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〜時間軸的にはショッピングの後〜
桃side
ほとけ
初兎
ソファに引っ付きながら、 ぼんやりとした瞳でゲームのコントローラーを動かしている二人が突如ポツリと呟いた。
ほとけ
初兎
そう言いながらもカチャカチャとあらゆるボタンを連打しながら、 テレビに釘付けになっている二人を見ると、俺的にはその言葉は嘘だろ、とは思うのだが。
なんだかんだ時間が過ぎていくと、ほとけっちが「また落ちたんだけど!」とコントローラーを床のクッションに叩きつけるように投げた。
その苛々し始めたほとけっちを見て、初兎ちゃんは口元をにやつかせながら「ドンマイ、イムくんw」と煽るように言う。
ほとけ
初兎
初兎ちゃんに揶揄われていることを察したのか、 「つまんない!」とソファの背もたれに寄りかかったほとけっち。
その頭を、二階のベランダから洗濯物を取り込んできたいふまろが背後からベシッと空いている左手ですかさず叩いた。
ほとけ
頬を膨らませて後ろを振り返ったほとけっちを、いふまろは呆れた様子でため息混じりに言う。
いふ
ほとけ
初兎
「当たり前でしょ」と言わんばかりに胸を張ってそう言ったほとけっちに、隣に座る初兎ちゃんがのんびりとツッコむ。
するとキッチンでりうらと一緒に昼ごはんの洗い物をしていたアニキが、 困ったように眉を下げて会話に乱入した。
悠佑
悠佑
ほとけ
アニキからの正論に目を泳がせながら、ほとけっちがそう言い直す。
それを聞いて何か案を思いついたのか、悪戯っ子のように笑ったまろがほとけっちを見下ろして、とある提案をした。
いふ
ほとけ
「嫌だ!」とほとけっちが駄々をこねだしたところで__突如インターフォンのピンポーンという電子音がリビング内に響いた。
悠佑
悠佑
ないこ
アニキに頼まれて、俺は玄関の扉の鍵をガチャリと開ける。
「はーい」という声と同時に、その扉を押し開けると__
??
ないこ
その瞬間、入ってきた知らない女の人にギュッと抱きつかれた。
俺の口から変な声が漏れる。
ないこ
俺が女の人の肩をポンポンと叩き耳元でそういうと、あちら側も流石に不思議に思ったのかゆっくりと体が離れていく。
??
それはこっちの台詞だ、と言ってしまいそうになるのをなんとか抑えて、不思議そうな顔で俺を見る女の人を見つめ返す。
少し巻き髪で焦げ茶色のセミロングぐらいの髪を揺らす、30代前半の雰囲気を纏うその女性は同じく焦げ茶色の瞳で俺をジッと見上げている。
ただただ二人の男女が困惑しながら互いを見つめる、という側から見たらだいぶ可笑しな状況の中、ずっと戻ってこない俺を不思議に思ったのかリビングの扉から兄弟たちが顔を覗かせた。
悠佑
すると__その女性の顔を見た瞬間、 みんなの顔がパァッと 花が浮かび上がって見えるほどの満面の笑みに変わる。
リビングの扉を勢いよく開けて部屋から出てきたほとけっちと初兎ちゃんは、そのスピードのまま女性にギュッと抱きつきに行った。
その後ろから少し駆け足でまろとアニキも続く。
状況について来れない俺は、女性の首元に抱きついて離れないほとけっちの言葉を聞いて、全てを理解することが出来た。
ほとけ
「ただいま、みんな!」と笑顔で返したその女性は、ギュッとほとけっちと初兎ちゃんを抱きしめ返した。
ほとけ
黒木家 母
リビングの机の前で初兎ちゃんとほとけっちに挟まれながら、二人の頭を撫でる女性。
興奮している二人と、珍しく落ち着かない様子のまろから、彼女が本当にこの兄弟の母であることをなんとなく感じ取ることが出来た。
