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テラーノベル(Teller Novel)

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床は大きな石畳、壁も石レンガ、巨石の太い柱が天井を支えている。少し薄暗いけど見晴らしは良く、向こうの壁までよく見える。 今までの白一色の屋内が屋外かもわからないような場所ではなく、石に囲まれた遺跡のような空間だった。

ユウゴ

ここが第2試験の会場か

第1試験でクリアしたらしい子供達が集まっているが、その集団のあちこちで騒ぎが起きていた。

突然火を出して服をこがす子、頭から水をかぶったように全身ビシャビシャの子、何故か何度も転びそうになっている子、等々。

通常は起こりそうもないトラブルに見舞われている子が、何人も散見される。

ユウゴ

これは一体?

アルク

目覚めたばかりの魔法の力に振り回されているのよ

アルクが状況を分析して言う。

ユトリ

は、はい。
人が増えるごとに、騒ぎが大きくなっているみたいです

その騒ぎの中で、見知った顔に声をかけられた。

長い髪と黒いワンピースが印象的な女の子、ユトリだ。

ユトリ

ユウゴさんに、アルクさん。

ユトリ

2人もクリアできたんですね

アルク

とーうぜんよ

ユウゴ

ボクはクリアできたかびみょぅ……

アルク

魔法適性がわかっただけで、魔法が使えるようになるわけないじゃないの

ぼくの声はアルクの大きい声にかき消された。

シシロウ

少しはわかっている者もいるようじゃないか

ぼく達に話しかけてきた人物がいた。

試験の最初から何かと目立っていた、金髪の少年だった。

シシロウ

これまでやってきたのは、入学試験参加の意思表示と、魔力適性の確認のみ。
まだ魔法使いになってもいないのに考えなしに魔法を使うから、あんな目に合うんだ

アルク

あんた、何よ?

アルクがジト目で金髪の少年をにらみ返す。

ぼくのとなりに立つユトリも、顔をこわばらせて、半歩ほど後ろに下がった。

シシロウ

知らぬなら名乗ってやろう。ぼくは魔法使い一族・神酒杜《みきもり》家の次男にして、魔法使いの歴史を書き換えて名を残す未来の大賢者。

シシロウ

神酒杜《みきもり》獅子郎《ししろう》だ

アルク

神酒杜《みきもり》……あんたが……

その名前に覚えがあるらしいアルクが息を飲んだ。

対して、魔法使いのことなど知らないぼくとユトリは首をかしげた。

シシロウ

まさか、神酒杜《みきもり》の名を知らないのか?

ユウゴ

と言うか、魔法使いのことも、まだついていけないところがあって

ユトリ

あたしも気が付いたらここにいて、成り行きでここまで来たので

シシロウ

魔法を知りもしない子供を入学試験に召喚したのか?

シシロウ

伝統のアミキティア魔法学校も、そこまで落ちたか

シシロウが頭を抱えてうなだれる。

最初に見た時から感じていたけど、彼はアルク以上に、この状況にくわしいみたいだ。

シシロウ

まあ、いい。
第1試験をクリアしたなら、最低限の魔法適性はあるのだろう。

シシロウ

君達の名前も聞いておこう

ユウゴ

佐伯《さえき》佑伍《ゆうご》

ユトリ

お、鬼丸《おにまる》……夢鳥《ゆとり》……です

アルク

あたしは十二月三十一日《ひづめ》歩紅《あるく》。
十二月三十一日って書いて、ひづめって読む名字なのよ。

アルク

ちなみに、一月一日生まれでニアピン賞

シシロウ

そうか

アルクのいつもの自己紹介ギャグを、シシロウがサラッとスルーした。

その様子を見て、ユトリがぶはっと吹き出した。

ユトリ

なんっで、あんなに長く自己紹介したのにスルーってスルーして。
スルーってスルーっ……だめ、お腹痛い

自分の言ったセリフにうけて、さらに笑い声が大きくなった。

この子の笑いのツボがわからない。

シシロウ

そいつは何に笑っているんだ?

ユウゴ

すみません、ぼくにもわかりません

シシロウ

謝ることはないが

シシロウがあきれて、ふーっと息をはいた。

ガイド妖精

これで全員集まったな

どこからともなく、ガイド妖精があらわれた。

子供達の意識と視線が、宙に浮くガイド妖精に集まる。

???

いやー、髪に引火した!

???

服がビチャビチャで気持ち悪い

???

いだっ、頭打った

???

こっちに近づくな

???

火を向けるなよ

???

その水で火を消せ!

???

