霧子
(…この感動をなんて言い表せばいいんだろう)
霧子
(こんな美しい音色があったなんて…)
その日私は、初めてピアノの生演奏を聴いた
霧子
(どうしよう…涙が止まらない…)
パチパチパチ…
霧子
(ああ、終わっちゃった…)
霧子
(もっと、もっと聴いていたいのに…)
霧子
…で、勢いで買っちゃいました
霧子
くっそ安い中古のキーボード!!
霧子
JKの財布はおかけでピンチ!
霧子
でもこれで、私も名ピアニスト…!
霧子
…ゴホンゴホン。まあ初めは
霧子
鍵盤の位置を覚えるところから──
ポロン…
霧子
…え?
霧子
勝手に鍵盤が鳴った…?
霧子
あ~…あ~!なるほど完璧にわかったわ
霧子
これ、自動演奏って奴ね!
霧子
ふーん、中古のくせにやるじゃん?
ポロン…ポロン…
霧子
ご丁寧に鍵盤まで光っちゃってさ!
霧子
この通りに押せばいいってか!
霧子
いえーい!私今、最高にピアニスト──
ガチャ…!
ママ
霧子、もう少し静かにしなさい!
霧子
マ、ママ!ごめんなさい…!
ママ
あら、あなたが弾いてたの…?
霧子
うん、駅前で買ってきたんだけど…
ママ
ビックリしちゃったわ
ママ
てっきり、CDを流してるのかと…
霧子
そ、そう…?
ママ
練習するのは構わないけど
ママ
音量は控えめにお願いね
そう言ってママは部屋から出て行った
霧子
…あれ。もしかして私
霧子
ピアノの天才だった説ある?
霧子
ふふ…ふふふふ…
日に日に私の腕前は上達していった
霧子
キーボードちゃん、今日もよろしくね~♪
ママ
あら、何を弾くのかしら?
霧子
リクエストしてくれていいよ!
ママ
そうねぇ、ならマサハルの新曲とか…
霧子
がってん承知!
ポロン…ポロン…
霧子
ふんふふ~ん…♪
ママ
ふふ、近所でも最近評判なのよ
ママ
家に名ピアニストが現れたんじゃないかって
霧子
もー、ママったら褒め上手~
霧子
(ヤバ…ピアノ楽しい…)
霧子
(あのピアニストもきっと)
霧子
(こんな気持ちだったんだ…!)
霧子
うへぇ~…寝不足…
霧子
(調子乗って深夜まで弾くんじゃなかった…)
成美
アンタ、授業中ずっと寝てたね
成美
また深夜にソシャゲ?
霧子
聞いて驚け!私今、ピアノやってんの!
成美
…マジ?
霧子
うん、2か月くらいずっと練習してるかも
成美
飽き性の霧子が?
霧子
ヤバいよ、才能開花って感じ
成美
私も10年以上やってんだけど
霧子
うっそ親友なのに知らんかった
成美
笑
成美
なら今日さ、家に来て弾いてみなよ
成美
霧子がどんな風に弾くか、聴いてみたいな
霧子
私の腕前にチビっても知らないぜ?
成美
笑
成美
まあ、楽しみにしてるわ
成美
──で、これが練習の成果
霧子
うん…どうだった?
成美
…親友だからはっきり言うけど
成美
素人
霧子
んなぁぁぁ…!
成美
まあ、初めて人前で演奏して
成美
緊張してたんでしょ?
霧子
そ、そうなの…!
霧子
いつもの音色が全然でなくて…!
霧子
(うぅ…家のキーボードだと、上手く弾けるのに…)
霧子
(恥ずかしい…死にたい…)
霧子
(もうやだ…こんなの、私じゃ…)
気が付くと私は、成美の家を飛び出していた
成美
あ、おい待てって!霧子…!