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テラーノベル(Teller Novel)

つばき

ん、ん……

つばき

あれ?私、寝落ちてた?

つばき

ユーリさんのお父さんから、ココアを貰ったあとから覚えがない……

つばき

つばき

それにしても、ここ、どこだろう?

つばき

車の中じゃなさそうだし、ユーリさんのいるホテル?

つばき

にしては、なんか薄暗いな――

つばき

あっ!ユーリさんのお父さん!

ユーリのお父さん

おっ、起きた。よく眠れたかい?

つばき

はい!

つばき

なんか久しぶりに、ぐっすり寝れた気がします

ユーリのお父さん

それは良かった

ユーリのお父さん

変な人にずっと狙われてたから、きっと疲れてたんだね

ユーリのお父さん

ユーリのお父さん

さ、お待たせ

ユーリのお父さん

これからユーリに会わせるけど……心の準備はいい?

つばき

はいっ!

ゲームセンターで待ち合わせをしていた時とは、また別の方向性で、つばきの鼓動は早くなる。

ユーリのお父さん

そうだ、せっかくだから目を閉じてもらえるかな

つばきは口角を上げながら、ぎゅっと瞼を閉じた。

耳はルームシューズと床が擦れる、足音とドアを開ける音だけに集中する。

つばき

いよいよだ……!

目を開けて、一番最初に目に入ったのは……

ユーリのお父さん

はいっ

つばき

は?

XYZの、ユーリのマイページ画面であった。

つばき

え?

つばき

どういう事?訳わかんない……

ユーリのお父さん

わかんない?

ユーリのお父さん

じゃ、これならどう?

ユーリの父親と名乗る男は、徐にスマートフォンを引っ込めて、もったいぶった様子で操作をはじめる。

小刻みに揺れる手を、つばきが見つめていた時だった。

つばき

ユーリさんからの、メッセージ……

つばき

『ほら、目の前にいるでしょ』?

つばき

これ、どういうことですか?

つばき

つばき

それじゃあ、お父さんがユーリさんみたいじゃないですか

ユーリのお父さん

ははは!小紅姫ちゃん、相当鈍いんだね

???

ちゃんと言わなきゃ分からないかな?

メッセージに夢中になるつばきの手から、男の手によってスマートフォンが抜き取られる。

???

君があれこれお話してくれた、ユーリって言うのは……

俺だよ

そう笑う男の笑顔は、ぐにゃりと歪んでいるように見えた。

つばき

う、嘘だ!

つばき

だって、ユーリさんは私と同じ歳のはずでしょ!

ユーリ

全部作り話に決まってるだろ?まさか本気にしていたのか?

ユーリ

ネットの書き込みに嘘をついちゃいけない、なんてルールも法律もないからね

ユーリ

君に信頼されるために頑張ったんだよ

ユーリ

未成年という皮を被るのは、本っ当に大変だった!

ユーリ

褒めて欲しいくらいだよ!

つばき

小学生になりきっていたって言うなら、あの写真はなんなの!?

つばき

ボーイッシュで、活発そうな女の子は――

ユーリ

ああそれか。まあ当然、俺の変装ではないね

ユーリ

どこのサイトだったかは忘れたけど……確か、画像のフリー素材を使ったかな

ユーリ

嘘に信ぴょう性を持たせるため、って言うのもそうだし

ユーリ

何よりこういう『格好いい女の子』の姿は都合がいいんだよ

つばき

つ、ごう?

ユーリ

格好いい『男の子』なら、興味を持ってもらいやすいが、それだけだ

ユーリ

女の子の内情に踏み込んだ……つまり、内緒話はできない

ユーリ

だが、女の子なら、同性なら!その警戒心は薄れる!

ユーリ

あわよくば恋愛感情も抱いてくれたら『理想の味方』が作り出せる

ユーリ

ユーリ

後は宇玉塚の男役みたいな、理想の王子様にさえなりきれれば……

ユーリ

君みたいな夢見る年頃の子供は、簡単に手懐けられるってわけさ!

つばき

そ、そんなのって……

つばき

ひどい!ひどすぎる!

ユーリ

はははっ!褒めてくれてありがとう!

ユーリ

おかげで君の警戒心は解けて、俺の事を信用し始めた!

ユーリ

子供は本当にちょろいね

ユーリ

時間をかけさえすれば、みんな誰でも簡単に騙せる

ユーリ

ね?小紅姫さん?

ユーリ

いや、田地つばきちゃん

つばき

つばき

……てよ

ユーリ

は?

つばき

もうやめてよぉ!