くつが飛んでいった

……一部、集められない子達がいた。

魔法の力に振り回されて制御出来ない子供達と、近くにいて巻き込まれた子供達だ。

ガイド妖精

試験が始められないから、大人しくしてね

ガイド妖精からボワッと淡い光が放たれた。

その光にさらされると同時に、 火は消え、 水は乾き、 風は止み、 焼けた服やぶつけたケガなども元通りになった。

ガイド妖精

これが本当の魔法の力だよ。
君達も魔法使いになれば、これくらいできるようになる。

ガイド妖精

心して試験に挑むように

絶対的な魔法の力を目の当たりにして、会場内がシーンと静まり返った。

さっきまでの騒がしさがウソのように、わずかな呼吸音や心臓の鼓動すら聞こえそうな静寂に包まれる。

ガイド妖精

君達は第1試験で魔法適性を測り、魔法の力を覚醒させた。

ガイド妖精

第2試験では魔法の使い方を学んでもらう

地面がグラグラと揺れた。

地震かと思う間もなく、床の石畳の一部が音を立ててせり上がってきた。

シシロウ

壁から離れてかたまれ!

シシロウの声に、ぼく、アルク、ユトリは、せり上がる壁から離れて、シシロウの近くに集まった。

壁は天井まで上がっていく。

この現象は会場内全体で起こっているらしく、壁がせり上がるゴゴゴという重苦しい音と、子供達がワーキャーと騒ぐ声が、四方八方から反響して聴こえてくる。

やがて壁の動きが止まり、子供達の声も遠く小さくなっていった。

シシロウ

みんな、ケガはないな?

シシロウ

まだ何かあるかもしれないから、安全が確認できるまでは動くな

シシロウがぼく達の顔を順に見て、次に周りに危険がないかを慎重に観察する。

言葉使いは高圧的だけど、意外と気配りできる人だ。

遠くからガイド妖精の音声が聞こえてきた。

ガイド妖精

君達を4人ずつに振り分けた。
自分達の能力を駆使してゴールまでたどり着ければクリアだ

内容はこれだけ。

聞き逃しが無いようにか、同じ音声が何度も流れている。

シシロウ

つまり、第2試験はチーム戦ということか

アルク

神酒杜《みきもり》家なら、試験問題を知っていたりはしないの?

シシロウ

知らんな。
入学試験の問題は毎回変わるし、そんな不正をしなくても、ぼくなら合格できる

ユトリ

そ、それでも、シシロウさんは魔法にくわしいんですよね?

ユトリ

アルクさんも魔法を使えるし、とっても心強いです

シシロウ

君も魔法を使えるのか?

アルク

うん。風《アエル》よ

アルクが起こした風が、ユトリに向かって巻き上がる。

ユトリ

ひゃあっ

ユウゴ

わっ、ストップ、ストップ

ユトリが両手で前髪をおさえ、ワンピースがめくれ上がりそうになったので、ぼくがあわてて手を当てておさえた。

ユウゴ

アルク、何度もやめてよね

ユトリ

恥ずかしかったです

シシロウ

魔法は下世話ないたずらに使うものではないぞ

アルク

ふんっ、紳士ぶっちゃって。
魔法が使えるって見せただけじゃん

流石のアルクもバツが悪くなり、そっぽを向く。

シシロウ

ぼくは火《イグニス》だ

シシロウが右手の指をパチンと鳴らすと、火花が弾けた。

シシロウ

そっちの2人は?

ユトリ

あ、あたしは地《テラ》……みたいです。

ユトリ

怖くて、まだ使っていないですけど

シシロウ

賢明だな。
不用意に使うと、さっきの連中のようになるだろう。
今度はガイド妖精のケアも受けられないだろうしな

ユトリ

で、ですね

自分も一芸披露しなければならない流れだと思っていたユトリが安堵の息をもらす。

シシロウ

残る君は、水《アクア》だな

ユウゴ

え、なんで?

ぼくは前の会場からアルクに連れられて来たので、自分の属性を知らない。

シシロウ

消去法だ。

シシロウ

わざわざ4人に振り分けたのは、4属性でチームを組ませるためだろう

ユウゴ

シシロウはさっき、試験問題は知らないって言ってなかった?

シシロウ

問題そのものは知らないが、傾向を推測することはできる。

シシロウ

アミキティア魔法学校の入学試験は、第1試験、第2試験、最終試験と3段階ある。

シシロウ

第1試験では魔法適性と属性を測る検査

シシロウ

第2試験をクリアすると属性にあった魔法具《マギアツール》が贈与され

シシロウ

最終試験をクリアすれば入学資格を得られる

シシロウ

この第2試験からが、入学試験の本番と言える

入学試験、本番。

その一言に、否応なしに気持ちが引き締まる。

シシロウ

この第2試験は、4人4属性の魔法を使いこなせなければ、クリアできないようになっているはずだ

アルク

おけーい

ユトリ

は、はいっ。
足を引っ張らないように頑張ります!

アルクはいつものように軽い感じでこたえ、ユトリは両手を握って力強くこたえる。

ぼくは魔法適性のことが気になって何も言えず、みんなに合わせてうなずくことしかできなかった。

アミキティア魔法学校の闇

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