少し外を散歩しようと言われ、
俺、瀬様、彼女を支える真瀬さんの
3人で、家の外の道に出る
瀬
では、先程の話の続きとしましょうか

どこかへ向かって歩き出しながら、
話をし始める彼女
瀬
まず、闇属性の魔法使いが“コントロール”の能力を持っていることは、ご存知のことと思います

百瀬
あー、はい、実際に何回か使ったこともあります

光属性の“テレポート”と、
闇属性の“コントロール”
これらは魔法とは別の“能力”だって、
前にノアさんとみんなから聞いた
瀬
はい。このコントロールという能力は、基本的には人の感情を操作するものです。

瀬
しかし、一部の強力な闇属性使いの血筋は、その能力を応用した使い方ができるんです

百瀬
応用……?

瀬
固有武器を持つことができない闇属性の……言わば、“固有能力”とでも言いましょうか。

瀬
この鳴海家……遥か昔の魔法界で名乗っていた元の名は、“サージェンツ家”と言います。

瀬
サージェンツ出身の使いは、この能力を応用し、“予知”という固有能力へと転換しました

百瀬
え、それってまさか……!

瀬
その通りです。例の予言書は、この能力を用いて執筆されました

そうか……だから鳴海は、予言書なんて
ものを作ることができたんだ
瀬
恐らくあの本を書いたのは、追放前、魔法界に居た最後の世代の1人、“ライ・サージェンツ”。

瀬
現世の時間で言うと、もう千年近くは前のことですね

百瀬
千っ……!?

あまりの数字の大きさに驚いて、
つい声が出てしまう
そりゃ確かに、追放されたのは
相当昔のことだけど……まさかあの本、
そんな昔からあったのか……!
百瀬
(……って、ん? その時の人の名前も“らい”……?)

瀬
“ライ”は、史上最も強力な予知能力を持っていました。

瀬
約千年も先の未来まで、はっきりと見据えることができてしまう力です。

瀬
それで何を視たのか、この島からも出たことのない私には、到底分かりかねますが……。

瀬
しかし彼の思惑通り、百瀬さんとそのお仲間方が、予言されていた“何か良くない未来”を阻止した。

瀬
さらに、予言書に辿り着くまでに必要だった魔法具の鍵を、当事者の“百瀬さん”が受け継ぎ、持っていました

そうだ、俺のこの鍵は、じいちゃんから
父さんに、そして俺に回ってきたもの
瀬
……その鍵もきっと、偶然貴方の元へ辿り着いたわけではありませんよ

百瀬
え……?

瀬
そもそも、そんな大事な代物が、この本部から離れていたことが不可解です。

瀬
しかしそれは、未来の出来事を止めることになる百瀬さんが、この本部から離れた人として生まれるから。

瀬
それに、鍵の受け継がれ方も、少々違和感がありませんでしたか?

百瀬
……あ、確かに……

じいちゃんから鍵を受け継いだのは、
あの家を継いだ伯父さんではなく、
なぜかその次男の父さんだった
それに、本部から離れたあの家にいる
じいちゃんの元に鍵があったってのも、
少しおかしく感じる
百瀬
……もしかして、これもその“ライ・サージェンツ”って人が……?

俺のところに鍵が辿り着くように、
その人が経路を予め操作してた……?
瀬
彼のことでしょう、貴方の存在が視えていても、何もおかしくはありません。

瀬
そして彼は、当分先の未来だけでなく、この家の未来も見据え、様々な手を施しました。

瀬
そんな彼への敬意を表して、この家の総代は代々彼の名を襲名し、そうでない者も皆、当て字の“瀬”を冠する名を持ちます

百瀬
あ……

やっぱり、ライと瀬様が同じ音の名前
なのは、気のせいじゃなかったらしい
でもそれだけじゃなくて、
俺の百瀬も、姉さんの七瀬も、
じいちゃんの和瀬も……
さらに父さんと伯父さんの名前も、
今日出会った真瀬さんだって、みんな
例外なく名前に同じ字が入ってる
百瀬
(みんな似た名前だなと思ってたけど、それもちゃんと理由があったのか……)

瀬
ちなみに、名字に“瀬”とつく家は、鳴海の遠い分家の一つであることもあるんですよ

百瀬
へぇ……

……あれ? そういやそらるの兄貴の
本名、名字が一ノ瀬じゃなかった?
百瀬
え゙っ!?

