゃばってくるんじゃないわよ！

ジュンコ

いいえ、返しません。アスカさんが嫌がってますから

シズヨ

そんなの許さないわ！私達はアスカと血の繋がった身内なのよ！

シズヨ

それなのに見捨てるなんて！

ジュンコ

さっきも言いましたが、アスカさんは我が家に嫁いだのですから、

ジュンコ

もうあなた方の娘ではなく、我が家の物です

ジュンコ

嫁の実家ごときが出しゃばらないでください。あなた方とはもう関係ありません

シズヨ

ごときって何よ…嫁の実家は夫の実家よりも下だっていうの！？

シズヨ

嫁いだら夫の実家の物だなんて…そんな時代錯誤なこと言わないでちょうだい！

ジュンコ

確かに時代錯誤なことを言いました。しかし、あなたには言われたくありませんね

ジュンコ

娘に、時代錯誤の男尊女卑を押し付けたあなたにだけは

シズヨ

うるさい！じゃあ私はどうすればいいの！？ナオトは、これからどうなるのよ！

ジュンコ

知りません

ジュンコ

息子さんがこうなったのも、元はといえばあなたが甘やかしたせいじゃありませんか

ジュンコ

親ならばせめて、その責任を取ってください

アスカ

お義母さん、ありがとうございます

アスカ

私の代わりに、母に言い返して下さって

ジュンコ

いいのよ、それよりこの人のことはブロックした方がいいわ

アスカ

そうすることにします

ジュンコ

後で一緒にお茶をしに行きましょうね

アスカ

はい！

ジュンコ

というわけで、シズヨさん、こんなに良いお嬢さんを産んでくださってありがとうございました

ジュンコ

後は私達にお任せください。それでは

～後日談～

アスカ

その後、弟のナオトからも

アスカ

『ババアの介護下手すぎるんだけど！この体じゃ彼女もできねぇし地獄！』

アスカ

『クソ姉貴早く戻って来いよ！』と連絡が来ましたが、即ブロックしました

アスカ

弟はいつ気付くのでしょうね

アスカ

彼女ができないのは体のせいではなく、女性を見下す自分の性格のせいなのだと

アスカ

ナオトはストレスを溜めて母に当たり散らし、

アスカ

母は疲弊してボロボロになっているそうです

アスカ

義母とお茶しているとき、義母は、かつて嫁いびりをされていた経験から、

アスカ

自分は嫁に優しい姑になろうと決意した、そうなれてよかったと思っている、

アスカ

と話してくれました

アスカ

私も、この先子供が生まれたら差別なんかせず、

アスカ

息子にも娘にも平等に愛情を注ごうと思う、と話しました

アスカ

自分の経験した辛い思いは、子供には味わわせたくありません

アスカ

自分の味わった辛い思いを娘に味わわせ、溜飲を下げていた

アスカ

母のような人間にはなりたくないと思いました

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結城　真矢

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