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「私の居場所はどこにあるのか」

それを確かめたかった。 本当にただ、それだけだった。

ないならないで、それでもよかった。

 

はぁ…はぁっ…ごほっ…。

もう2日ほど、森の中を歩き続けている。

なけなしの水と食料はとうに底をついた。疲労と空腹で眩暈がする。

そんな私を嘲笑うように、真っ白な雪が静かに、少しずつ…しかし確実に積もっていく。

 

っ…!

石かなにかにつまづき、倒れ込んでしまう。

立ち上がる体力も、気力も、私にはもう残っていなかった。

ぼんやりと、頭が死を認識する。 …そうか、私はついに、ここで死ぬのか。

 

せめて…せめて、来世はもっとマシな人生、を…送れますように…。

…そう、なんか森で女の子が一人で倒れてたんだよ。

怪我もいくつかしてるみたいだよ。

…おっけー。じゃ、連れて帰るよ。準備は頼んだ。

 

…う…ん…?

見覚えのない景色が広がる。 カーテンに囲まれたベッドの上…。 医務室、だろうか?

 

あ、起きた。

 

う、うわぁっ!?
どっ、どちら様ですか!?

紺の羽織を纏い、 紙のお面をした人物が、 ベッドに横たわる私を覗き込んでいた。

 

いやまぁ…どちらかといえば、それはこちらのセリフなんですけどね?

 

え…?

シャッ、と軽い音がしてカーテンが開く。

 

病人にちょっかいかけないでよ…。

 

ちょっかいだなんて心外ですね。自分はただ、危険人物じゃないか確かめ

 

はいはい。

 

せめて最後まで言わせて!!

 

キナリさん、報告行かなくていいの?

 

この人の目が覚めたら…って話じゃなかった?

 

あ、やっべ、忘れてた…。

お面の人は小さく呟き、 「んじゃ、また。」と、 こちらに軽く手を振ると、 足早に去っていった。

 

えーっと…まず、はじめまして。

ハワード・オミズ

俺はハワード・オミズ。軍医をやってる。

ハワード・オミズ

ま、気軽にオミズとでも呼んで。

 

オミズ…さん。…あの、ここは…。

ハワード・オミズ

ルストだよ。

 

ルスト…。

 

(なんだか、聞き覚えが…。)

ハワード・オミズ

君がうちの領土で倒れてたから、コヨミ…って言ってもわからないか。

ハワード・オミズ

仲間が連れてきたんだけど。覚えてる?

 

…すみません、なんだかまだ記憶が曖昧で…。

ハワード・オミズ

まぁ、目を覚ましたばっかりだし無理もないか。

ハワード・オミズ

とりあえず、名前と所属国、それと…祝福を教えてくれる?

 

祝…福…。

ハワード・オミズ

入国時に申告が必須の要項なんだよね。倒れてたのを運び込んだから、申告ができてなくて。

だんだんと、記憶がはっきりしてくる。

そうだ、私は…。

 

わかり…ません。

ハワード・オミズ

……え?

 

なにも…わからないんです。

 

私の名前も、出自も、祝福も…覚えていなくて…。

手の震えを、必死で抑える。 生まれて初めてつく、 とても大きな嘘。

ハワード・オミズ

…そっか。起きたばっかりで混乱してるのかもね。

ハワード・オミズ

…そろそろ食堂で昼食の時間なんだけど、食べられそう?

 

い、いえ、私は…

ぐう、と間の抜けた音が言葉を遮った。 …恥ずかしさで、顔が熱くなる。

 

…!!

ハワード・オミズ

…はは、案内するよ。…これ、着替え。

ハワード・オミズ

病衣のままってわけにもいかないからね。

 

…はい…。

オミズさんの案内で食堂へ向かいながら、記憶を整理する。

 

(大陸の三強…。)

祝福大国のモリア王国。

対して、能力者排他主義のクロエ帝国。

 

(そして、ここ最近で急激に勢力を伸ばしている、ルスト。)

 

(…敵国のようなものだ。もし、嘘がバレたら…。)

まず、スパイだと疑われるだろう。 国外追放ならまだいい。

 

(…もし、国に送り返されたりしたら…。)

食堂に入ると、数人がなにかを話し合っているようだった。

 

さすがに、素性のわからない人を受け入れるっていうのは…リスクが高すぎないですか?

 

最近、王国や帝国の動きも怪しいですからねー…。警戒する気持ちもわかるけど。

 

とりあえず、本人を見てから処遇を決めれば…。

ハワード・オミズ

…なにをこんなに騒いでるんだよ、コヨミ。

 

お、噂をすればなんとやら。

 

みんなその人の処遇について話し合ってるんだけど、なかなかまとまらなくてね。

 

私の…処遇?

