しかし、後ろの青年は時代遅れと行ってもいい弓を抱え、矢が入ってある筒を背負っている
アメジスト
ようこそ、僕は「銃撃の間」の管理者
「アメジスト」と申します
つい先日は、お世話になりました。我々国の皆様
ショッピ
は?
アメジスト
僕はつい先日、我々国の軍人として潜入・偵察をさせて頂きました
『ユウ・エバン』ですよ
彼はにっこり笑った
計り知れないほどの圧に余裕
だが、後方に居る青年からは圧を感じない
ショッピ
……ひとつ、聞いてもいいっすか?
アメジスト
なんでしょうか?
ショッピ
あなたの後ろにいる青年、彼はこの組織の人間ですか?
ショッピ
にしては、圧もなければ殺気もない。一般人なら、今すぐ解放してください。この場に、一般人は関係ない
アメジスト
へぇ〜、彼が一般人ですか。どうぞ、挨拶してください
レオ
俺は”レオ・ノーレッジ”
正中層部No.10の人間で、アビリティーを保有していません
スマイル
嘘でしょ!この組織に居るのは、アビリティープレイヤーばかり
スマイル
脅されているんじゃ……
レオ
いえ、事実です。俺は自分の意思でこの組織に在籍しています
アメジスト
……試練の概要は玄武で確認しておられますね?それでは僕の参加条件は『紫の個性』を持つ人だけです。レオ、お願いします
レオは1本の矢を放つ
地面についた矢からは波紋が出て、スマイル・コンタミ・ショッピが矢の近くに吸い寄せられた
アメジストは空中に浮いている
コンタミ
……これは、俺達が参加条件に合っていたって事かな?
アメジスト
察しが良くて助かりますよ、コンタミさん
アメジスト
凄いでしょ?うちの技術
スマイル
……それで試練は?
アメジスト
試練は簡単です。”僕が準備する的をレオよりも早く、そして多く撃ち抜く”です
おおよそ、120個の的
そして、3人の近くには真っ白な机が出てきて、様々な武器が置かれていた
ショッピ
遠距離武器……最新型の銃からボウガンまで
コンタミ
軍人を舐めてるの?君の部下、レオくんは弓矢
俺らがそれより性能のいい遠距離武器じゃないと勝てないと?
アメジスト
えぇ、そうです。せっかく、僕のアビリティー『銃掌握』で、判定されるモノを出したんですから、早く仕上げて下さいね
コツコツとレオは3人に近付いてくる
だが、彼からは恐怖・怯え・不安が増して見えた
ショッピ
(弓は精神の安定で狙うことが出来る。恐怖・慌ては命取り。なのに、こんな子が現役の俺らと?負け戦に出しているようなもんじゃ……)
アメジスト
制限時間は15秒。僕が叩き出した最速記録ですよ
ショッピ
(15秒!?化け物やろ)
アメジスト
では、レオからいきましょう。レオ、構え
レオ
は、はい!
弓を構える彼を見ると、まるで水面下に立ち、音も出ない
それはまるで……
アメジスト
はじめ!
パンッと弓から指が離れ、多くの音が響く
ほんの、一瞬だった
アメジスト
終了!
的は円型に3列、1列40個ある
その2列と3列目の半分に矢が命中していた
レオ
ふぅ……
アメジスト
記録100個中心命中
腕を上げましたね、レオ
レオ
あ、ありがとう御座います
先程の彼はどこに行ったのか、年相応で弓を放つ前に戻っていた
コンタミ
……15秒で100個の的に命中か。これでアビリティーを持ってないなんて
スマイル
しかも、全部真ん中……3人で的を狙っても無理なんじゃ
ショッピ
(最低一人5秒で30個以上撃ち抜かないと相手は越えられない……
どうする?)
