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桃side
小さい頃から、母親の影響で男でありながら少女漫画やラブソングを多く 嗜んできた。
そこに出てくる言葉は、キラキラして眩しくて。
意味なら辞書を引かなくてもわかるけど、俺の物になってはくれない。
桜もすっかり緑に変わり、校門前の急な坂にも新しい制服にも慣れたのに、 未だ中学に忘れ物ひとつ__
ほとけ
担任の話も終わり、 まばらに人が帰り始めた頃。 某メッセージアプリの会話画面開いてスマホを弄っていた俺は、二人の友人に背後から話しかけられた。
ほとけ
ないこ
ないこ
ほとけ
ほとけっちの服は、既にバスケ部のTシャツに着替えられていて。 屈託のない笑顔でほとけっちは元気良く答えると、こてんと首を傾げて俺に尋ねて来た。
ほとけ
ほとけ
心配そうに眉を下げるほとけっち。 俺は机に頬杖をつき、 困った様な表情で「うーん」と唸った
ないこ
ないこ
初兎
ぶつぶつと語り始めた俺を、呆れた様な顔で初兎ちゃんは見下ろす。 するとほとけっちが、 俺に抱きつき、 明るい透き通る声で言った。
ほとけ
ないこ
ほとけ
グッとサインを出したほとけっちに 苦笑しつつ、 「考えておくよ」と伝える。
教師
教師
ないこ
突如扉近くから、教師が俺を呼ぶ声が聞こえてくる。 返事をして立ち上がると これまでの話を聞いていたのか、教師は一つの提案をした。
教師
ないこ
出て来た言葉に、未だバックハグをしてくるほとけっちは「なんか堅そう」と怪訝そうな声を出す。 だが教師は首を振って、
教師
ないこ
俺が興味を示すと、教師は「おっ」と声を漏らして「そりゃあ助かるな」と言葉を続けた。
ないこ
教師
教師
ないこ
雑用に遣わせる気満々だった教師の言葉に、俺は小さく嫌悪感多めの呻き声を出したのだった。
ないこ
ないこ
先程から少し時間の経った放課後。 俺は教師から聞かされていた生徒会室の場所を彷徨って、 校庭を歩き続けていた。
ないこ
ないこ
ないこ
迷路のように辺りを見回し続けること、早5分。 突如聞こえて来た話し声に反応して、俺は誰かいるのかと声のする方向へ進んでいった。
ないこ
女子学生
耳の鼓膜を震わせた告白の声に、 俺は思わず身を屈め、 自分の口を抑えて沈黙する。 顔を赤くして手を差し伸べる女子学生に、俺は少しばかり心が曇った。 視線を告白している女子学生から、 近くの植木に移動する。
?
ふと相手の声が聞こえて来た。 心地の良い低音が、すっと俺の鼓膜に入り込んでくる。
女子学生
女子学生
?
寂しそうに言った女子学生の声を、 男が遮る。
?
?
「告白してくれて、ありがとう」と笑った男に、女子学生は一つお辞儀をして去っていく。 手を振りながら走る女子学生の瞳は、少しだけ潤んでいた。
?
?
ないこ
俺がいた方向に投げかけられた声に驚き、変な声が口から漏れる。 慌てて俺は建物の裏から出た。
ないこ
ないこ
急いで謝罪した俺の近くに歩み寄った男は、青いさらさらの髪を揺らし、 自分の口元に人差し指を立てて笑う。
?
ないこ
視線に見えた赤ネクタイ。 二年生だろうか。
?
青髪の男は首を傾げて俺に尋ねる。 すっかり用件を忘れていた俺は、はっとして彼に話した。
ないこ
?
「ついて来い」と言った青髪の男は、俺の腕を掴んで歩き始める。 その突然の行動に驚きつつ、俺は慌てて着いて行った。
?
?
ないこ
俺がそう褒めると、優しい笑みを口元に浮かべた男が振り返って 「そりゃあな」と呟いた。
?