瀬
そうでない全く無関係の家ということも、十分ありますよ。

瀬
しかし……ふふっ、まるでお知り合いにいて驚いているようなお顔ですね

百瀬
あ、あはは〜……

百瀬
(いや……その情報は流石に誰でもビビるって……)

真瀬
お嬢……あぁ、失礼しました。総代様、あまりお客人を揶揄ってはいけませんよ

瀬
ふふ、今までみたいにお嬢と呼んでくださいな。それより、話の続きといきましょうか

百瀬
あ、はい

瀬
話すべき事が多くて、随分と話が逸れてしまいましたが、変わらず私の目隠しについての話です。

瀬
先程も言った通り、鳴海家は能力を応用し、予知能力として転換させました。

瀬
そしてその“視る”という影響で、人の心を読むようなことも、多少可能になったのです

百瀬
読む……ような?

瀬
はい。厳密には、人とその内面を予知し、相手の心の内を知るというものになります。

瀬
将棋やオセロなどでは、相手の次の手を予測するでしょう。それに正確性が伴ったものだと思ってください

直接人の心を読むんじゃなくて、人の
内面を予知した結果、自ずとその人が
何を思うのか分かる……そんな感じか
瀬
この力は、現在の鳴海家の人間も使っています。

瀬
……しかし、そのほとんどの人が魔力を覚醒させていません

百瀬
え……?

瀬
かく言う私も真瀬も、この予知能力のみを使うことができます。

瀬
これは、本部やその近しい人間に対する教育が理由ですね

真瀬
私達は物心ついた頃から、この能力を覚醒させ、さらに力を強める訓練を受けます。

真瀬
その時に魔力も覚醒させる人が現れますが、それは極めて少ない上に、大体が予知能力を持たない者です

百瀬
使えるのは基本のコントロールだけ……ってことすか?

真瀬
そうです。長い時が経ち、闇属性使いとしての血が薄れた我々が予知能力を開花させるには、それなりの労力が必要となりました

瀬
闇属性使いの子孫である私達に、潜在的に眠っている魔力と能力。

瀬
そのどちらもを持つことは可能ですが、能力を開花させるならば、話は変わります。

瀬
今の私達には、魔力を能力へ転換させなければ、予知能力という境地へ辿り着くことができません。

瀬
もしくは、魔法自体が強力な使いは、自ずと予知能力を開花させるという話も聞きますけどね

2人とも、普通にやってるように
見えたけど……実は、相当な努力の上で
成り立ってたのか
真瀬
しかし鳴海の人間の中でも、瀬様は少々特殊なお方でして

百瀬
特殊?

瀬
はい。……私は、人に対してだけ、どこまでも視えてしまうんです。

瀬
その人の1秒後の未来から、最期の瞬間まで……鮮明に

百瀬
え……

瀬
未来を予知することができない分、そのような点に特化してしまったようです。

瀬
視え過ぎると、脳の情報処理の許容量を超えてしまい……それで倒れてしまうことが、今までにも何度かありました。

瀬
そんなわけで、少しでも視界を遮る為に、こうして目隠しを当てています。

瀬
完全に視えなくなることはありませんが、適度な情報量になりますから。

瀬
それに、百瀬さんのような魔力を持つ方であれば、何となくぼんやりと姿形を認識することも可能です

あ……だから最初に会った時、俺の方を
しっかり見てるように視えたんだ
百瀬
(予知能力……)

俺にも、何か未来を視る力が
あったりするんだろうか
瀬
……と、話している内に着きましたね

百瀬
えっ?
