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YOLO!!

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YOLO!!

19 - カタルシス

♥

73

2025年03月31日

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海辺

冬弥

(ごめんなさい……)

冬弥

(もう…疲れた…)

冬弥

(もう…嫌だ……)

『お前は私の息子じゃない!!何度言ったら分かる!!』

『お前は……お前は、私の……!』

冬弥

……っ

冬弥

(ごめんなさい…父さん…っ)

冬弥

(違う、父さんじゃない…)

冬弥

(あの人からしたら…俺は…気持ち悪い存在だ、)

冬弥

(俺は……気持ち悪いんだ……)

「まだ生きてたのかい」

「その子の罪は産まれてきたことだよ!」

冬弥

(本当にごめんなさい…)

冬弥

(産まれてきたことが俺の罪なら…それを償うのにはきっと、これが正しい)

冬弥

(祖父母には…本当に、迷惑をかけてしまった…)

冬弥

(先輩も……彰人も…)

冬弥

(ダメだ。未練が残るからって…会わずに来ただろう、)

冬弥

(彰人に会ってしまったのは想定外だったが…)

冬弥

(最後くらい…ちゃんと、伝えておけば良かっただろうか…)

冬弥

(……もう、関係ないか。)

この高さからならきっと、大丈夫。

底に深く沈んで、沈んでしまえばいい。

出来るだけ深く…沈んでしまえば、

冬弥

(やっと、)

彰人

冬弥?!

冬弥

えっ?!

冬弥

あ……彰人?!何故、どうして…っ

彰人

いや、こっちのセリフなんだけど?!

彰人

危ないだろ!!そんな所で何してんだよ!!

冬弥

こ……来ないでくれ!!

彰人

はぁ?!

冬弥

もう……嫌なんだ…

冬弥

見なかったことにして…俺の事は、忘れてくれ…

彰人

ふざけんなよ…

彰人

冬弥っ!!こっち来い!!

冬弥

い、嫌だっ!離してくれ!!

彰人

あんま暴れたら、オレまで一緒に落ちるけどいいのか?!

冬弥

だ、ダメだ!!

彰人

じゃあ暴れんな!!とにかくこっち来い!

冬弥

……っ

彰人

……何してんだよ、

冬弥

……

彰人

もう嫌って…何があったんだよ…

彰人

そんな…そんな事したくなるくらい、追い詰められてんのに…

彰人

なんでお前も…何も言ってくれないんだよ…!!

冬弥

冬弥

言えなかった、

冬弥

ずっと……否定されるのが、拒絶されるのが怖くて…

冬弥

「気持ち悪い」と…言われるのも、思われるのも…怖くて、

冬弥

誰にも……言えなかった…

彰人

冬弥

怖いんだ…どうしようなく、

冬弥

もう……恐れるのも、罵られるのも、嫌われるのも、嫌悪を抱かれるのも、悲しむのも…何もかも、疲れた…

冬弥

もう……消えてしまいたい…

彰人

………悪かった、

彰人

お前がそんなに追い詰められてるのに…気付いてやれなくて、ごめん。

冬弥

あ、彰人は…!

彰人

オレは、お前のこと否定しないし、拒絶しないし、気持ち悪いとも思わない。

冬弥

彰人

それをお前が信じられるかは別だけど、オレは絶対にお前を気持ち悪いと思うことはない。

冬弥

冬弥

(分かってる…彰人は嘘をつかない、)

冬弥

(でも……分かってても、怖いんだ…)

彰人

別に、無理に聞こうと思ってねぇよ。

彰人

話せないなら、別にそれでいい。

彰人

ただ……もう絶対、こんな事はして欲しくない…

冬弥

……

冬弥

嫌いに…ならないで欲しい、

彰人

ならない。

冬弥

…気持ち悪いと、思われたくない…

彰人

思うわけねぇだろ。

彰人

どんな事情があったとしても、冬弥が冬弥なのは変わんねぇだろうが。

冬弥

冬弥

(彰人は…変わってない…)

冬弥

(俺がただ、ずっと……臆病なだけ…)

冬弥

……俺の、

冬弥

俺の……父さんは、本当の父さんじゃないんだ…

彰人

冬弥

俺は……俺の、本当の父は…

冬弥

…っ

大丈夫、彰人なら。

きっと…彰人は俺を、気持ち悪いなんて思わない。

信じろ。

冬弥

……ふ、なんだ、

冬弥

俺の本当の父親は…

冬弥

…祖父なんだ。

彰人

…?

彰人

えっと…?

冬弥

俺は…母さんが、父さんの父と…関係を築いて、そこに出来た子なんだ。

彰人

…?!

冬弥

だから…父さんは、父さんじゃないんだ。

冬弥

あの人は…俺の、兄にあたる存在になる。

冬弥

俺が父親だと思っていた人が、本当は兄だったんだ。

彰人

な……

冬弥

…気持ち悪いだろう。

彰人

いや…冬弥は気持ち悪くないだろ。

彰人

母さんと…その祖父だろ、

冬弥

冬弥

幼稚園の頃は…普通だった、

10年以上前

冬弥

父さん!この本、よんでください!

