そのまま、私が彼を押し倒す ようになってしまって__
気づいたら、男の子の顔が すごく近くにあって
…唇が、触れてしまいそうになった。
体温が、急上昇した。
沸騰してしまいそうなくらいに。
はっと我に帰り、 慌てて、横に転がる。
彼は少し頰を赤らめて、 自分の唇を手で隠す。
その仕草を見て、私は 恥ずかしさのあまり少し俯いた。
やがて、彼はゆっくりと 立ち上がって
私の顎に指先を添える。
突然、左手で腰を掴まれる。
そして__
その右手に掴まれた、 黒く大きな鎌が
振り翳されて____
意識が遠のいてゆく中で、 透き通った声が聞こえた__
気が、した。
背後から刺されるような 鋭い感覚を覚えて、
はっとして、後ろを向く。
なんの変哲も無い、 青々とした田園風景。
梅のほんのりとした、優しい 香りを運ぶつむじ風から___
…どこか懐かしい匂いが、 微かに香った。
梅のほんのりした香りが 鼻をくすぐる。
その中から、微かに香ったあの匂いは見つけられなくて__
代わりに、鉄の匂いが 鼻を強く刺激した。
遠い意識を手繰り寄せるように 瞳を擦って…
ようやく眼を開ける。
薄暗い夜空の下。
月光に照らされて微笑む、 美しいほど残酷な姿__
…鮮やかな真紅に染められた、
力のない、弱々しい笑顔。
大きな鎌と手に べっとりと付いた、紅い液体。
鋭い鎌と手から ぽたぽたと流れ落ちる
数滴の血____
それを見てようやく、自分が 夢を見ていたことに気づいた。
夢を見る前と、見る後で
瞳の奥に映った世界は、 世界がまるで変わっていて__
…怖かった。
……私を助けてくれた、
優しくて…でもちょっぴり 意地悪な…悪魔。
それなのに……
今は…途轍もなく怖い。
…怖いなんて、 言いたくなかった。
……でも、怖くない、なんて 言えなかった。
駆け巡る様々な感情が、 頭の中を飽和する。
言葉が見つからなくて、 出てこなくて……俯いた。
……私の反応を見た悪魔は、
私の気持ちを察したかのように 自嘲気味に微笑んで__
少しだけ、距離を置いた。
なんとか、空気を変えようと 曖昧な言葉を紡いでみるけど
私の言葉は、悪魔の言葉に 遮られてしまって。
彼は、そっと目を伏せた。
やがて視線は、斜め上の 夜空を見上げた。
…憂いを帯びたような、 儚く淡い瞳の色をしていた。
…その、瞳の奥の世界には、 なにが映っているのだろうか。
怖くて、何もできない私は、 きっともう映らない。
なんとなく、そう確信した。
溜息。
声色。
そのどれもが、
私を拒絶するかのようで…
私は、ただただ…
私と悪魔の間に 作られていく高い壁を
ずっと見つめることしか できなかったんだ。
コメント
16件
し、死神……!?……って思ったけど玲奈ちゃんの夢で良かった……😌💭 だけど悪魔、は怖いよね……。それを言葉にすることも出来ない、よね…… 切ないな……😢💓
……(˙◁˙)←何かコメントを書こうとしたけど、凄すぎてなにも言えなかった人