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海に近いこの街は、夕方になると音が減る。 観光客が引き、店の灯りが一つずつ落ちていく頃、残った灯火と波の気配だけが残る。
瑠伽
瑠伽は、その時間が好きだった。
カランカラン..
叶多
振り向いた店員は、特別な顔をしなかった。 少しだけ目を合わせて、いつも通りの距離で微笑む。
瑠伽
叶多
それだけのやり取り。 名前も、肩書きも、過去も要らない。
瑠伽
瑠伽
☕コト..
叶多
瑠伽
目の前に置かれたそれをスッと飲み一息つく。
瑠伽
瑠伽
そんな事もどうでもよくなるくらい、ここのカプチーノの泡はきめが細かく潮の匂いがかすかに混じっている気がした。
瑠伽
叶多
瑠伽
数日後の夕方
人のいなくなった海で、瑠伽は久しぶりにヴァイオリンを構えた。
瑠伽
潮風が弦に触れ、不快な感触が指に残る。 それでも音を出した瞬間、胸の奥がゆるむ。
🎻*¨*•.¸¸♪
拍手も、評価も、予定もない。 ただ、波と空と、自分だけ。
瑠伽
叶多
叶多
仕事を終え近くの家に帰り日課のウォーキングをしていた叶多は偶然、ここの街には新鮮な楽器の音がしたので足を止めた。
叶多
最後の余韻が風にほどけていく。 拍手はない。 それでいいと思っていた。
瑠伽
叶多は、立ち止まっていた。 近付いてくるでもなく、帰るでもない。 ただ、波打ち際より少し高いところで、海とこちらを見ている。
瑠伽
目が合いそうで、合わない距離。 瑠伽はケースを閉じながら、視線を逸らさなかった。声をかけられる気配はない。スマホを構えることも、感想を言う様子もない。
叶多
叶多は、しばらくその場にいたあと、 何か言いかけるみたいに唇を動かして、やめた。
叶多
そして何も言わないまま背を向けた。
瑠伽
瑠伽はケースを持ったまましばらく動けなかった。
カランカラン..
叶多
瑠伽
瑠伽はいつも通りカウンター席に座る。 店内を見回すでもなく、メニューを眺めるでもなく、ただ、叶多を一度だけ見て、すぐ視線を落とした。
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
コーヒーを淹れる間、瑠伽はカウンター越しにその横顔を見ていた。
瑠伽
瑠伽
カプチーノが差し出されその事実が、なぜか胸にきた。
叶多
指先が、ほんの少し近づく。 触れない距離なのに、瑠伽は視線を外せなかった。
瑠伽
叶多
叶多
叶多はその違和感に首を傾げながら、次の注文を取りに向かった。
瑠伽
瑠伽
瑠伽
瑠伽
☕ズズ..
瑠伽
瑠伽
客
音楽の話題。 瑠伽は、無意識に耳を澄ませていた。
叶多
叶多の声は、少しだけ間があった。
叶多
叶多
瑠伽
胸の奥の緊張が、ほどける。 専門用語も、名前も、肩書きも。 そういうものから、1番遠い場所にいる。
だからこそ。 瑠伽のことも、 ただの“よく来る客”として見ている。 それが、瑠伽にとって救いでもあった。
☕コト..
瑠伽
叶多
記憶にないもう1杯のカプチーノが目の前に置かれている。叶多は少し声を抑えてこう続いた。
叶多
瑠伽
瑠伽
瑠伽
叶多
叶多
その人は、いつの間にか“いる人”になっていた
カランカラン..
毎日ではない。決まった時間でもない。 それなのにドアが開いた時、視線が1度そちらに向く。
叶多
入ってきたのは、例の常連だった。 背は高いけれど、威圧感はない。清潔感がありキラびやか。そんな人沢山いるのに、なぜか印象に残る。
叶多
声をかけると彼は軽く会釈した。 今日は帽子もなく、顔がはっきり見える。
叶多
整っていると思った。 でもそれ以上にどこか疲れたような、ずっと遠くを見てきた人の目をしている。
叶多
瑠伽
瑠伽
叶多が背を向けた瞬間ふっと笑みが溢れる。
叶多
コーヒーを淹れながら、視線を感じる。 でも、見られているというより、 “そこにいる”のを確かめられている感じだった。
叶多
叶多
叶多
☕コト..
