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第1話 - あ

2023年05月13日

#恋愛

結城真矢

ユキ

唐突ですが、あなたがコンプラ違反しているとの内通がありました

ヒロ

何だと？

ユキ

部下に「飲みにケーションと称して飲み会を強要している」

ユキ

という話が持ち上がっています

ヒロ

私は飲み会を強要したことなんて、ありませんよ！

ヒロ

有意義な会合だからと、みんな進んで出席しています

ユキ

ただの飲み会であったら、問題にはならなかったのでしょうが･･･

ユキ

あなたは飲み会で、部下の査定をしているそうですね？

ユキ

飲み会に参加しない人の査定は「協調性がないと評価し、」

ユキ

査定を低めにつけているそうですね？

ユキ

査定低下と左遷を恐れて、誰もコンプラ室に訴えなかったそうですが･･･

ヒロ

飲み会で査定などしていませんよ！

ヒロ

ましてや左遷など、私は人事には関わっていません！

ヒロ

どこからそんな話が出てきたんですか？

ユキ

あなたの部下たちの間で、そういう話が持ち上がっています

ユキ

それに、不平不満の声が上がっています

ユキ

役職は上なのに、自分から誘っておいて、代金は割り勘だし

ユキ

飲み会に出ても、損するばかりだと言われています

ユキ

時間とお金がもったいないなどと、反対意見もあるようですし･･･

ヒロ

「飲みにケーションは自由参加であり、強制ではないんですがねぇ」

ヒロ

今の若い子たちは飲みながらコミュニケーションをとる

ヒロ

重要性が分かっていないんですよ！

ユキ

コンプラ室に不満が上がるくらいですし、

ユキ

「飲みにケーションを止めてはいかがですか？」

ヒロ

どうしてそうなるのですか？

ヒロ

あんたたちみたいな肩書のある上司が

ヒロ

取るべきコミュニケーションを取らないから

ヒロ

代わりにやってあげてるんだ！

ユキ

私の一存ではありません。そういう訴えがあるのは事実です

ヒロ

一体、誰がコンプラ室に訴えるようなことをしたんですか？

ヒロ

私が直接、キチンと説明しますよ！

ユキ

個人情報なので名前を出すわけにはいけません

ユキ

ところで、「飲みにケーションの他にも」

ユキ

あなたの課だけ週1でレポート提出の宿題を出しているそうですね？

ヒロ

そうすると、部下たちを教育しやすいんです

ヒロ

手間暇かけてやると、それだけ部下をいい方向にもっていきやすいんです

ヒロ

レポートを書かせることで、その指標が分かりやすくなります

ユキ

飲みの場で、あなたが話した尊い話をちゃんと聞いていたか確認するために

ユキ

翌日レポートを提出するよう強制しているそうですね？

ヒロ

強制だなんて、それも自由提出ですよ

ユキ

あなたは飲みの場を利用して、部下たちから情報を引っ張りだして

ユキ

いたんですね？

ユキ

部下から出た営業以外の、企画や社内の改善案提出によって

ユキ

秀逸なアイデアや意見を、自分が出したものだと主張して

ユキ

手柄を横取りしてきたんですね？

ヒロ

私は、断じてそんなことはしていません！

ユキ

不満を抱き、コンプラ違反で訴えようとする社員の勤務を

ユキ

ことごとく邪魔して、左遷や退職に追い込んできましたね？

ヒロ

さっきから、そんなことはしていないと

ヒロ

言ってるじゃないか！

ユキ

あなたの部下たちの不満が爆発したんですよ！

ユキ

あなたの上司の部長は「事なかれ主義だから」

ユキ

訴えても取り合ってもらえないし、しかも噂が広まらないように

ユキ

口止めを強要するタイプだから、部下たちは泣き寝入りだったそうです

ヒロ

そんな事実はありません！

ユキ

残業廃止が叫ばれる中、行きたくもない飲み会でムダ金を遣いたくないと

ユキ

1社員に相談され、調査を始めました

ユキ

調査の結果、過去に退職した人全員が「ヒロが嫌だから辞めたと証言」

ユキ

があります

ヒロ

誰がそんな嘘を並べ立てているんだ！

