コメント
1件
適当ですが申し訳ない なんかあったらコメントよろ
JK①
放課後の教室は、まだ賑やかだった。 椅子を引く音、制服のスカートが 擦れる音、笑い声。 その隅で、スマホをいじっていた 女子高生が、ふと口を開く。 窓の外は茜色の空が ゆっくり暗く沈み始めていた。
JK②
友人が笑いながら首をかしげる
JK①
JK①
クラスの誰も、真剣には聞いていない。 都市伝説のひとつ 放課後の暇つぶしにちょうどいい話題。
でも、窓の外に 確かに誰かが立っていた
カーテンの隙間から見えたのは 茜色の夕空を背景に立つ 黒い塊 制服でもスーツでもない 輪郭も顔も判別できない ただの“闇”のような存在だった
彼女は思わず後ずさり 息が詰まった
JK①
小さな悲鳴が教室にこだまする。
その声に、友人たちが駆け寄った。
友人たち
笑いながら帰っていった あの数秒前とは違う 真剣な顔つきだった。
誰かの言葉で静寂が終わった。
JK②
隣にいた友人は笑って肩をすくめた。
友人たち
友人たち
そして、帰っていく。笑い声を残して。
残された彼女は、息をひそめて カーテンの隙間から外を見た。 夕闇が深まるだけで さっきの人影はもういない。 ほっとして席に戻ろうとした そのとき
机の上に、何かが置かれていた。 黒い紙切れ。 震えるような筆跡で、こう書かれていた。
『君は、悪い子?』
床の方で、カタリと 何かが転がる音。 視線を落とした瞬間 教室全体が闇に覆われ 彼女は消えた。
友人たちは唖然とし、口々に叫んだ。
友人たち
翌朝。 教室には誰も座っていない席がひとつ。 机の上には、あの黒い紙だけが ぽつんと残されていた。
証拠品1
これは、警察組織によって記録されること になる“神隠し”最初の事件だった。
ナレーション
歩く影 終わらぬ神隠し
東京の外れ。 雑居ビルの三階。 階段を上がる途中 タバコと埃の混じった匂いが鼻を刺す。
カンカンカンと電車の音がうるさい。 ミンミンミンと蝉が命を燃やしている。 下の階では子供たちがキャッキャと 笑い声を上げ、まるでこの街全体が 「生きている」と言わんばかりだ
くすんだドアプレートには こう書かれている。
田中探偵事務所
中は相変わらず、雑然としていた。
新聞の山 焦げたマグカップ 古びた扇風機。 ソファには、ハルが身体を 溶かすように沈み、 ベランダでは小汚いおっさん…。 田中が、タバコをくゆらせている。
さっきまで晴れていた空は いつの間にか土砂降り。 煙草の煙が雨に押し流され 焦れたように滲んでいく。
田中 真紀(マキ)
机の上に足を投げ出した真紀が 腹の底から叫んだ。
田中はベランダでびしょ濡れになりながら タバコの灰を指でトントンと弾く。
田中 幸三
窓の外は土砂降り。 雷が一閃、部屋の中を白く裂いた。
真紀の腕の筋肉がピクリと動く。 “ぶん殴る”五秒前のサイン。
田中は視線だけで制した。
田中 幸三
わざとらしい声真似に 真紀は無言で拳を構えた。
頬の筋肉がピクリと動き 眉間にはうっすらと影が落ちる。
……そして、何のためらいもなく ベランダのドアをバンッと閉めた。
田中 幸三
外から田中の怒鳴り声が響く。
それを聞きながら、真紀は口角を上げ わざと軽やかに歌うように言った。
田中 真紀(マキ)
夏の湿気が部屋にこもり タバコの残り香がカーテンの 隙間から漂ってくる。 外の雨音がガラスを叩き 灰色の空が窓を白くぼかしていた。
その横で、新聞を読んでいたハルが ソファから顔を上げる。 髪が少し寝癖で跳ねており 気怠そうに片目だけ開けて言った。
清水 波瑠(ハル)
外の怒鳴り声が止み しばらくの沈黙のあと 田中の声がかすかに戻ってくる。
田中 幸三
田中 幸三
二人の声が、湿った空気の中で ゆるく反響する。 笑いと静寂が同居する 奇妙に心地いい空間。 外の雨が街の雑音を飲み込み 世界がこの部屋だけになったような錯覚。
田中はベランダから戻ると びしょ濡れのままコーヒーをすする。 それも、自分用にこっそり隠していた 高い豆を淹れたやつだ。 その一口が、疲れきった探偵の わずかな救いだった。
だが、当然のように真紀とハルにバレて、 次の瞬間にはドッタンバッタンと 取っ組み合い。 壊れかけた天井の照明が小刻みに揺れる。
それが“異常”に侵食される前の どうしようもなく人間くさい 穏やかな時間だった。
午後。 雨が止み、窓の隙間から薄い陽が 差し込んでいた。 カンカンカンと階段を登る足音。 埃まみれのドアが コンコンと小さく鳴る。
田中 真紀(マキ)
真紀がドアを開けると そこにはスーツ姿の男。 髪を後ろで束ね 眼鏡の奥の瞳が静かに光っていた。
???