アメジスト
チャンスは何回でもあげますよ。しかし、それに合わせて的と秒数を増やします。レオにもチャンスが与えられます。まぁ1発クリアは無理でしょうし
ショッピ
ッチ、舐めやがって
コンタミ
落ち着いて、ショッピさん
相手には思うつぼだよ
ショッピ
……はい
俺たちは机に向かう
様々な銃火器が置かれており、ライフル・マグナム・スナイパー等
他の銃火器もあるが、普通の銃と変わらない
スマイル
変哲もない銃ですね。設計は何もない……
コンタミ
でも、普通より軽いですね。補充用の銃弾もない。無限射撃が出来るのか
ショッピ
おふたりとも、いつもお使いの武器は?
スマイル
基本マグナムです。俺は普段動かないですから
コンタミ
うーん、基本なんでも使えるけど、ボウガンを使ってみたいな
ショッピ
わかりました。じゃ、俺はライフル頂きますね
アメジスト
それでは参ります。はじめ!
アメジスト
終了!記録95個命中
はっ、現役軍人でこのザマですか
コンタミ
慣れないモノだしね
それに、3人の乱射は普通に危ない
アメジスト
そうですか、それでは難易度をあげましょう
アメジストは一丁の銃をどこからか取り出し、真上に向けて放つ
すると周りに出ていた的が4列160個に増える
アメジスト
160個での最高記録は30秒。レオ
レオ
は、はい!
コンタミ
ショッピさん
ショッピ
はい?
コンタミ
彼の口の動き、見といてね
ショッピ
え?
アメジスト
レオ、構え!
先程と同じように構えるレオ
すると、彼の口がゆっくりと動き出す
ショッピ
(なんや?『お、れ、は、で、き、る』。俺はできる?)
アメジスト
はじめ!
声と同時に身体を起こし、弓を引く
その手には三本の矢が見える
矢が手から離れると、気付けば的の中心を撃ち抜いていた
アメジスト
終了!記録101個
まだまだですね
レオ
申し訳ありません
ショッピ
(あのレベルでまだまだって……。でも、矢を放つ前に呟きはなんやったんや?)
コンタミ
どう?見れた?彼、放つ前に何か呟いてたでしょ?
ショッピ
えぇ、「俺はできる」と
コンタミさん、気付いてたんですか?
コンタミ
まぁ伊達に外交官はしてないよ
そこからはスマイル君の知識を借りたよ
種明かしをしてもいいかな?アメジストさん
アメジスト
ほう?どういったことで?
コンタミ
この部屋は『ポジティブ発言を実現させる部屋』だって言う、現実味のない結論に行き着いた。それ以外は、彼自身の力
コンタミ
姿勢も的を狙う動きは、狩人そのもの
レオくん、元は狩人だったんじゃないかな?
レオ
!
アメジスト
ほぉ、それで?
コンタミ
ある童話がある
『とある昔、夜になると人がオオカミに変わる病気が流行した。その病に治療法は存在せず、力ある者・力ある家系が殺さないといけない』
コンタミ
『殺されることが、人食いオオカミになった人間にできる治療だと』
この童話の題名は
スマイル
”人食いオオカミと狩人”
狩人一家がある村で、その病気が流行りだした。狩人一家は心を痛めながら、人喰いオオカミとなった村人を殺し続けた
スマイル
だが、その一家には狩人に向かない長男がいた。臆病で緊張しやすい性格、そして窮地の時に咄嗟の判断が出来ない程の優柔不断
スマイル
狩人として必要な技術を持たない長男は、一家から追い出され、一人の人食いオオカミに狙われ行方は誰も知らない
スマイル
ハッピーエンドかバッドエンドか、読者に任された珍しい童話
この話に出てくる長男は実際に存在している人がモチーフらしい
スマイル
狩人一家として有名だったのは、あかがみん国の”ノーレッジ家”だけだった
コンタミ
名前を聞いた時によぎったんです。だから、弓を捨てることが出来なかった。出来損ないとはいえ、生まれた頃から傍にあった物を手放すことは簡単じゃない
コンタミ
だけど、この物語には一部間違いがある
コンタミ
追い出された長男は、出来損ないではなく、”鬼才”だった。親を遥かに超え、妹・弟をものともしないほどに
コンタミ
だから、家族に嫌われた。それだけじゃないでしょ?