ユキ

あなたは、「お忙しい部長に代わって、うちの課の連中を

ユキ

教育しておきましたなどと報告したうえで」

ユキ

休日のゴルフ場への運転手を買って出るとか

ユキ

上司へのゴマすりが上手くて、悪い噂が広まらなかったようですね？

ヒロ

私はそんな話は知りません！

ユキ

落ち着いてください。また、改めさせていただきます

～数日後～

ユキ

新しい情報が入りました

ヒロ

私が正しいと、分かっていただけましたか？

ユキ

あなたが正しいかどうか、まずは話を聞いてください

ヒロ

分かりました。まずは、聞かせてもらいましょう

ユキ

あなたの部下についてですが、部下たちを上手く使って

ユキ

残業をつけずに働かせていましたね？

ユキ

だから、あなたの課は成績が上位にあったようですが･･･

ユキ

その分、部下たちは疲労が重なって、

ユキ

遅刻や早退が増えて、個人の評価が上がらなかったんですよ

ヒロ

そんなことはない

ヒロ

皆には十分に休養を取ってもらっています

ユキ

あなたはレポートは強制ではなく、自由だと言ってましたが

ユキ

証言がとれました

ユキ

あなたがレポートを提出しなかった部下を

ユキ

怒鳴りつけていた音声も、手に入りました

ユキ

内容を聞きましたが、パワハラで訴えられる程の事案です

ヒロ

その音声は本当に、私のものですか？間違いなんじゃ･･･

ユキ

調査したら、次々と明らかになったことがあります

ヒロ

それらは、事実なのではなく

ヒロ

私を陥れようとする、罠なんじゃないんですか？

ユキ

他にも、セクハラ事案が持ち上がっています

ユキ

あなたは、女性社員に業務連絡をするとき

ユキ

ラインで、連絡事項をハートマークをつけて送ったり

ユキ

飲み会で酌をさせたり、頭を撫でたりしているそうですね？

ヒロ

そんなこと、私以外でもしているじゃないか？

ヒロ

嫌そうにしている訳じゃなさそうでしたが･･･

ユキ

あなたには、そう見えたでしょうが

ユキ

女性社員は、不快を感じたと訴えています

ヒロ

そんな馬鹿な陰謀だ！

ユキ

営業部では女性社員は一人だけなので

ユキ

ずっと一人で悩みを抱え込んでいたそうです

ユキ

不快を訴えたからといって、表に出すことができず

ユキ

抗えば辞職か異動かという選択になるからだと

ユキ

言っていました

ヒロ

そんな馬鹿な話があるものか･･･

ユキ

今回のことで、あなたの部下のまとめ役をタカさんに

ユキ

努めてもらいました

ユキ

タカさんには、あなたの部下の１人１人の事情を

ユキ

聞き取ってもらい、証言を集めてもらいました

ヒロ

タカのことは私の部下の中で一番信用していたのに

ヒロ

こんな話が出てくるなんて･･･

ヒロ

一体、私は誰を信用したらいいのか？

ユキ

あなたは自分の評価を上げることばかりを考えて

ユキ

部下を二の次にしていたから、当然の結果ではないですか？

ヒロ

私だって自分なりに、これまで頑張ってきたんです

ユキ

お分かりだと思いますが、あなたの部下全員が

ユキ

辞表を提出するという、前代未聞の話なのです

ヒロ

私は何か責任を取らされるようなことを

ヒロ

してしまったのでしょうか？

ユキ

まだコンプラ室でハッキリとした調査が終わっていないので

ユキ

今、お答えすることは出来かねます

～数日後～

ユキ

「飲みにケーションの経費についてなんですが」

ヒロ

今度は何ですか？

ユキ

「飲みにケーションの飲食代を接待交際費で計上してますよね？」

ヒロ

へっ？

ユキ

部下を無理やり割り勘で参加させておいて

ユキ

自分の分と女性社員の分だけ、接待交際費として嘘の申請をして

ユキ

経費で落とそうとするなんて、どういうつもりですか？

ユキ

支払っていた部下たちは、それを知って憤っています！

ヒロ

私はそんなことはしていない！何かの間違いだ！

ユキ

あなたが経費で落としていたことは、もうバレているんです

ユキ

往生際が悪いですね！