瑠伽
瑠伽
瑠伽
叶多
叶多
瑠伽
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
叶多
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
瑠伽
瑠伽
瑠伽
瑠伽
🎻*¨*•.¸¸♪
瑠伽
🎻*¨*•.¸¸♪
瑠伽
音は驚くほど軽く立ち上がる。 いつもの即興なのに、指先に全く迷いがない。 旋律は波に寄り添うように、無理なく、心地よく流れていく。
瑠伽
カップの上のハート。 少し照れたように視線を逸らした叶多の横顔。
🎻*¨*•.¸¸♪
それを思い出すたび、音が柔らかくほどけていく。
瑠伽
夜風が髪を揺らし弓が止まる頃には、胸の奥に静かな満足だけが残っていた。 拍手も、歓声もない。 それでいいと思えたのは、久しぶりだった。
翌日、瑠伽が再びカフェを訪れる。
カランカラン..
叶多
瑠伽
瑠伽がいつもの席に座ろうか迷う。 この日はたまたま近くで催し物があるのもあり、店内はいつもに増して人が多い気がした。
叶多
瑠伽
叶多が多くのタスクを抱えてるのに、気にかけてくれたことが少し嬉しくて席に座る。
叶多
瑠伽
瑠伽はこの街で撮った写真を見て叶多の淹れるカプチーノを待つ。
叶多
瑠伽
数分後瑠伽の前にカプチーノが置かれた。
☕コト
叶多
瑠伽
瑠伽
叶多
瑠伽
瑠伽
☕ズズ..
瑠伽
叶多
瑠伽は飲み終えるとカフェを後にする。
照明を最小限にしてopenからclosedにした店内は昼間の賑わいはなく深呼吸をした。カウンターの上を拭き終えて、叶多はエプロンを外す。外に出ると、潮の匂いがふっと鼻先をかすめる。
叶多
裏口に置いたゴミ袋を持ち上げた瞬間、どこかで見た背中を見つける。常連。いつも1人で、長居はしない男。
瑠伽
叶多は一瞬声をかけるか迷って、結局何も言わずにゴミ袋を集積所へ運び店に戻る。
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
叶多
瑠伽
叶多
叶多はしばらく、その背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた。ただの客のはずなのになぜか、胸の奥に小さな余韻が残っていた。
3日後
昼下がりの店内は、ゆるやかな音楽とコーヒーの香りで満ちていた。カウンターの向こうで、叶多はドリップの準備をする。
客
常連の女性客が、カップを両手で包みながら身を乗り出した。
客
叶多
客
そう言って、スマホを差し出された。
叶多
叶多は少しだけ迷ってから、こう続いた。
叶多
再生されて聴こえるのは風の音と、遠くで揺れる波。そしてその奥から、すっと伸びる旋律。
🎻*¨*•.¸¸♪
派手じゃない。技巧を誇るような音でもない。 けれど、なぜか胸の奥を静かに撫でてくる。
客
叶多
客
女性客はそう言って、笑いながらカップを口に運ぶ。
叶多
3日前。 閉店後の外で常連の男性は夜の海を見ていた、あの背中がなぜか頭に浮かんできた。
☕ズズ..
客
午後のピークが過ぎて、 店内には穏やかな時間が流れていた。
客
叶多
カランカラン..
入れ替わるように、男が入ってきた。
叶多
叶多は顔を上げた瞬間、ほんの一拍息を詰める。 ミルクティー色の髪。 静かな目。 常連の彼だった。
叶多
瑠伽は女性客が座っていた席に腰を下ろし、 メニューには目を落とさず言った。
瑠伽
叶多
スチームミルクの音が立ち上がる。 白い泡が、やわらかくカップを満たしていく。
叶多
叶多
☕コト
瑠伽
瑠伽
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
客
目の前の男と音が、まだ線にならないまま重なる。
叶多
☕ズズ..
瑠伽はカップを置き、泡の跡を指でなぞった。
瑠伽
叶多
瑠伽
その夜
叶多はいつものようにウォーキングウエアに袖を通し、鍵を閉めて外に出た。
叶多
潮の匂いは相変わらずで、空は雲が多い。音が遠くまで届く夜ではなさそうだと思いながら、足を前に出す。
叶多
波の音と、自分の呼吸だけ。 街灯の間を抜け少し暗くなる海沿いに近づいた、その時だった。
🎻*¨*•.¸¸♪
叶多はスマホをポケットから出すこともなく、ただ耳を澄ませる。近づこうとはしない。今日は、音を追う気分じゃなかった。
叶多
しばらくして、音は潮騒に溶けて消えた。
叶多
音が消えてからも、叶多はそのまま歩き続けた。 余韻を振り落とすみたいに足を止めず、一定のリズムで。
叶多
海沿いを離れ、少しだけ建物が増えてくる。灯りが増え、人の気配が戻ってくる場所。 その時だった。 前方に、高いホテルが見えた。 夜でも目立つ、無機質なガラスの塔。
叶多
そのエントランスに向かって、ひとりの男が歩いていく。
叶多
細身で、肩の力が抜けた歩き方。 夜に溶ける色の服。 そして、右手に下げられた細長いケース。
叶多
街灯に照らされた一瞬、横顔が見えた。はっきりとは見えない。それでも、わかってしまう。
叶多
昼のカフェで、いつも同じ席に座る。コーヒーを飲むときの、静かな癖。猫のラテアートを見た時ほんの少しだけ緩む目元。 全てが重なった。
叶多
男は振り返らない。 そのままホテルの中へ、ゆっくりと消えていく。 自動ドアが閉まる音がやけに大きく響いた。
叶多
叶多は、しばらくその場から動けなかった。 追いかける理由も、声をかける名前も、まだない。 それでも、もう戻れない。 ただの“よく来てくれる常連”では、もうなかった。 夜の音は、確かにあの人のものだった。
翌日
カフェは、昨日より少しだけ忙しかった。ピーク前の落ち着かない時間帯。
カランカラン..