ただそれでも突然の出来事に処理が追いつかない俺とりうらは、首を傾げながらも幸せそうに抱き合う兄弟たちを静かに見ていた。
アニキが女性の目の前にコトリと紅茶が入ったティーカップを置き、苦笑しながら言う。
悠佑
黒木家 母
黒木家 母
「大成功!」とアニキに向かってピースをした女性は、先程置かれたティーカップを持ってコクリと一口煽った。
初兎
黒木家 母
黒木家 母
__そういえば年上組でショッピングモールの雑貨屋に行ったあの時、アニキが両親は普段、仕事で海外行っていると言っていた気がする。
長期休暇の時だけ帰ってくることがある、と茶碗を選びながら彼は話していた。
ほとけ
黒木家 母
ほとけ
しゅんと下を向いてしまったほとけっちの頭を、「大丈夫よ」と優しく女性が撫でる。
するとほとけっちは「えへへ」と可愛らしく笑いながら、気づけばアニキが机の上に置いていたクッキーを皿から一枚取って頬張った。
黒木家 母
急に彼女が俺とりうらの方を指差してそう言ったもんだから、俺たちの肩がビクッと跳ねる。
俺たちの顔を見てもわからないということは、アニキたちが言葉で説明しただけなのか、そもそも両親に説明していないのか。
女性の近くで胡座をかいて座るまろが、咄嗟に助け舟を出すようにして言った。
いふ
まろの言葉にしばらく首を傾げていた女性だったが、ふと何かを思い出したように手をポンと合わせ、大きく何回も頷いた。
黒木家 母
黒木家 母
黒木家 母
「よろしくね」と優しく微笑みかけてくれた恵理子さんと名乗った女性は、両脇に座る初兎ちゃんとほとけっちを退け、俺たちの手をギュッと握った。
突如握られたその温かい手に困惑を覚えつつ、俺とりうらは自分の名前を名乗る。
ないこ
りうら
言葉の順序がおかしくなってしまったが、女性はうんうんと頷くと、歯を見せて太陽のように笑ってみせた。
黒木家 母
黒木家 母
りうら
先ほどの玄関での状況のように、俺たちはギュッと女性に抱きつかれる。
なかなか女性特有の柔らかい感じと香水に慣れていない俺たちは、どうすればいいのかわからずアワアワと焦る。
__この人、 まろみたいに距離感が近い!
すると俺たちの慌てた気持ちを感じ取ったのか、アニキが「はいはい、母さん一回離れて」と俺たちから女性を引き剥がした。
女性は「あら、ごめんなさい」と耳元に髪の毛をかけながら、眉を下げて言う。
黒木家 母
ないこ
ドキドキと跳ねる心をなんとか宥めつつそう返した俺に、女性はふふっと優しく笑うと今度は俺たちの頭をゆっくりと撫でた。
ないこ
りうら
驚く俺たちをあははと笑いながら、女性は大人っぽい・・・・・・いや、お母さんぽい笑顔で俺たちの瞳をとらえた。
そして耳元でそっと囁く。
黒木家 母
ないこ
女性は後ろを振り向いて兄弟たちに言う。
黒木家 母
ほとけ
黒木家 母
悠佑
黒木家 母
張り切って立ち上がった女性に続いて、ほとけっちが「僕も手伝う!」と立ち上がる。
いふ
ほとけ
ほとけ
初兎
悠佑
わいわいとキッチンに移動しはじめたみんなを見て、りうらと顔を見合わせる。
りうら
りうらがぼんやりとそう呟いた。
俺も同感だと示すために、 小さく頷く。
__アニキみたいに料理上手で。
__まろのように海外で働けるほどの知識があって。
__ほとけっちや初兎ちゃんのように自由で明るい性格で。
まさにこの兄弟を合わせた人があの女性なんだなと、そう感じた。
ないこ
りうら
黒木家 母
悠佑
ほとけ
初兎
いふ
まさに学校の調理実習みたいな状態で調理を始めるみんな。
そんな騒がしい家族の会話を聞きながら、俺とりうらはあははと顔を見合わせて笑う。
__いつか、みんなのお父さんにも会えるといいな。
俺は心の中でそう思ったのだった。