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扉をくぐり、石レンガの通路を進んだ先は、またも白い空間だった。
というか、さっきと同じ場所に見える。
ユウゴ
アルク
アルクも少し戸惑っているみたいだ。
空にはガイド妖精が浮いているし、約1000人の子供も戸惑いの表情で集まっている。
ガイド妖精
空のガイド妖精の1体から音声が発せられた。
みんな、聞き逃さないように声をひそめて、ガイド妖精の音声に耳をかたむける。
ガイド妖精
空中に浮いていた無数のガイド妖精が動き始め、一斉に地上に向かって急降下してきた。
地上に向かってというか、ぼく達に向かって来る。
試験が始まったみたいだけど、ぼく達は何をすれば良いんだ。
アルク
アルクが起こした突風に押されて、ぼくは前につまづくように倒れた。
さっきまでぼくがいた場所のあたりにガイド妖精が飛来し、また浮上して空へと戻っていった。
ユウゴ
起き上がりながら、アルクにお礼をいう。
アルク
ユウゴ
気を取り直して、まわりのガイド妖精の動きを観察する。
降りてきたガイド妖精は、子供にぶつかるギリギリでUターンして、空に戻っていった。
同じ動きを、何度も何度も繰り返している。
この動きは攻撃というよりも、おどしに近い。
始める前に適性を測ると言っていたから、これは検査のようなものなのだろうか。
避けようと逃げ回っていた子供達も、ガイド妖精がぶつからないということに気づき、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
ユウゴ
アルク
ユウゴ
不規則に上下運動を繰り返すガイド妖精達。
ぶつかってこないことがわかった子供達は、その大半が警戒心を解いている。
中には降りてきたガイド妖精を捕まえようと、手を伸ばす子供までいた。
ユウゴ
アルク
アルクがあきれて、大きなため息をつく。
そこまで変なことを言ったとは思わないけど。
他の子供達の中にも、ガイド妖精を捕まえようと手を伸ばし始めている。
ガイド妖精は、ここに集まった約1000人の子供よりも数が少ない。
もしも捕まえるのが試験なら、早いもの勝ちだ。
こちらに向かって飛来してくるガイド妖精が1体。
ユウゴ
アルク
ガイド妖精はぶつかるギリギリでUターンして引き返すから、下まで来てから捕まえるのでは間に合わない。
落下の最下点を予測して、下に向かって来ているうちに手を伸ばしてジャンプする。
ガイド妖精は急旋回して上昇し、ぼくのお腹に直撃した。
ユウゴ
ぼくは地面に投げ出されて転がっていく。
ガイド妖精は何事もなかったかのように空に戻っていった。
アルク
ユウゴ
寝っ転がったまま視線を上に向けると、アルクがすぐ目の前にいた。
反射的に横を向いて視線をそらした。
その行動の意味に気づいたアルクに首根っこをつかまれて、無理やり立ち上がらされた。
アルク
凍りついた笑顔で、ゆるやかな温風をぼくの顔に当ててきた。
ユウゴ
ぼくがアルクにせっかんを受けている間に、どこからか『わあっ』と歓声が上がった。
歓声が上がった方を見ると、男の子がガイド妖精を捕まえていた。
捕まったガイド妖精から音声が発せられる。
ガイド妖精
同時にガイド妖精の表面から、赤い炎が立ち上がった。
抱きかかえていた男の子の体に引火し、一気に燃え上がる。
わずか数秒で、男の子は灰も消し炭も残さずに燃やし尽くされた。
歓声が一転、悲鳴に変わった。
それまでは半ばレクリエーションのようにガイド妖精を捕まえようとしていた子供達が、ふたたび逃げ出して走り回るようになった。
ただ上下運動を繰り返すだけだったガイド妖精にも変化があらわれた。
主な変化は3種類。