ハワード・オミズ

言ってしまえば、みんな警戒してるんだよ。他国の諜報員じゃないか…とかね。

オミズさんの、眼鏡の奥の水色の瞳に捉えられ、身体が強張る。

 

あ…。その…。

 

バカ、威圧すんな。怖がってんだろ。

ハワード・オミズ

いてっ。この野郎…まず言葉で言えよ、言葉で。

オミズさんが小突かれた頭をさすりながら青年を不服そうに睨むが、青年は意に介さずこちらへ向き直る。

 

すみません、騒がしくしてて。

カレイト・コヨミ

俺はカレイト・コヨミ。よろしくお願いします。

 

コヨミさん…というと、私を助けてくださった方…ですよね?

 

本当に、ありがとうございます。

カレイト・コヨミ

いえいえ。放置はさすがにね…。

 

早くも仲良くなってるようで、
けっこうけっこう!

 

わっ!?さ、さっきの…。

カッツェ・キナリ

はーい、さっきの人ですよー。
カッツェ・キナリっていいます。

カッツェ・キナリ

体調は大丈夫ですか?

 

はい、おかげさまで…。

カッツェ・キナリ

よかったです。
席…は、どうしましょう?

カレイト・コヨミ

あ、どうぞここに座ってください。

カレイト・コヨミ

じゃ、このプチ会議、
終わらせてよオミズ。

ハワード・オミズ

え…?なんで俺…?

カッツェ・キナリ

いけオミズ!

ハワード・オミズ

えぇ…。
…ほらみんな、
話し合いはその辺にして。

 

あ、つい夢中になっちゃって…。
ごめんごめん。
…あ、その人が例の?

ハワード・オミズ

そ。…じゃ、とりあえず、マガツキさんから自己紹介してください。

マガツキ・M・ミコト

…マガツキ・ミコトです。

リーラ・レモン

リーラ・レモンです。よろしく。

プリーメル・シム

はじめまして。プリーメル・シムです。

 

えっと…よろしくお願いします。

マガツキ・M・ミコト

それで、貴女はなんて名前なんです?

 

あ…。そ、の…。

ハワード・オミズ

…。

ハワード・オミズ

あー、それがわからないみたいなんですよ。

マガツキ・M・ミコト

わからない…って…
どういうことです?

ハワード・オミズ

身体的か、精神的かはわからないけど、なにかしらのショックを受けたんじゃないかな。

返答に困る私に、オミズさんがフォローを入れてくれる。

ハワード・オミズ

流石に俺も記憶喪失になったことはないから、祝福での対処もしようがなくて。

 

…そうなんです。

リーラ・レモン

そうだ、キナリさんの祝福は?経歴を調べれば、全部わかるんじゃないですかね。

リーラ・レモン

名前だとか出身だとか…。

カッツェ・キナリ

…あれは無理ですね。本名、なおかつフルネームがなきゃ使えないので。

カッツェ・キナリ

記憶喪失となると本名がわからないので…自分の祝福は使えません。

リーラ・レモン

あ、そっか…。

プリーメル・シム

どっちにしろ、名前がないと不便じゃない?ニックネームとかあったほうが…。

 

ニックネーム…ですか?

プリーメル・シム

あっ、もちろん強制はしないけどね!

 

いえ、私も呼び名があったほうが便利だと思います。

カレイト・コヨミ

うーん…仮の名前か〜…。難しいね。

ハワード・オミズ

そうだなぁ…ジェーンさん、とかどうよ。ジェーン・ドウから取って。

プリーメル・シム

ジェーン?誰、それ。

ハワード・オミズ

これは特定の誰の名前ってわけじゃなくてさ。

ハワード・オミズ

ま、名無しの権兵衛、とかと似たようなもんだよ。

 

(ジェーン…。)

新しい名前は、初めから自分の名前だったかのように、不思議と自分に馴染んだ。

名前が変わっただけなのに、自分が丸々生まれ変わったようで、少し心が軽くなった。

 

いいと思います。ジェーンって名前。

ハワード・オミズ

うん。じゃあ改めてよろしくね、
ジェーンさん。

ジェーン

はい、よろしくお願いします。

マガツキ・M・ミコト

あとの話は…昼飯食べながらにしましょうか。みなさん、お腹空いたでしょう?

シュテルン・アミ

もー、やっとか。
料理、冷めてまうよ?

厨房から、黒髪の女性が顔を出す。

プリーメル・シム

彼女が、料理長のシュテルン・アミ。

シュテルン・アミ

お、噂のお客さんだ!

ジェーン

え?私…?

シュテルン・アミ

せやで!お客さんがおるって聞いて、いつもより気合い入れて作った昼食や。

ジェーン

は、はい、ありがとうございます、シュテルン料理長。

シュテルン・アミ

あー、そんな堅苦しい呼び方せんでええよ。アミとかあーちゃんって呼んで〜。

ジェーン

えっと…アミ…さん。

シュテルン・アミ

うんうん。昼食、楽しんでな。

To be continued—

ジェーン・ドウの偽言

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コメント

10

ユーザー

フム(( ˘ω ˘ *))フム こういうバレたらやばくなる嘘とか度胸無いから自分つけないからこれからのストーリー気になるぅー♡^^)

ユーザー

続き… (ノシ'ω')ノシ……

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