濡れた傘を立てかけながら 男は軽く頭を下げる。
外ではまだカエルが鳴いていた。
田中は机の灰皿を押しのけ 座るよう促した。
???
石神教授
田中 幸三
石神教授
その一言で、田中の眉がわずかに動いた。
教授は一呼吸おいて、静かに続ける。
石神教授
空気が一気に沈んだ。 真紀の笑みが消え ハルが新聞を静かに畳む。
田中 幸三
その言葉は ただの失踪事件ではない。
この世界には、能力者と呼ばれる人間がいる。 突然変異みたいに発現するやつもいるし 生まれつきのやつもいる。 そいつらがこの社会じゃ“普通”で 持たざる者は無能力者って区別される。 まぁ、クソみたいな世界だ。
能力者の増加とともに、やがて生まれた存在 "異形”。 人の形をして、人じゃない。 それが“神隠し”の裏にいるんじゃないかと 最近ニュースでも騒がれている。
田中は灰皿の上で指を止め 煙を吐いた。
田中 幸三
ザァァァと雨の音が部屋を包む。 換気扇の回転が止まり 静寂の中で教授の声だけが響いた。
石神教授
石神教授
石神教授は淡々と語りながら 茶封筒から写真を2枚取り出した。
1枚は高校生ぐらいの娘と 石神がピースをしているもの。 もう1枚は発掘現場。 砂に埋もれた石像を背に 同じ笑顔が並んでいた。
田中は無言でメモを取り、視線を上げる。
田中 幸三
石神教授
淡々とした声。 けれど、そこには抑えきれないほどの “痛み”が滲んでいた。 悲しみを隠そうとして うまく隠せずに滲み出てしまうような まるで、笑おうとするたびに胸の奥が 裂けていくような声だった。
田中は言葉を失い ハルは静かに視線を伏せた。 どうしてだろう。 その表情のどこにも 「怒り」や「焦り」はないのに 真紀だけが、妙な“気色悪さ”を感じた。
喉の奥がざらつくような 違和感を押し殺し 真紀は話題を変えた。
田中 真紀(マキ)
石神は一瞬だけ視線を落とし わずかに口元を動かした。
石神教授
石神教授
教授の指が握る万年筆が わずかに震える。 その微かな揺れを ハルだけが、確かに見ていた
その瞬間 パチンと 照明が落ちた。
田中 真紀(マキ)
真紀が小さく悲鳴を上げる。
視界が闇に沈む。 外で雷鳴が唸り 窓の外を一瞬だけ白く裂く。 電線が火花を散らし 硝子越しに青白い閃光が走った。
停電
息を呑む音だけが 部屋を支配する。 灰皿の煙がかすかに光に揺れ 闇の中で、教授の顔だけが 雷光に照らされた。
静かな声が、低く漏れる。
石神教授
その声には、驚きでも恐怖でもなく、 “確信”のようなものが滲んでいた。
その言葉の意味を 誰も理解できなかった
バタン、とドアが閉まる音。 カツン、カツンと階段を降りていく足音。 クソみたいな雨は、まだ止まない。 遠くでは鉄道の音が ゆっくりと街を横切っていった。
教授が帰ったあと 事務所には一瞬だけ沈黙が落ちる。
真紀が椅子の背もたれに体を預け ぽつりと漏らした。
田中 真紀(マキ)
田中 幸三
田中の一言に 真紀とハルの殺気が一瞬にして戻る。
田中 真紀(マキ)
清水 波瑠(ハル)
わーわーと騒ぐ二人。
その声を背に、田中は ただ煙草の火を見つめていた。
灰皿の中の吸い殻。 かすかに揺れる橙色の光。 その火が、ひとりでに“ふっ”と消えた。
田中が眉をひそめ、外を見る。
ガラスの向こうに、虹が出ていた。 灰色がかった七色の弧。 まるで、誰かが空に爪で 引っかいたような、歪な光。 それがこの街で見る、 “異常の前触れ”だった。
第一章 終