一日中所々で機嫌が悪かった ゆあんくんだが結局部活後は 一緒に帰ってくれるみたいだ。
暗くなった道を二人で歩きながら 大して言葉も交わさずに俺はあの時と 同じように蝉の声に耳を傾ける。
それでもいつもなら心地いいはずの 沈黙が今日はなんだか落ち着かない。
不機嫌なゆあんくんは 何故か心地悪い。
じゃぱぱ
ゆあん
じゃぱぱ
蝉が鳴く。 ゆあんくんが俺の横顔を 睨んだのを感じるが 俺はそれに気が付かない振りをする。
聞かずにはいられなかったんだ。
だって俺には何故か分からなかった。
俺は大好きなゆあんくんに ただ普通に接しているだけなのに。
俺はそんなに嫌な事を しているのだろうか。
ゆあん
じゃぱぱ
ゆあん
じゃぱぱ
ゆあん
ゆあんくんが小さく呟いた のが聞こえた。 蝉がどんなに煩く鳴こうが その言葉だけは嫌というほど 俺の中にははっきりと響いた。
ゆあんくんの気持ち?
ああ、俺には分からない。
だって俺は俺なりに親友である ゆあんくんと楽しく過ごせてる と思ってた。
俺なりによくやってると思うよ。
全部全部俺にとっての話だけど。
俺の何処が嫌だった? 教えて欲しい。
教えてくれないと直せない。
ねえゆあんくん。
もう俺はお前を失えない。
じゃぱぱ
表情を曇らせるゆあんくんを 前にして俺が出来ることは 小さく彼の名前を呼ぶ事だけだった。
その声が自分でも 分かるくらいに心細くて頼りなくて 自分の無力さに震えた。
蝉が鳴く。
目の前に踏切が音を鳴らす。
目の前の踏切が音を鳴らす。
黄色と黒の棒が下がっていく。
ゆあんくんはブレザーを脱ぐ。
ゆあんくんはカバンを持つ手を離す。
ゆあんくんに手放された カバンが乾いた音を立てて 夏の熱いアスファルトの上に落ちた時 俺はゆあんくんの背中を見ていた。
勢いよく走るゆあんくんを見て 俺の体が動き出すくらいには 随分時間が掛かった。
じゃぱぱ
声を上げた頃には 既に踏切の直前まで辿り着いた ゆあんくんの背中を見ていた。
徐に振り返ったゆあんくん。
バッチリと目が合い 俺は走る足を止めてしまった。
走って掴まえなきゃいけないのに、
頭では分かってるのに、
ゆあんくんは直前で足を止めて 此方を振り返る。
ゆあんくんの右口角は引き攣るように 控えめにつり上げられていた。
その笑みに何が隠れているのか。
それは憐れみで。 苦しみで。 悲しみで。 諦めで。 別れだった。
突然自分の無力さに押し潰されるようで足が上がらない。
ゆあんくんの考えている事は 俺が理解出来る次元のものでは ないのかもしれない。
理解してはいけないのかもしれない。
ゆあんくんにとって それを理解してあげる事が最善なのか。
その手を掴んで引き止めることが 一番良い事なのか。
俺は何も分からなくて 頭が真っ白になって。
ゆあんくんのその表情が 脳裏にこびりつき消えないまま 膝から崩れ落ちそのアスファルトから 夏の暑さを感じながら
結局俺はただ地面を 眺め続ける事しか出来なかった。
消えていくゆあんくんを 俺は止められない。
コメント
1件
今日も素敵な作品ありがとうございます♪ やっぱり分かっていても止められない...ですよね。親友としても、親友が望んでるなら...と考えてしまいます。私の解釈が間違っているかも知れませんが。 素敵な作品ありがとうございます‼️次の作品もお待ちしています🥳