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登場人物 ・蜂楽廻 波風高校1年生。マイペースで無邪気な子供っぽい男の子。ずば抜けたセンスを持つサッカー少年。 ・あなた 蜂楽くんと同じ高校に通う同級生。蜂楽くんとは同じクラスのためお互い顔や名前は知っている。 海外のアイドル事務所にスカウトされ、練習生として日本支部に所属。現在は海外でアイドルとしてデビューするために猛練習の日々。そのため友達は少なく学校でもやや孤立している。
高校に入学して初めての夏休みが終わり、二学期に突入。もう半年近く一緒に過ごしてきたクラスメイト達は、それぞれなんとなくグループができていたり、いわゆる派閥のようなものが形成されつつある。 中にはあまりクラスに馴染めず孤立気味な生徒もちらほら見える。もちろん私はその内の一人だ。
それも仕方がない。特に部活に入ることもせず、放課後は事務所のレッスンに通う毎日。 今日はカラオケに行こうだとか、駅前のショッピングモールに寄って行こうだとか、クラスメイト達の楽しげな声を背に、誰とも挨拶を交わさず教室を出る。
別に誰に言われた訳でもなく、自分で始めたこと。歌もダンスも、趣味を通り越して最早今では生活の一部になっている。
“世界で活躍するアイドルになる”
私の目標で夢だ。そのためには必要なことで、犠牲にしなければならない物も当然出てくる。それが、普通の高校生として送る学校生活。時折そんな私を煙たがる人もいるけれど、全部全部夢のため。仕方のない事なのだ。
……そんな風に考えてはみるけれど、通学路を歩いている時や練習の帰り道、すれ違う学生達を見て少し羨ましくなる。アルバイトをして、部活に励んで、時に学校をサボったり、友達と遊んで、そして恋をして。
普通の女の子としての生活もできなければ、アイドルとして活躍し憧れのキラキラした生活を送ることもできない。まだアイドルにすらなれていない私はただ、いつ咲くかも、本当に咲くのかも分からない花の種に毎日水をやり続けるだけ。
こんなことを考えていたって仕方がない。いつからか口癖になった「仕方ない」の言葉で要らぬ思考をかき消して、くたくたの身体を引き摺るようにして帰路についた。
次の日
クラスメイト
教室に入ろうとした時、クラスメイト達の話し声が聞こえて来た。
クラスメイト
クラスメイト
すぐに私の事だと分かった。教室の扉のすぐそばまで進めていた歩みを止め、少し後ろに後退る。
仕方ない、気にしない。 いつもそう言い聞かせて乗り切って来たのに。
足がすくんで動けなかった。まだ朝のHRまで時間はあるし、どこかで少し時間を潰そう。
そう考えて後ろを振り向いた、その時。
?
思わずぶつかりそうになって肩が跳ねる。聞き覚えのある声がして顔を上げると、そこにはクラスメイトの蜂楽廻くんが立っていた。サッカーボールを小脇に抱えて。
蜂楽廻
彼より少し低い私の身長に合わせて少しだけ屈んで目線を合わせてくれている。おかっぱの黒髪から覗く黄色い襟足と同じ色の、大きくて真ん丸な瞳がじっと見つめてくる。
あなた
あなた
思わず吃ってしまいそうになりながら、尻窄みな返事をする。
蜂楽廻
一学期間同じ教室で過ごして来た筈が、言葉を交わしたのはこれが初めてだった。…というか、私のこと認識してくれてたんだ。何はともあれ、私は適当に時間を潰してから…
あなた
蜂楽廻
蜂楽くんは適当な口実でその場を離れようとする私の肩を掴んで、くるっと半回転。そのまま私は教室の中へあれよと押し込まれていく。
先程まで私の噂話で盛り上がっていた女子生徒からの冷たい視線を浴びながら、促されるままに自分の席に着いた。クラスメイトと朝の挨拶を交わし自然と談笑に混ざる蜂楽くんを横目に、さすがのコミュ力だなぁなんて感心しながら鞄の中身を引き出しの中へ移して。浮かない気分はまだ晴れないけれど、仕方ない。いつもの事だ。またそう自分に言い聞かせた。