つばき

私を弄んで楽しかったでしょ!?

つばき

ならもうおうちに帰してよ!

ユーリ

は?ヤダよ

ユーリ

せっかくリスクを冒して、君をここまで連れてきたんだぞ?

つばき

帰る、おうち帰る!!

ユーリ

帰すわけねーだろ!

つばき

いっ、痛!痛い痛い!!

つばきはドアノブに手をかけようとするも、ユーリの手に阻まれる。

思い切り手首を捻られて、彼女の小さな体が床へと叩きつけられる。

ユーリ

本当に、何をしても可愛いね

ユーリ

やっぱり君は、公共のものであるべきだ

ユーリ

こんな素晴らしい体を、君と家族だけで保管するだなんて

ユーリ

そんな勿体無いことはできない!

ユーリ

私物からして可愛いんだ

ユーリ

あんな写真を見せられたら、誰だって喉から手が出るほど欲しがるに決まってる!!

ユーリ

俺は運がいい、誰よりも早く、こうして囲うことが出来たんだから

つばき

つばき

狂ってる、狂ってるよ!

つばき

見せてくれって言ったのは、そっちの癖に……!

ユーリ

ふふ、そうだったかな?

ユーリ

でも、断る選択肢だってあったのに、ノリノリで写真を出してきたのは君だよね

ユーリ

俺だけのせいにしちゃあいけない

ユーリ

ユーリ

……っと、流石に独り占めしすぎたかな

ユーリが扉の方を睨みつけた、その時である。

ガチャン!と部屋の扉が乱暴に開かれた。

俊樹

おい、抜け駆けは無しにしろよ!?

俊樹

まだ自分のものにしてないからってさあ!

ユーリ

俊樹!声がでかい!

つばき

ひっ……と、しき!?

つばき

どうして、ブロックしたのに

俊樹

ブロック!?ブロックって……ぷぷ

俊樹

あのアカウントのこと、覚えてくれてんのか!嬉しいもんだねえ

俊樹

俊樹

てか、ブロックってのはSNS上での話だろ?

俊樹

現実じゃそんなもん、何の意味もねーよ

俊樹

俊樹

ちょっかいかけて、ブロックされるのは計算のうち

俊樹

むしろ、あのアカウントを警戒させることで、他のに目が向かないようにした

俊樹

お陰でお前のフォロワーの1人として、堂々と潜り込むことができたぜ

俊樹

むしろ、俺らみてえなのがいねえって思ってた、お前の頭の方がすげーよ

俊樹

一体何人いるんだろうな?

俊樹

お前のだ〜いすきなフォロワーの中に、俺達みたいな大人はさ?

つばき

嘘だっ!嘘だぁっ!

つばき

つばき

そんなわけない、作り話に決まってる

つばき

あんなに仲良くしてくれたフォロワーさんの中に、こんな奴らが他にもいるなんて……

つばき

うげぇぇ、気持ち悪い……

ユーリ

おっと、吐かないでくれよ

ユーリ

掃除するのが面倒だろ?

ユーリと俊樹に挟まれて、つばきは静かに涙を流す。

スマートフォンは取り上げられた。助けなんて呼べない。

逃げ出そうにも、ユーリが両手首を、俊樹が両足を掴んで離さない。

つばき

誰か!助けて!!

つばき

誰かぁあ!!

俊樹

おいおい静かにしろよ

俊樹

ファッションモデルは大人しくしてなきゃ

つばき

むぐーっ!!

つばきの口にガムテープが貼られる。 鼻で呼吸は出来るものの、息が苦しくてたまらない。

つばき

……もう、助からないのかな

つばき

エミリに勝つ前に、死んじゃうのかな

ぐいぐいと肩に押し込まれる、ユーリの腕よりも、胸がじくじくと痛み出す。

涙を手で拭ったせいで、微かに腫れた瞼が、無意識のうちに閉じられていく。

ユーリ

さ、公共財のつばきちゃん

ユーリ

SNSで見せてくれたように、俺達を楽しませてね

俊樹

はいっ!かがむように、こっち向いてー!

カシャ!カシャ!

俊樹

あは、いいね、とってもいいよ!

ユーリ

ほんと、君ったら最高だよ!

ブラックアウトの暗闇の中で、その言葉と、スマートフォンのシャッター音だけが 、いつまでも反響していた。

ユーリ

ユーリ

まだまだ着せたい服は沢山あるんだ

ユーリ

撮影したいポーズだって、それこそ沢山!

俊樹

心ゆくまで楽しませてくれよな

いつまでも、いつまでも。

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