死別

彼はいつも私に尋ねる

雨の日も風の日も

溶けてしまいそうに暑い日も

凍ってしまいそうに寒い日も

彼は毎日、私にそう尋ねては 満足気な顔をして帰っていくのだ

今日もまた

彼が私の記憶の中にいる

だけど

明日の私は彼を覚えていない

もうこの部屋に彼はいない

この前、新しい薬を届けに来た女の人が

私にこんな話をしてきた

彼の名前はいつも思い出せない

ただ、彼の優しい声と甘い匂いは

いつだって鮮明に覚えている

忘れたくない、絶対に。

誰も信じられなかった私が

唯一温もりを感じられた人

ざらつくように溺れた記憶の深海に

叫びたいほど鳴り響く夏の主が、

追いかけているようで逃げ惑う終わりのない夢へと迷わせる。

今日は、少し屋上に出てみようかな

窓から見える空だけだと、 少し寂しいもんね。

彼が居る

風邪でなびかれる髪の毛

少し寂しげな表情

目を押えている

眉間にシワを寄せ、

哀愁が漂うため息を1つ

…なんて、言えない

苦しく笑っている

涙を拭って、潤んだ瞳で問いかけてくる

弱い私は、こんな言葉しか言ってあげられない

ごめんなさい

でも、辛いことは過ぎるから…。

呼吸を整える

今日も、彼女に会いに足を運んだ

この扉を開ければ、今日も可愛い彼女がいる

今日は何を考えるのかな

俺の事、覚えてたらどうしよう

喜んだら、気持ち悪いかな

そもそも覚えてないよね…

思い出す訳も無いよね…

失ってから気づく優しさ…

覚えてるわけないよな、笑

期待すんなよ、バカ

燃え上がるように赤い夕日を見ると

あの日の君を思い出す

飲み込まれてしまいそうに愛おしい あの笑顔と

俺の名前を呼ぶ声が忘れられない

早く俺の事、思い出して…。