変化① 炎をまとう。 男の子を一瞬で燃やし尽くした様を見ているだけに、あの炎は驚異を感じる。 炎を発するガイド妖精を見たら、みんなが我先にと逃げようとするために、人が右往左往しやすくなり、逃げ遅れたり転んだりする子が続出。 動けなくなった子のところにガイド妖精が近づいて、次々と火をつけていく。 当然、火をつけられた子は、そのまま燃やし尽くされ消滅していく。
変化② 地面まで落下してくる。 それまではぶつかるギリギリだったのに、地面に直撃してから上昇するものがあらわれた。 ガイド妖精がぶつかった地面には、クレーターのような深い穴があく。 さっき、ぼくがぶつかった時とは比較にならない威力だ。 逃げ遅れた子供達が真上から潰され、腕や脚が不自然な方向に曲がる。 痛みを訴える間もなく、折れた部分から体が消えていき、消滅する。 見た目は、燃やされるより苦しそうだ。
変化③ シャボン玉を飛ばす。 シャボン玉は何かにぶつかったり、わずかな振動だけでも破裂する。 破裂する時に、パァンとふくらましきった風船が割れた時のような大きい音がする。 前の2つに比べれば、攻撃としては優しいかもしれないけど、風に揺られてどこに来るかわからないし、いつ割れるかわからない恐怖は、意外と大きい。
アルク
アルク
アルクの口調が変わった。
鋭い視線に心の奥がゾクッとした。
ユウゴ
周囲の空気が変わったのを感じ、深呼吸して気持ちを整える。
でも、どうすれば良いんだろう。
魔法を使えるアルクなら何か打開策があるかもしれないけど、ぼくが下手に動いても逃げ遅れた子供達と同じ目にあうのが関の山だ。
次の手が見つからずに、ただガイド妖精から逃げ続けるだけしかできない。
シシロウ
その中にひとり、不敵な笑みを浮かべて、ガイド妖精に向かっていく者がいた。
前の会場で最初に扉に入っていった、金髪の少年だ。
金髪の少年は臆することなく、目の前に浮いている炎を発するガイド妖精に手を伸ばした。
燃やされる。
誰もがそう思って見守っていたが、その次の出来事は違った。
ガイド妖精
シシロウ
炎をまとったガイド妖精に触れているのに、金髪の少年は燃えていない。
シシロウ
こうなることは予測済みだったようで、自分に起こっている出来事を、素直に受け入れている。
ガイド妖精
ガイド妖精が、扉へと姿を変えた。
ここに来る時に通った両開きの大きい扉ではなく、小部屋の出入り口のような小さなドアだ。
シシロウ
金髪の少年はこちらに向かってひとこと言うと、ドアを通って行ってしまった。
今度のドアはひとり用みたいで、金髪の少年が中に入ると同時に消えてしまった。
アルク
ユウゴ
アルク
ユウゴ
ほかにも、そう推測した子はいたようで、何人か自分からガイド妖精に向かおうとしている。
でも、本当にそうだろうか。
自分からガイド妖精に触るのが試験のクリア条件なら、最初にガイド妖精を捕まえた男の子もクリアしていたはずだ。
しかし、クリアできずに消滅してしまった。
ぼくもお腹にガイド妖精がぶつかったけど、クリアにはなっていない。
ぼくの場合は自分から触ったからじゃないからかもしれないけど、もう一度試して検証する勇気はない。
ガイド妖精に触ろうとする子と、ガイド妖精から逃げる子とが入り混じって、さっき以上にゴチャゴチャだ。
その分、集団から少しでも離れれば、ガイド妖精に襲われる心配はなくなったけど。
それに気づいた子供達は、ガイド妖精から距離をとるように走り逃げ、自然とドーナツのような二重の円形になっていった。
遠巻きにガイド妖精の音声がいくつも聞こえてくる。
ガイド妖精
と言われて消滅する子のほうが多いけど、
ガイド妖精
になってガイド妖精がドアに姿を変え、次の試験会場に向かう子が出始めている。
アルク
アルクがはじめてあせりの表情を見せた。
ユウゴ
アルク
アルクは何かを探している。いや、待っているかのようだ。
最初から魔法を使えているし、金髪の少年のように何かを知っているんだ。
ユトリ
ガイド妖精の集団から逃げて来た女の子が、地面のくぼみ(ガイド妖精が体当りした穴)に足を取られてころんだ。
ユウゴ
