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何ヶ月経っただろうか。
階級もいつの間にやら戊まで上がり、 柱を除いて上から五番目となった。ちょうど半分。
同期がどれ程かは分からないが、奈那は未だに上弦どころか十二鬼月にすら遭遇していない。
炭治郎は既に十二鬼月三体と戦っていると聞く。
引き運、というものもあるのだろう。
奈那は階級には無頓着であり、何よりも死にたくはないため強い鬼とは遭遇しなくても良いという考えだ。
今日の任務は、いつにも増して被害が大きいらしい。
十二鬼月程ではないため人が割けず単独任務ではあるが、何かあれば直ぐに救援要請の鴉を飛ばしてほしいとの伝達があった。
少し不安だが、やるしかない。
何度か道を間違え、鎹鴉に怒られながら鬼の被害があったという現場に着くと、やはり夜は人の気配がない。
奈那
状況が分からなければ鬼を探すこともままならない。
もう少し日の出ている時間帯に来て、情報収集をするべきだっただろうか…そんなことを考える。
どうやら、その必要はなかったようだが。
背後から気配。と、言うよりは既に攻撃を仕掛けられている。
首元を掠めようとした鬼の鋭い爪をギリギリのところで体を捻って躱し、戦闘態勢に入る。
周囲に人の気配がないことを確認し、抜刀した。
また、攻撃が飛んでくる。構えて、動きを観察する。
──来た
──恋の呼吸 参ノ型 恋猫しぐれ──
首を掻き切ろうとしたのだろう。 飛んできた腕を素早く斬り落とす。
しかし刃は頚には届かない。腕ですらかなり硬い。
奈那
何となく鬼との会話を試みたものの、 やけに必死な様子で質問には答えない。
奈那
独り言を呟いてみる。一人で、暗い道で、鬼がいて、怖いからだ。
何度も経験したとはいえ、なかなか慣れるものではない。
ふと鬼の目を見ると、"下肆"という文字に大きくバツ印が刻まれているのが確認できた。
奈那
炭治郎から聞いたことがある。これは十二鬼月を剥奪された鬼だと。
この言葉に鬼は大きな唸り声を出し、先程とは比べ物にならない程の殺意を込めて突進してくる。
腕の再生は遅いため、特別強いと称される程の鬼ではないのだろう。
ただ当然弱いことはなく、人の多い集落を狙っていたために被害が大きかった。
次は、頚を狙った。
──恋の呼吸 壱ノ型 初恋のわななき──
奈那
奈那は適正通りに恋の呼吸を使うものの、蜜璃程の筋力と柔軟性はない。
斬り込みは深く入ったが斬ることが出来ない。
それでも、悪鬼は斬らなければいけないから。
奈那
と、刀の持ち方を変える。
力は入りやすいものの刃に負担がかかるため普段の戦いでは命取りともなるが、少し無理に刀身に力を込める。
勿論一秒にも満たない咄嗟の判断で。
鬼の頚に刃が当たっている状態、斬りかけている状態。
それはつまり、鬼の爪が、牙が、いつ身体を引き裂いてもおかしくはない距離。
それほどの至近距離で動きを止める方が危険だと、奈那は考えた。
本来であれば多くの剣士が理想とする斬り方が一番力が入るはずなのだが、癖というものはそう簡単には直らないものだ。
理想の体勢と、自分のやりやすい体勢が一致するまでまだ時間がかかる。
結果、刃こぼれと共に頚を斬った。 少し硬かったが、奈那は無傷だ。
怪我をしては師範に怒られるなぁ、と呑気なことを考えながら帰路についた。
もう、この刀は数回頚を斬れば折れてしまうだろう。 刀鍛冶の里に行かなければ。
元々そうであったとはいえ、十二鬼月でもない鬼にこの有様では確実にいつか死んでしまうだろう。
それに忙しい中稽古をつけてくれる師範に申し訳ない。 鍛錬の時間を更に増やそうと心に決めた。
奈那は蜜璃に刀鍛冶の里に行きたい旨を伝えると、さすが姉妹と言ったところか。ちょうど蜜璃も行こうとしていたところだった。
それなら一緒に行きましょうと笑顔で提案される。
里に行くのは初めてである奈那にとってこれ程心強いことはない。二つ返事で了承するとすぐに支度を始めた。
里までの道のりは目隠しや耳栓をされたうえに背負われていたので全く分からない。
奈那であれば方向音痴故に何もされていなくても二度と行くことは出来ないだろうに。
その驚異的な隠し方に、里がどれほど鬼殺隊にとって大切であり、鬼にとって脅威となる場所であるかを再認識させられる。
隠
肩を軽く叩かれて目隠しと耳栓が外される。 明るさに慣れていない目がチカチカと痛む。
前を見ると、美しい街並みに温泉の匂い。
久しぶりに満足に休息が得られそうだと安堵する。
甘露寺蜜璃
甘露寺蜜璃
奈那
綺麗に整備された街並みをゆっくり歩く。 温泉は近くにあるようだ。
甘露寺蜜璃
奈那
甘露寺蜜璃
道の奥を指差して微笑む蜜璃。相変わらず綺麗な顔だ、と思いながら手を振る。
見えなくなるまで手を振り、扉と向き合う。 コンコンと軽く扉を叩く。
奈那
鉄穴森
奈那
鉄穴森
快く引き受けてくれた鉄穴森に感謝を伝え、 里長に挨拶をするように勧められたため蜜璃と同じく"鉄珍様"と呼ばれた刀鍛冶の元へと向かう。