叶多
瑠伽
全神経を集中すると、彼が入ってきた瞬間空気が変わる気がした。
叶多
瑠伽
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
瑠伽は叶多を見つめてその言葉の意図を探ろうとする。
叶多
叶多は他の注文もこなしながら瑠伽のカプチーノを淹れる。今回は作っておいたステンシルにシナモンをかける簡易アート。
叶多
☕コト
カップを置くとき指が触れそうになって、触れなかった。
瑠伽
瑠伽
叶多は瑠伽にステンシルを持ち場に戻った場所から軽く見せる。
叶多
瑠伽
☕ズズ..
瑠伽は長居せず、混雑が本格的になる前にいなくなっていた。飲み終わったカップの近くにぴったりの額を置いていく。
叶多
叶多
落ち着きを取り戻した昼下がりの午後、常連の女性客がやって来た。
叶多
客
叶多
ゆったりとした時間が流れる。 出来上がったカフェラテを女性客の前に置く。
叶多
客
客
叶多
客
叶多
叶多
🎻*¨*•.¸¸♪
客
叶多
客
客
叶多
客
叶多
叶多
叶多
その動画は、派手には広がらない。 拡散もされない。
叶多
けれど誰かから誰かへ、静かに渡っていく。
客
叶多
客
夕方
客
そんな噂だけが、波みたいに。
閉店
叶多
叶多は、その日の閉店作業をしながら思う。
叶多
噂は確実に広がっている。派手じゃない。 でも、消えない。
叶多
誰に言われたわけでもないのに、叶多はそう思っていた。
叶多
ゴミ袋をまとめ、裏口から外に出る。 夜風が、昼の熱を少しだけ連れ去っていた。
叶多
叶多
コツコツコツ..
歩道の向こうから、見覚えのある背格好が近づいてくる。 紙カップを片手に。 どこかの店の、持ち帰りコーヒー。 瑠伽だった。
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多はゴミ袋を持ったまま少しだけ迷った。間を置いてから、言う。
叶多
叶多
瑠伽
叶多
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
店は、海から少し離れた小さな定食屋だった。 暖簾が低く、灯りが外までこぼれている。
叶多
叶多が言うと、瑠伽はうなずいた。
叶多
メニューを見るふりをしながら、叶多は思う。 夜の海で弾く人がこういう場所に来るのが、自分で誘っておきながら少し不思議だった。
叶多
瑠伽
瑠伽は先に答える。 迷いはなく決断の速さを感じる。
叶多
瑠伽
他の客の箸を割る音。 換気扇の低い音。 外を通る車の気配。
瑠伽
叶多
叶多
瑠伽
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
叶多
叶多
叶多
料理が運ばれてくる。 湯気が、二人の間に立ちのぼる。
叶多
瑠伽
叶多
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
もぐもぐ..
もぐもぐ..
もぐもぐ..
瑠伽
瑠伽は箸を置いく。
瑠伽
叶多
瑠伽
食べ終わり会計を済ませて2人は店を出る。 暖簾が揺れて、また静かな夜が戻ってくる。
叶多
瑠伽
通りには人が少なく、街灯の光が間隔をあけて落ちている。2人は自然に並んで歩き出した。
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
少しの沈黙。 別れのタイミングは、いつも難しい。
叶多
叶多
叶多
瑠伽は、一瞬だけ目を伏せる。 それから、顔を上げた。
瑠伽
叶多
叶多
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
瑠伽
叶多
叶多
言いかけて、止める。 “また会いましょう”とは、言わない。 でも..
叶多
瑠伽
瑠伽はそう答えて、歩き出す。
叶多
背中を見送りながら、叶多は思う。
叶多
叶多
叶多