すぐ近くにいたので、思わず手を伸ばしていた。
ユトリ
女の子はぼくの手は取らずに、自分の力だけで立ち上がった。
アルク
アルクが今にも吹き出しそうな顔で、ぼくの顔をのぞき込んだ。
別にそういうつもりで助けようとしたわけじゃないんだけどな。
アルク
アルク
ユウゴ
今までのは事故だし。うち1件はアルクの過失だし。
立ち上がった女の子は、なんて返せば良いのか分からないようで、うつむいて服についたほこりを手で払っている。
長い黒髪と白い肌、黒い長袖のワンピース姿で、一見すると魔女って感じの出で立ちだ。
アルク
女の子の前髪は鼻のあたりまで伸びていて、口元しか見えない。
アルク
ユトリ
アルクが前髪をかき上げようとしたところを、女の子が手を払って阻止した。
アルク
ユトリ
女の子はその後も、すみませんを何度も連呼してうつむいたまま頭を下げる。
その様子に、これまでガイド妖精にばかり気を取られていた他の子達の注目を集めた。
アルク
ユトリ
ユトリ
ユトリ
ユトリ
アルク
ユトリ
両手でほっぺたを引っ張って、むりやり、すみませんの連呼を止めた。
ユトリ
落ち着きを取り戻した女の子が、うつむきながら言う。
長い前髪で常にうつむいているのは、顔を見られないようにか。
アルク
アルク
ユウゴ
アルクは自己紹介やあいさつを飛ばして、人との距離を詰めるクセがあるみたいだ。
悪いことではないと思うけど。
ユウゴ
アルク
アルク
両手の人差し指を立ててドヤ顔で言う。
持ちネタの自己紹介ギャグのようだ。
ユトリ
さっきまでの大人しさがウソのように、お腹を抱えて笑い出した。
笑い上戸なのか、それともアルクの自己紹介ギャグがツボにドストライクだったのか。
アルク
ユウゴ
ユトリ
ユトリ
ユトリ
ユトリ
ユトリ
アルク
ユウゴ
ユトリ
ユトリ
ユトリ
深呼吸して落ち着いたユトリから、やっと名前を聞くことができた。
ぼく達が自己紹介をしている間にも、クリアと脱落者は振り分けられ続けていて、気がつけば残る子供は半数以下になっていた。
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
になる割合が増えてきている。
アルク
アルク
ユトリ
ユトリ
ユトリ
ユトリが、ここにいるみんなが抱いているだろう疑問を口にする。
アルクがいたおかげでついて来れていたけど、ぼくだって何もわからずにここにいる。
アルク
アルク
アルクが手のひらをかざすと、ユトリの髪の毛がフワッとひろがった。
ユトリは反射的に前髪を両手でおさえる。
ワンピースのスカートが少しだけひるがえった。
アルク
アルクがぼくに耳打ちする。
ユウゴ
ユトリ
アルク
ユウゴ
はじめて聞く……いや、どこかで聞いた覚えのある言葉だ。
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
ガイド妖精
適正ありが増えてきて、音声の紛れが少なくなり、よりよく聞こえるようになってきた。
ガイド妖精
ユウゴ
ユトリ
急に大きな声をだして、ユトリを驚かせてしまったみたいだ。
ユウゴ
ユウゴ
金髪の少年が、ガイド妖精に触れて、適性ありの音声が流れた後に言ったセリフ。
シシロウ
ユウゴ
アルク
ぼくの出した答えに、アルクが拍手する。
ユトリ
アルク
ユウゴ
アルク
ユウゴ
アルク
ユウゴ
ユトリ
アルク
アルクは風の魔法を使えるから、風《アエル》のガイド妖精に触ればクリアできるだろうけど、ガイド妖精の属性がわからなければ動きようがない。
ユウゴ
アルク
子供達はさらに数を減らして、残り200人くらいまで減っていた。
ガイド妖精の数も同じだけ少なくなり、火を吹くもの、上下運動するもの、シャボン玉を出すもの、1体1体の動きを目で追える程度にはスキマができてきた。
子供が少なくなったことで、集団から離れたぼく達の方にも、ガイド妖精が飛んで来た。