ユキ

「飲みにケーションの費用は、あなたにとっては」

ユキ

そんなに高い費用という訳ではないと思います

ユキ

それなのに経費で落とすなんて、恥ずかしくないんですか？

ヒロ

私はそんなことをした覚えはない！

ユキ

過去10年、適当に取引先名をでっち上げて

ユキ

「飲みにケーションの飲食代を接待費として合計200万円」

ユキ

搾取していたことが分かりました

ヒロ

どこからそんな話が出てきたんだ？

ヒロ

私は200万ものお金なんて、受け取った覚えがない！

ユキ

受け取った覚えがなくとも、小さな金額でも１０年の間

ユキ

積り積もって200万もの金額に膨れ上がったんですよ

ユキ

コンプラ室に上がってきた話は、経費についてだけではありません

ユキ

あなたは、企画室への異動を希望する部下が一生懸命考えた企画を

ユキ

自分の案として提出し、採用されましたよね？

ヒロ

そんな話は嘘だ！ちゃんと実力で企画が通ったんだ！

ユキ

そんなズルをしても、いつかはバレてしまうことなんですよ

ユキ

今まで日の目を見ずに辞めてしまった人達が気の毒ですが、

ユキ

これ以上被害者が増えないで、良かったです

ユキ

きちんと反省していただければ、良いのですが･･･

ヒロ

何を言ってるんだ？私はズルなどしていない！

ユキ

若い人の芽を摘むようなことは、しないでもらえますか？

ユキ

あなたの課の人たち、あなた以外の10人全員が退職願いを出した

ユキ

ということは、お話しましたよね？

ヒロ

そんな馬鹿なことがあってたまるか！

ユキ

ゆゆしき問題ですね。あなたの主張と他の方の訴え

ユキ

どちらが正しいと思いますか？

ヒロ

私の方が正しいに決まってるじゃないか！

ユキ

コンプラ室からの正式な聞き取り調査が行われる前までに

ユキ

レポートでも書いたらいかかです？

ユキ

もちろん、あなたが部下にしていたように

ユキ

書いたレポートを提出いただけたら

ユキ

と思っています

ヒロ

どうしてレポートを提出しなくちゃいけないんですか？

ユキ

あなたの部下たちも同じことを考えていたことでしょう

ユキ

レポートを提出いただいても、コンプラ室からの結果は

ユキ

変わらないでしょうけど･･･

～一週間後～

ユキ

コンプラ室からの調査について、過去に退職した人全員が

ユキ

「ヒロが嫌だから辞めたとの証言と、あなたの部下10人全員が」

ユキ

退職を希望しているという、今までにない異常事態について

ユキ

および10年もの間で、200万円もの横領により、

ユキ

コンプラ室の調査の結果、

ユキ

あなたの解雇が正式に決まりました。今まで、ご苦労さまでした

ヒロ

そんな、まさか･･･

ヒロ

私が解雇だなんて、そんな馬鹿な･･･

～後日談～

ユキ

搾取した200万円は既に使い切っていたため

ユキ

消費者金融で借金し、返済することとなった

ユキ

退職理由が響いてるのか、次の仕事が決まらなかった

ユキ

そのため、利子が膨れ上がり

ユキ

あっという間に300万円まで返済が増えていた

ユキ

仕事を選んでいては、返済が増える一方なので

ユキ

親戚のつてで、大学の死体安置所でのご遺体管理のアルバイトを始めたそうだ

ユキ

2週間後、幽霊が見える、怖い、などと言うようになり

ユキ

仕事に行かなくなった

ユキ

親に見放されて、帰る場所もなくなり

ユキ

更に2週間後、四国八十八か所を巡るお遍路さんになると言い残して

ユキ

旅に出てしまったらしい

ユキ

その1週間後、借金の取り立て屋に捕まった

ユキ

私はというとヒロの元部下だったタカと恋仲になり

ユキ

年の差婚。結婚後も仕事を続ける

ユキ

二人の夢はマイホームに住むことだ、目標に向け頑張っている

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結城真矢

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