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雨降り続け、地打たれ続ける

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雨降り続け、地打たれ続ける

1 - 雨降り続け、地打たれ続ける

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2021年06月05日

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ザアザアと 雨が降る

毎日毎日、同じ天気

雨が降り続ける街、『暗灯街』

雨宮

・・・

世にも奇妙なこの街は 正しく、世界から隔絶していた

雨宮

・・・

雨が降り続ける、 しかし雨水が貯まっていく気配はなく

貯水しようにも、どういうわけか 雨水は地面に落ちると消えてしまう

ただ、雨が降り続けるだけの街

そんなだから 世界から放置された 半ば無秩序なこの街

雨宮

・・・

当然 住民も、物好きな奴以外いる筈もなく

雨宮

・・・

だからだろうか

雨宮

おい、そこの

雨が降っているのに、傘も差さず ポツンと公園に一人

少女

え?

全身を濡らした少女が 気になったのは

少女

…なんですか

少女は鬱屈とした雰囲気で答える

雨宮

いや、少し気になってね

俺は ベンチに座っている少女の隣に座る

雨宮

見ない顔だし、傘もレインコートも身に付けていない

雨宮

ここがどういう街か、知らないわけではないだろう?

少女の髪はずぶ濡れで、 衣服も、水を吸って張り付いている

雨宮

親はどこにいるんだい?

少女

…あそこの建物

少女の指差す先には、大きめの家

雨宮

へぇ、豪邸だね

少女

お母さんとお父さんは、お金持ちだから

雨宮

裕福な家庭か、いいね

雨宮

でも、何で君一人?
普通は親もついてくるだろうに

少女

両親は、引っ越し作業で忙しそうだったから

雨宮

え?じゃあ今日ここに越してきたのかい

少女

うん

驚いた。まさか引っ越しだなんて

雨宮

何でこんな街に来たんだい

わざわざこんな街に来ずとも 都会の方に行けばいいだろうに

親が裕福なら、なおさらだ

すると少女は顔を暗くして

少女

私ね、喧嘩したの

雨宮

ん?

少女

一緒にいつも遊んでた男の子

少女

その子が私に悪口を言ってきて…

雨宮

・・・

なるほど、引っ越し理由は喧嘩か

確かに、ここは 辺境といってもいい場所だ

友人との喧嘩で傷ついた 少女の傷を癒すには ちょうど良いのかもしれない

でも、喧嘩でここまでやるか?

雨宮

それで、その子と喧嘩してどうしたの?

少女

えっと、私、あの子に酷いことを…

少女

ついカッとなって…

少女

私、あの子の…

雨宮

ああ、わかった。もう大丈夫だよ

これは、少し配慮が足りなかった

年端もいかない子には 苦な話だろう

雨宮

ごめんね、辛いこと話させて

少女

…いや、大丈夫です

少女

少女

あの…

雨宮

うん?

少女

相談、したいんですけど

雨宮

いいよ、お兄さんでいいなら相談に乗るよ

さっき辛い思いをさせた謝罪 という気持ちで、俺はそれを快諾した

少女

…ありがとうございます

雨宮

いいよいいよ、それで相談って?

少女

私、どうしようか迷っているんです

少女

私は、あの子に酷いことをしました

少女

でも、もう謝れないんです

少女

あの子は私に何も言ってくれなくて…

雨宮

・・・

ふむ、友達が口を聞いてくれなくなったか…

それは確かに酷いな。 少女はその子に謝っているのに

少女

それで、私

少女

もう死のうとすら思ってしまって…

雨宮

え?

少女

両親はそれを必死に止めてくれて…

雨宮

それで、この街に来たのかい?

少女

はい。
ここなら全部流してくれるだろう、って

雨宮

・・・

これは、いいのだろうか

確かにここで生活すれば、辛いことを 洗い流せるかもしれない

でも、本当にそれでいいのか?

雨宮

雨宮

あのね、これは
お兄さんが思ったことだけど

雨宮

ちゃんと謝るべきだと思う

少女

少女

でも、もう…

雨宮

その子が口を聞いてくれなくても

雨宮

気持ちを込めて謝ろう

雨宮

そうしたら、その子も許してくれると思う

少女

…本当ですか?

雨宮

うん、本当だよ

雨宮

ほら、知ってる?

少女

雨宮

『雨降って地固まる』ってことわざ

雨宮

ここは雨ばかりだから、地は固まらないけど

雨宮

もといた場所で、きちんと謝れば、君の思いは伝わると思うよ

少女

…!

少女

あの、ありがとうございます

少女

えっと、その子にもとの場所で謝るのは無理ですけど、
きちんと謝ってみます!

少女の顔はもう、暗くなくなっていた

きっとこの明るい表情が 少女の、素の表情なのだろう

雨宮

ああ、頑張ってね

少女は立ち上がり、 先ほど指を差していた家へと 走っていった

俺は、その姿が見えなくなるまで手をふりつづけた

雨宮

それにしても…

良いことをしたからだろうか

傘を手に持ち、いつもの雨空を見て

雨宮

いい天気だ

そう思えてならないのは

ザアザアと雨が降る

雨は地を打ち、消えていく

いつもの風景に、一つの異物があった

それは幼い少年だった

少年は、雨に打たれる

しかし、それに少年は反応を示さない

そこへ少女が駆け寄ってくる

少女は、少年に一礼をする

しかし、それに少年は反応を示さない

それを見届け、少女はその場から去っていった

少年の身体は雨に打たれ続ける

雨と一緒に地へと流れ落ち

地に染み込んでいく

雨が止む気配はない

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