その中の上下運動を繰り返しながら飛んでいるガイド妖精が、ユトリを狙って落下してきた。
ユトリは前髪のせいで、上からの動きはよく見えないみたいで、まだ反応していない。
ユウゴ
アルク
ぼくとアルクの声が重なった。
ユトリ
両方の声が混ざって聞こえたユトリは、反射的にバンザイするように両手をあげる。
そこに落下してきたガイド妖精がぶつかった。
ガイド妖精
ユトリが触れたガイド妖精は、ドアに姿を変化させた。
ユトリ
アルク
アルクがユトリの背中を押す。
ユトリ
アルク
アルクが強い風を起こすと、ユトリがドアの中に押し込まれていった。
ドアはユトリとともに消えていった。
アルク
ユウゴ
アルク
アルク
ヘラヘラしていたアルクが、途中で真剣な表情になって言い直した。
ぼくの顔を見て言い直したみたいだけど、どんな顔をしていたんだろう。
アルク
アルク
空を飛ぶガイド妖精は、相変わらず火を吹いたり、シャボン玉を出したりしながら、子供達を追いかけている。
子供達を追いかけている。
ユウゴ
子供が1000人近くいた時は、みんなが右往左往していたこともあって、ガイド妖精は不規則でハチャメチャに動いているんだと思っていた。
それが200人まで減ったことで、それぞれの動きを個別に見れるようになった。
ガイド妖精は、それぞれがひとりの子供に付かず離れずに浮遊している。
自分に近づいてくるガイド妖精が、自分の属性なんだ。
アルク
ユウゴ
アルク
試験クリアのための作戦だったのかもしれないけど、そのために何百人もがわけもわからないままに脱落していったのかと思うと、少しもやもやする。
そのもやもやとした感情は、パンっとシャボン玉が弾ける音にさえぎられた。
すぐ近くまで、シャボン玉を出すガイド妖精が迫ってきていた。
ガイド妖精の周りには無数のシャボン玉が浮いている。
アルクが右手をガイド妖精の方に向けると、ゴオっと突風を起こして、シャボン玉を吹き飛ばした。
シャボン玉同士があたって、パパパパパパンっと連鎖的に割れ続ける。
あまりのうるささに思わず両手で耳をおさえた。
アルクはその場で高くジャンプすると、真上に浮いていたガイド妖精に手を触れた。
ガイド妖精がドアに姿を変えた。
アルクは着地すると同時にぼくの手を引っ張った。
ユウゴ
何かを言っているみたいだけど、シャボン玉が弾けるパパパンっの破裂音が響いていて、何も聞こえない。
そのままアルクに手を引かれて、ドアの中に連れ込まれた。
暗い通路のようなところに入ると同時に、背後のドアが消えて壁になった。
アルク
ユウゴ
アルク
ユウゴ
と言ったところで、ドアは消えちゃったから引き返すこともできないんだけど。
アルク
アルクはスタスタと歩き始めた。
一本道で他に行けるところもないので、ぼくもアルクについていく。
最初はあやしいと思っていたけど、話しているうちにアルクは信用できる女の子だと思っていた。
でも、今のことで、また疑わしい気持ちが芽生えてきた。
さっきアルクは、真上に浮いていたガイド妖精に触っていた。
シャボン玉を出すガイド妖精ではなく。
アルクの言葉を信じるなら、魔法の属性は火《イグニス》、水《アクア》、風《アエル》、地《テラ》の4種類。
それに対してガイド妖精は、火を吹くもの、上下運動するもの、シャボン玉を飛ばすものの3種類で数が合わない。
火を吹くものが火《イグニス》、上下運動するものが地《テラ》、この2つは確定だ。残るシャボン玉が水《アクア》か風《アエル》のどっちかだろう。
アルクはシャボン玉ではなく、真上に浮いていたガイド妖精を迷わず選んだ。
アルクは知っていたんだ。
シャボン玉が水《アクア》で、ただ宙に浮いているのが風《アエル》だと。
そこまでわかっているなら、ぼくに声をかけたりせず、さっさと正解のガイド妖精に触って試験をクリアすればいい。
そうしなかったのはなぜだろう。
考えても答えが出ないまま通路が終わり、広い空間に出た。