病院へ行って、手当はしてもらった。医者には性転換を進められた。そりゃあそうか。男としての機能が停止しつつあるんだから
そんな俺は今目黒の家に来ている。昔付き合ってた頃より綺麗な家
ひかる
お邪魔するな
れん
【はい】
ソファに座るだけでも激痛が走る。立っていられなくなってバランスを崩しかける
ひかる
うおっ……
れん
……!
倒れる寸前で目黒が俺のことを支えてくれた。そして、ゆっくりソファに座る
ひかる
これ使えば
ひかる
分かるんだな
れん
【はい。声は、分からないですけど、言葉は分かります】
ひかる
へぇ……すげ…
目黒に入れてくれと頼まれたスマホアプリを開いてそれに話しかける。そうすると、文字が起こされ、何を話しているのか表面化されるらしい
れん
【まず、俺の話からしましょっか】
ひかる
そうだな
ひかる
目黒は、好きな人が出来て、しかもその人は女の人なんだろ?
れん
【いいえ】
ひかる
違ぇのか?
れん
【はい】
ひかる
え、じゃあ…好きな人って、誰だ?
俺のスマホの画面を見て、目黒はゆっくり俺を指さした。俺は驚きで目を丸くする
れん
【ごめんなさい。嘘ついて】
ひかる
大丈夫…何か理由があったんだろ?
れん
【はい】
ひかる
教えてくれるか?
れん
……。【実は、俺、若年発症型両側性感音難聴って言う病気で】
ひかる
それって…silentの……
れん
【はい。俺自身、なるとは思ってなかったんです、けどね…】
ひかる
そう、か……
れん
【実は、辞める前から、聞こえづらくなってたんです。でも、最後までいわもとくんの声を聞いていたかったから……完全に聞こえなくなるまで、仕事を続けてたんです】
苦笑いしながら俺にそう伝えてくれた。嬉しかったと同時に、どうしてという気持ちが溢れそうになる
ひかる
心配掛けたくなかった、訳か
れん
【はい。すみません…伝えたかったんすけど、いわもとくんの邪魔しちゃ、悪いなって思っちゃって…頼りないとか、そんなんじゃないんです。俺の事で、悩んで、夢を挫折して欲しくなかった】
れん
【本当は一緒に叶えたかった。でも、俺は耳が聞こえない。アイドルにとって耳は命の次に大切なもの。だから…いわもとくんが傷付くのを分かってて、嘘をついて、辞めたんです。いわもとくんの夢の足枷にはなりたくなかったから……】
れん
【ずっとずっと。好きです。この二年間。逢えなかった二年間。何時か何処かで逢えるかもしれない。その時もしいわもとくんに好きな人がいたら、諦めよう。そう思ったんです】
ひかる
そう、だったんだな…
れん
【はい】
俺は心の底から嬉しくて、笑った。ありがとうと。心の底から思った。嫌われた。愛想をつかされた。魅力なんて俺にはなかったんだって、ずっと思っていたから
ひかる
今度は
ひかる
俺の話か
れん
【そうっすね…】
ひかる
俺は、めぐろから別れを言われた次の日からずっと、スタッフさんに虐められるようになったんだ
ひかる
二年間ずっと。初めは、噂話程度だった。でもそれがエスカレートしていって、
ひかる
カツアゲ、脅迫、暴力に変わっていった
れん
【そんな……】
ひかる
耐えれてはいたんだ。ずっと。メンバーが居たから。頑張ろうって思えた
ひかる
でも、今日は無理だった。大切なもん切られて、痛くて、
ひかる
悶えてた。その時に翔太が来てくれて、俺は嬉しかった。この痛みから開放されるんだ。翔太が助けてくれるんだって、思った
ひかる
でも…現実は違った
ひかる
翔太は、俺に向かって、良いザマだなって、言ってきた。俺にはなんのことか分からなかった
ひかる
話を聞いていくうちに、もっと意味がわからなかった
ひかる
俺が女性スタッフをごうかんして、妊娠させた挙句、堕ろせって脅した。そう、翔太の口から言われた
ひかる
でも俺は知らないし、その女性スタッフさんから虐められてたから、俺が虐めるわけもないのに。唯一のメンバーにも愛想をつかされて
ひかる
俺の中にあった我慢の糸がプツンって、切れて。痛みなんて忘れて屋上に行って、ようやくこの辛い鎖から開放されるんだって、最後に目黒に会いたいって、願いながら死のうとしたんだ
れん
【そうだったんすね…すみません。俺のせいで】
ひかる
れ……めぐろは何も悪くねぇよ笑俺の自業自得だから
翔太も言っていた。自業自得だなって。信用されてる、そう思ってたのに。それは一瞬にして崩れ去った。しかも、ひとつの嘘で
れん
【今、グループLINEは?】
ひかる
まだ一応俺はいる…でもそろそろ強制退会させられそうだけど…
れん
【俺をその中に入れてもらってもいっすか?いわもとくんは抜けないで。強制退会もさせません】
ひかる
い、良いが……
れん
【お願いしますね】
ひかる
おう……
連絡先の変わった目黒のLINEを交換し、グループLINEに招待する