悠斗
ふん~ふんふん~
鼻歌をつい口ずさんでしまった。
いつもの仕事帰り。
いつもは憂鬱。いつもは……
悠斗
早く家に帰らないとー
いつもと違う悠斗に、いつもと同じ少女は、視界にすら入れてもらうことは許されなかった。
悠斗
ただいま~!!
皐月
おかえり、ゆうくん。今日は早かったね
皐月
あれ、いつもと違うんじゃない?どうしたの?
悠斗
良いことがあったんだよ!
皐月
え?何なに?どーしたの?
悠斗
実は…
悠斗
会社で重役を任されたんだよ!
皐月
え!?ゆうくん凄い!?日々の努力のたわものだよ!
皐月
じゃあ、ご飯食べながら詳しく話してよ
皐月
ちょっと座ってて。早く夕飯の準備済ませるから
悠斗
うん。わかった
ぶつかり合うガラス音をリビング内に響き渡らせる皐月。
ただ、いつもより華やかさが微かに欠けている気がする。
悠斗
(…?)
悠斗
(エキザカム……もう枯れてきている気がする)
悠斗
(花を大切にする皐月が、こんなすぐ枯らす訳ないのにな…どうしたんだろう…?)
そんなことはお構いなしに、準備を進める皐月と、その様子を眺める悠斗。
だが、この様子を変えたのが悠斗だ。
悠斗
皐月。俺、気分がいいから手伝いバンバンしちゃうよ
皐月
そんな。悠斗は休んでて。私は大丈夫だから
悠斗
ううん。今日は手伝わせて
皐月
そう?じゃあ、二人分の食器を机に並べてくれる?
悠斗
任せてよ!
皐月
うふふ。ありがとう
皐月
なんか、ゆうくんが嬉しそうだと私も嬉しくなっちゃうな
悠斗
俺も皐月が嬉しそうだと嬉しいよ
悠斗
(はあ、やっぱり重役ってのも大変だな。上手くいかないことだらけだ)
悠斗
(でも、重役ってのを伝えたときの皐月の表情……可愛かったからな)
悠斗
(悲しませないためにも、一生懸命頑張ろう)
多少増えた苦痛と妻の笑顔で辛いながらも耐え続けている日々。
そして変わらない……
悠斗
……あの子か
視線を交わし合う二人。
その視線は、どちらも厳しいものである。
悠斗
(……帰ったら、皐月に少し相談してみようかな)
早足で通り過ぎる悠斗。
一度も、振り返ることはなかった。
少女
少女
あと、すこし