冬弥の父

またその本か。そんなに気に入っているのか?

冬弥

はい!だって、父さんに初めて買ってもらった本ですから。

冬弥の父

…本くらい、いつでも好きなだけ買ってやるぞ。

冬弥

ありがとうございます!でも…今は、これがいいんです。

冬弥の父

……そうか。

冬弥の父

読んでやるから、こっちに来なさい。

冬弥

はい!

父は元々ぶっきらぼうで、少し淡白な方だったが、とても優しかった。

俺が絵本を読んでとせがめば、いつも読み聞かせてくれた。

俺は…父が、大好きだった。

小学生に上がってすぐ、父方の祖父が亡くなった。

通夜や葬式…その他諸々を済ませ、遺品整理も終えた頃のとある夜。

その夜からだった。

冬弥の父

どういう事だ!!!?

冬弥の母

ごめんなさい…ごめんなさい……!

冬弥の父

謝罪は聞いてない!!どういう事だと聞いている!!

冬弥の父

この遺書の内容は…本当なのか?!

冬弥の母

ごめんなさい、ごめんなさい……っ

冬弥

…お父さん、お母さん?

冬弥

喧嘩…してるんですか?

冬弥の父

冬弥

お母さん、何か悪いことをしたんですか…?

冬弥の母

冬弥…

冬弥

父さん…?

冬弥の父

…ちがう、

冬弥

え?

冬弥の父

私は…お前の父親じゃない、

冬弥の父

もう…今後一切、私のことを父さんと呼ぶな!!

冬弥

?!

冬弥

な…なぜですか?!俺…何か、悪いこと…

冬弥の父

近寄らないでくれっ!!気持ち悪い…っ

冬弥

!!

冬弥

(気持ち…悪い…)

その時は何が何だか訳が分からず…とにかく、ただ悲しかった。

冬弥

父さん…絵本、

冬弥の父

何度言ったら分かるんだ?!お父さんと呼ばないでくれ!!

冬弥

あっ…ご、ごめんなさい…!

冬弥の兄

…冬弥!こっちおいで。兄さんが読んでやるから。

冬弥

冬弥

うん!

それでも、兄はいつも優しくて、俺を気にかけてくれた。

冬弥の兄

「とある国で起きた、ちょっと不思議な…

冬弥の父

秋志!!

冬弥の兄

冬弥の父

お前…課題はもう終えたのか?

冬弥の兄

あ…えっと、これ終わったらやろうと…

冬弥の父

今やりなさい。

冬弥の兄

でも、冬弥と…

冬弥の父

その子はお前の弟じゃない。

冬弥の兄

でも、冬弥は俺の…!

冬弥の父

いい加減にしなさい!!

冬弥の兄

冬弥

(俺のせいまで…兄さんまで怒られちゃう…)

小学一年生の夏前、母方の祖父母の家に預けられることになった。

父さんと母さんのお仕事が忙しいからと。

そんなのはただの建前に過ぎないことなんて、本当は分かっていた。

祖父母は本当に優しくて…いい人たちだった。

彰人に出会ったのは、預けられてから約1週間後だった。

それから4、5年経ったある日…小学五年生の頃。

何があったのかは知らないが、父が突然ここに来て、打ち明けた。

冬弥の父

お前は私の子供じゃない。

冬弥

…っ

冬弥の父

お前は……私の、弟だ…

冬弥

……え?

冬弥の父

お前は、私の妻と…私の父との、子供だ。

冬弥

お母さんと……おじいちゃんの…?

冬弥の父

ああ。

冬弥

なんで……どうして俺がお母さんとおじいちゃんの子なんですか?

冬弥

お母さんには父さんがいて、おじいちゃんにはおばあちゃんがいるのに…?

冬弥の父

……っ

冬弥の父

そんなの……私が聞きたい…!!

冬弥の父

なんで……!!

冬弥

あっ……お父さ、

冬弥の父

違うと言っている!!

冬弥の父

お前は私の息子じゃない!!お前は…私の、異母兄弟なんだ!!

冬弥の父

本当に、気持ち悪い……っ

冬弥

ぁ…

耐えきれなくなって、その場からは逃げ出してしまった。

そんな事実を聞かされた後…すぐ、夏休みがやってきた。

いつも通り、彰人もここへ帰ってきたのに…俺は、部屋から中々出られなかった。

悲しくて辛くて重たくて潰れそうで、涙が止まらなかったから。

冬弥の祖母

冬弥、彰人くんが来たばい。

冬弥

…グスッ、

冬弥の祖母

冬弥の祖母

あんまり泣くと、むぞらしかお顔が台無しばい。

冬弥

……っ

冬弥の祖母

冬弥…無理はせんでよか。

冬弥の祖母

大丈夫ばい。冬弥は冬弥やけんね。

冬弥

おばあちゃん…

冬弥

俺は……気持ち悪いんだ、

冬弥の祖母

そぎゃんこつなか。

冬弥

……気持ち悪いんだよ、

冬弥の祖母

そぎゃんこつなかよ。

冬弥の祖母

冬弥はむぞらしかうちん孫ばい。

冬弥

俺が部屋から出なくても、彰人は毎日俺の所へ来てくれた。

3日くらい経った日だろうか。流石にそろそろ彰人に申し訳なくて、やっと部屋から出た。

彰人

冬弥!