コンタミは話すことをやめない
スマイルも補助するように割って入る
スマイル
その長男は鬼才だった故に惜しかった。生物を殺せないほど、お人好しだったそうだ
レオ
っ
レオの額には大粒の汗が流れ、歯を食いばっている様子だった
ショッピ
(図星……と言うより、トラウマに近いんか?)
コンタミ
狩人は動物を殺し、捌いて収入を得る。人はともかく、動物を殺せない狩人はサボって家計を食ってる害悪同然
コンタミ
それに臆病者と緊張しがちな性格が合わされた。だから物語として、君の悪評が出回りあかがみん国に居られなくなった。違う?
レオ
そ、それは……
アメジスト
これ以上、僕の部下を虐めないで頂けますか?コンタミさん
コンタミ
虐めるだなんて……俺はただ事実を確認してるだけだよ
アメジスト
ズカズカと、人の心を乱している無礼者の間違いだろ
コンタミ
その口調が本来かな?
アメジスト
部下が責められて、怒らない上司はいないよ。僕から貴方の相手をしても良いんですよ?
レオ
アメジスト様、大丈夫です。全て、事実ですから
アメジスト
レオ!黙りなさい!
レオ
確かに、俺はあかがみん国にある村で、狩人をしている家に生まれた
レオ
どこか難しいと思うのか分からないまま、弓を引いてきた
レオ
でも、弓は殺すためだけの道具じゃない。親父はそう言ってたんだ。なのに……
ショッピ
病気に掛かった人を救う事ができるのは、殺傷能力を扱える人間だけ
貴方の親やご弟妹は同じ村人を殺した
レオ
昔は、お人好しじゃなかったさ。ただある時、動物を撃とうとすると手が震えるようになったんだ
レオ
俺にも家族が居たように、動物にも家族はいる。動物だろうと、簡単に命を奪っていい訳じゃない
レオ
動物・植物の上に人間がいる。殺しすぎで食物連鎖を途切れさせる事は出来ない
レオ
動物だって生きる為に餌を求め村に出てくるのに、人間は簡単に人を殺す
レオ
生きていくのに必死なのは、人だけじゃない!動物だって同じだ!人間に危害を加えていないのに、動物を殺すのは理不尽だ!
スマイル
でも、動物の繁殖だって食物連鎖を壊す原因になる。それを抑える役割が狩人だろ?
レオ
だから、人に危害を与えた動物だけを殺したらいいんだよ。それなら、俺の生活も食物連鎖も壊れることは無い
レオ
罪のない人間が死ぬことも無いんだ!あの時!政府が俺ら狩人に支援金のひとつでも、援助していれば!俺は家族を失うことは無かったんだ!
コンタミ
そして、君は報復としてアビリティーを持っていないことを利用しあかがみん国の軍に近づいた。『Show』として
赤髪のとも
Showさん……冗談だよね?
コンタミ
Showさんは弓の名手だった。でも、争いを好む人ではなかった。君の特技は弓とは別にもうひとつ、例えば……『変装』とか
アメジスト
アビリティー解放!『無色の弾丸』!
1発の弾丸がコンタミに向かって放たれる
通常の弾丸と変わりないスピード
コンタミは避けるが、着弾した床には穴が空いていた
アメジスト
無色の弾丸は銃に精通した人なら簡単に避けることが出来る。でも、当たれば簡単に体中に風穴があく
アメジスト
威力は通常の数千倍。子供なら跡形もなく消える代物だ
レオ
アメジスト様!国家重要人物に向けて発砲は!
アメジスト
レオは黙っていろ!これは、僕自身が手を下さいと気が済まない案件だ!
コンタミ
これが銃掌握の威力……
アメジスト
こんなの、まだ序の口ですよ。試練内容を変更する!対応せよ!銃撃の間
部屋に電子音声が響く
すると、アメジストの目の前に電子版が現れる
アメジストは指を早く動かし、入力する
アメジスト
改めて試練内容は【アメジストを倒す】だ。シンプルでいいでしょ?
ショッピ
(無色の弾丸であれだけの威力……それなら高威力で早い弾丸も存在するはず)
アメジスト
さぁ、殺し合いの始まりだ!