#2 運命の出会い
本を読む手を止めて、 窓の外を眺めた。
ちょうどサッカー部が 試合をしている所だった。
彼
…知り合いでもいるの?
正面に座って雑誌を 読んでいたはずの彼の視線も
いつの間にか校庭に向いている。
私
いないです
私
でも
私
サッカー、見るのは好きで
彼
ふぅん…
私
…あれ
私
そういえば、篠宮くん
私
サッカー部じゃなかったですか?
私
いいんですか、こんなところで本なんか読んでて
彼
よく知ってるね
彼
そうだよ、
一応在籍はしてる
一応在籍はしてる
彼
今はお休み中ってところかな
“お休み中”と濁したのが 変に引っかかる。
なにか詮索されたくない事情でもあるのだろうか。
私
怪我、とかですか?
彼
彼
まあ大体そんな感じかな
私
そうですか…
私
早く治るといいですね
彼
えー、いいの?
彼
治っちゃったら
来れなくなるよ、ここ
来れなくなるよ、ここ
彼
山野サン、寂しくなっちゃうかもよ
私
そうですか
私
早く治るといいですね
彼
ねえちょっと、それは
意味変わってくるよ
意味変わってくるよ
彼
山野サンひどーい
彼
僕泣いちゃうよー
私
面倒臭いので
無視でいいですか?
無視でいいですか?
彼
なんか僕の扱い雑じゃない?
私の聞きたいことに 関してはだんまりなのに
どうして素でこんなに 騒げるんだろう。
私
ところで
私
私
運命の出会いって
私
どういうことだと思いますか?
彼
えー、どうだろうね
彼
後に自分の人生を大きく変えた人と出会った日を思い出して
彼
それを運命って呼ぶんじゃない?
私
なるほど…
意外にもまともな答えが 返ってきたことに驚いた。
いつも自由で適当なのに、そういうところはしっかりしている。
彼
で、山野サンはどう思うの?
彼
僕に意見聞く前から
彼
もう自分の中で答えを
見つけてる顔、してたよ
見つけてる顔、してたよ
私
や、そういうわけじゃ
私
ない…ですけど
私
私
…私、思うんです
私
愛のカタチは人それぞれだって言うけれど
私
人それぞれだからこそ、
私
ある人が、これが愛だと説いたものは
私
別の人から見たら愛に見えないかもしれない
私
そうしたら、このふたりの間には恋も愛も生まれないと思うんです
私
ふたりの愛や恋の定義に共通項が存在しないから
私
ふたりの言う“愛”は
同じものを指せない
同じものを指せない
彼
なるほどね
普段はうるさい彼なのに 静かに耳を傾けてくれるから
私
だから、愛のカタチがよく似た人と出会うことを
私
運命って呼ぶんじゃないかって
なんだか不安になってしまう
私
私は思うん、ですけど…
私
えーと、
こういう時にこそ なにか言って欲しいものだ。
私
私
どう、思いますか?
彼
…なんかそんな気がしてきた
彼
ねえ、僕たち気が合うね
彼
これって運命かな?
ああ、もう
この人は本当に、
すぐそういうことを言う。
本当に調子のいい人だ。
やっぱり黙っていて ほしいかもしれない。
私
ごめんなさい
私
恋をするなら寡黙で聡明な人と決めているので
彼
それってつまり僕はやかましくて馬鹿な人間ってこと?
私
そこまでは言ってないです
私
私
それじゃ、私は帰りますね
彼
えー、もう帰るの?
彼
いつもはもうちょっといるのに
私
寄るところがあるので
彼
じゃあ一緒に帰ろうよ
私
帰りませんよ
私
部活見学でもしてきたらどうですか?
彼
…わかったよ
たまには顔出すかー、と面倒くさそうな顔をしている彼を横目に
片付けを済ませて、鞄を持つ。
彼
またね、山野サン
私
はい、また
また、なんて あるんだろうか。
校庭へ向かう彼の背中を見送りながらふと考え込んでしまう。
そんなネガティブを断つように制服のスカートをはらってからその場を後にした。