冬弥

あ……きと、

彰人

お前、どうしたんだよ…!誰かに何かされたのか?!

冬弥

俺は……気持ち悪い、のかな…

彰人

はぁ?

冬弥

俺は……気持ち悪いんだ…

冬弥

俺が…俺のせいで…

彰人

よく分かんねぇけど、冬弥は気持ち悪くないだろ。

思わずそう彰人にこぼしてしまったのは…本当は、言って欲しかったからだ。

「気持ち悪くない」と…否定して欲しかったから。

彰人

何があったのかは知らないけど、オレにとって冬弥が冬弥なのには変わりねぇし。

冬弥

冬弥

うん……ありがとう、彰人…

何も知らない彰人のその言葉は、その時の俺にとってとても救いになった。

「気持ち悪くない」

「冬弥は冬弥に変わりない」

その頃は本当に、死んでしまおうかとも考えたことがあったが…

彰人や司先輩たち…みんながいて、実行することは無かった。

冬弥

それからしばらくは…平和だった。

冬弥

父もその日から、一度も会いに来ることはなかったし…母も、兄も。

冬弥

ただ…父方の祖母からの当たりが、一番キツかったな。

冬弥

「本当に気持ち悪い」「なんで産まれてきたんだい」「あの人とあの子の子なんて、見るだけで虫唾が走る」…

彰人

(酷ぇ言葉…)

冬弥

まぁ…当然だろう。一番辛いのは祖母と父だっただろうから。

彰人

冬弥

母さんの葬式で、父さんと兄さん…父方の祖母に会った。

冬弥

相変わらず…祖母からは酷い言われようで、

冬弥

父さんも…

冬弥

俺は…自分が、大好きな父を苦しめてしまっていることが、一番嫌で辛かった…

冬弥

俺には…祖父と、母さんを恨むことしか出来ない、

冬弥

色々と考えてしまうんだ。祖父が遺書に本当のことを記さなければ。そもそも、2人が関係を築かなければ。

冬弥

俺が…産まれてこなければ、

彰人

それは…違うだろ!

彰人

冬弥は何も悪くないんだし、

冬弥

祖母からしてみれば…俺の罪は「産まれてきたこと」らしいんだ。

彰人

酷い婆ちゃんだな

冬弥

…優しくて、普通のおばあちゃんだったんだ、

冬弥

祖父の遺書が見つかるまで…みんな…

冬弥

俺は……俺は、ちゃんと…父さんの子に産まれたかった…っ

彰人

冬弥

もう一度…名前を呼んで欲しかった…

冬弥

彰人

……冬弥。

彰人

やっぱり、気持ち悪いなんて思わねぇし、嫌いにもならねぇよ。

冬弥

…彰人は、優しいから…

冬弥

分かってたんだ…彰人も、司先輩も類先輩も…

冬弥

話せばきっと…受け止めて、必要なら寄り添ってもくれる。

冬弥

ただ…俺が一番、俺自身を許せないから…

冬弥

だからずっと…話せなかった、

冬弥

こんな気持ちの悪いこと…誰も聞きたく無いだろうし。

彰人

(多分…冬弥には、どれだけ俺が「気持ち悪くない」って、寄り添えたとしても…届かない気がする、)

彰人

(冬弥が…冬弥が誰よりも、自分のことを「気持ち悪い」って、「産まれてこなければ」って思ってる内は…何言っても届かないだろう)

彰人

(だったら…)

彰人

お前が自分を許せる日が来るか分からねぇけど…その時まで、オレはお前の傍にいるからな。

冬弥

彰人

お前がどれだけ自分を許せなくて、嫌になったとしても…オレだけはずっと、傍にいるから。

彰人

お前がどうしようもなく消えたくなっても、オレがそんなの忘れるくらい、楽しい方に引っ張るから。

彰人

オレだけじゃない。司先輩も、類先輩もいるんだし。

彰人

もう…絶対、1人にはしないから。

冬弥

………っ

冬弥

本当に……いいのか…?俺は…自分を許せる気が、しない…

彰人

いいよ。どんだけ時間かかっても、その時が来なかったとしても…いい。

冬弥

本当に…傍に、いてくれるのか…?

彰人

もちろん。お前が嫌って言っても、しつこく居続けてやるくらいのつもり。

冬弥

……俺が彰人を嫌だなんて言う日は、絶対に来ないだろうが…

冬弥

そうか……

彰人

……立てるか?ここ寒いし、お前もまだ着替えてねぇじゃん。

彰人

帰ろうぜ、冬弥。

冬弥

……あぁ。

冬弥

…ありがとう、彰人。

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