ないこ
再び前を向いて歩き始めた男の後について行くと、やがて大きな木造の建物が見えてくる。 看板には達筆な字で、 『生徒会室』と書かれていた。 男がくるりと振り返る。
いふ
いふ
ないこ
これが、俺と青柳先輩。 俺たちが初めて出会った、 運命の出来事だった。
ほとけ
ほとけ
ないこ
次の日の昼休み。 俺の机を囲って初兎ちゃん、ほとけっち、俺の3人で弁当を食べていると、ふとほとけっちに名を呼ばれた。 持っていたスマホから顔を上げる。
初兎
初兎
ないこ
俺の脳裏に青柳先輩の顔がよぎる。
ないこ
ほとけ
ないこ
俺が苦笑しながらそう言うと、 ほとけっちと初兎ちゃんは完全にテンションの下がった様子で項垂れた。
ほとけ
初兎
ないこ
ないこ
彼の名前を出すと、初兎ちゃんが箸を口の近くに持っていきながら、 「あぁ」と頷いた。
初兎
初兎
説明する初兎ちゃんの隣で、 椅子に背中をもたれさせながら、 ほとけっちが唇を尖らせる。
ほとけ
ないこ
ほとけ
初兎
瞳を輝かせて話すほとけっちに、 初兎ちゃんが眉を下げて呆れた様な視線を向ける。 しかしほとけっちは、 そんな視線にも負けることなく、 むしろ初兎ちゃんを勧誘し始めた。
ほとけ
初兎
ほとけ
「言っとらんし」と悪びれもなく言い放った初兎ちゃんに、ほとけっちは頬を膨らませて机を叩く。
ほとけ
初兎
ないこ
...俺は、 中学の卒業式の日に告白された。 返事はまだ、出来ていない。 二人に相談しようかと思ったけど、 でもなんだか距離が遠く感じて。 よくわからないけど、 言える気にはなれなかった。
『誰に告白されても、付き合うつもり無いだけやから』
青柳先輩が断りを入れた時の言葉が、ないこの脳内でリピートされる。
ないこ
ないこ
その日の放課後も生徒会室に顔を出した俺は、ケトルにお湯が沸いたのを確認して、この場にいる二人の先輩に尋ねる。
いふ
青柳先輩がにこやかに言った。 俺は二つのマグカップをトレイに乗せて、一つは青柳先輩の目の前に、もう一つは一人の先輩の前に置く。
ないこ
悠佑
資料を片手に、黒田先輩はケトルの隣に置いてあるケースを見て、 そう話す。
ないこ
いふ
「はい」と俺が答えると、青柳先輩は優しく微笑んで大きく頷く。 そしてマグカップを手に取った黒田先輩は、膝を机に付けた状態で青柳先輩に尋ねた。
悠佑
怪訝そうな表情で尋ねた黒田先輩に、 青柳先輩はため息を吐いて紅茶を一口口に運ぶ。
いふ
悠佑
悠佑
いふ
黒田先輩から出てきた意外な言葉に、青柳先輩は顔を歪ませて聞き返す。 黒田先輩は「さぁ?」と肩をすくめて答えた。
悠佑
悠佑
仕方ないと言わんばかりの黒田先輩の話に、俺の口から驚きというか、同情というかの声が出る。 青柳先輩もため息を吐いて、呆れた様な表情をしていた。
いふ
悠佑
ポツリと呟いた黒田先輩に、「聞こえてんねんけど」と苛つきが混じった言葉を放つ青柳先輩。 だが黒田先輩は依然、ニヤニヤとした口元で俺の耳に囁いた。
悠佑
ないこ
いふ
漫画とかアニメだと、なんとなく知ってはいたが、実際に同性愛と言うものが存在する事に驚く。 俺もコーヒーの入ったカップを口につけて一口煽ると、 青柳先輩に問いかけた。
ないこ
ペンを回しながら青柳先輩は答える。
いふ
ないこ
いふ
ふと青柳先輩はペン回しを止めて、 口元にシャーペンの消しゴムの部分を当てる。 そしてニコリと微笑んで、言い放った
いふ
ないこ
ないこ
?
俺が訪ねようとした瞬間、生徒会室の入り口から男が顔を出す。
?
いふ
いふ
...結局、この話はこの時点で終わってしまった。
『夜遅くにごめんね。 そろそろ返事聞かせてほしい。 明日の放課後、電話してもいいかな』
ないこ
スマホの会話画面に表示された新たなメッセージに、俺は返信ボタンを押す
ないこ
そこまで入力した所で、 俺はスマホの電源を切った。 そしてスマホも自身の体も、 全てベッドの上に投げ捨てる。
__真っ黒に染まった画面は、 電源が付いていないのにどこか、 明るく光っている様な気がした。
to be continued...