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その日の夜会が終わったあと、僕は初兎様を自分の部屋にお連れすることになった
本当はとっても嫌だったけど! ご案内することになった
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もしも初兎様が世界征服を企む極悪人だったとしたら、僕は彼のために権力を振るう稀代の悪女として歴史に名を残したかもしれない
推しへの想いは人を盲目にする 簡単には抗えないものだ
ややして私室の前に到着し、深呼吸を一つ
僕は勢いよく扉を開け放った
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初兎様はそう言ってひっそりと息を呑む
僕は彼からそっと視線をそらしつつ、全身に冷や汗をかいた
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僕の部屋は、思う存分初兎様を愛で、初兎様の息吹を感じ、初兎様を支援するために存在している
部屋に入るとすぐに、神絵師に描かせた初兎様のでっかい壁紙が僕達を出迎えてくれた
調度類はすべて、彼のイメージカラーである紫と白で統一している
それから、カーテンやクッションには初兎様の家紋と魔法陣を自分自身で刺繍した
棚の上には初兎様愛用の香水に、彼をイメージして作り上げたアクセサリーが並ぶ
この他にも、部屋中の至るところに僕の初兎様への愛と想いと推しグッズが溢れている
初兎様はソファに腰かけ、そんな部屋をしげしげと見回していた
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穴があったら入りたい気分だ
初兎様は初兎様で居心地が悪いだろうし、なんだかとっても申し訳ない
だからこそお父様の部屋に案内したかったんだけどなぁ
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とそのとき、護衛騎士の一人が声をかけてきた
ないちゃんは8年前から僕に仕えてくれている26歳の伯爵令息で、超がつくほど真面目な男性だ
僕を守ることに命をかけているから初兎様を警戒しているらしい
同席する気満々っていう表情をしていた
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ことは初兎様の名誉に関わることだもの
初兎様がどんな反応をするか、想像するだけでちょっと怖いし
ついでに言うと、お父様が勝手をしてごめんなさいって謝る気満々だから、帝国の威信にも関わってくる
皇女っていうのは人に頭を下げてはいけない生き物だから、たとえ相手が側近のないちゃんでも、僕のそんな姿は見せるべきではない
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侍男のいふくんからお茶のカートを受け取って、僕は部屋の扉をパタンと閉める
それから改めて初兎様へと向き直った
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初兎様の仰るとおり、皇女は普通、自らお茶をいれたりしない
だけど僕は目的のためなら手段を選ばない女だ
お茶をいれる技術だってエレン様を崇め、彼の存在を感じ、推しまくるために必要だったから磨きあげた
本当に好きでやっていることなのだ
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急なことだったから、初兎様をお迎えするための準備時間が十分に取れなかった
本当なら、なら初兎様が一番好きなものをお出ししたい
たとえこれから婚約をなかったことにするのだとしても、大事な大事な彼の時間をいただくんだもの
少しでも喜んでほしいし、楽しんでほしいんだもの
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答えれば、初兎様が目を細める
途端に気恥ずかしくなって、僕はウッと口をつぐんだ
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ティーカップを受け取りながら、初兎様が微笑む
そっとミルクを差し出したら、彼は嬉しそうにそれを受け取った
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どうしよう いざ話をしようと思うと、なんて切り出したらいいかわからなくなる
初兎様の大切な時間を奪っているのだし、早くしなきゃってわかってはいるんだけど
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モタモタしていた僕に、初兎様は助け舟を出してくださった
こういう頭の回転のよさとか、気遣いができるところとか本当に素敵
好き こんなときだっていうのに、ついつい心をときめかせてしまう
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驚きに目を見開く初兎様を前に、僕は勢いよく頭を下げた
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気がついたら初兎様は僕の隣に移動していた
それから、僕の頭を上げさせると、じっとこちらを覗き込んでくる
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推しがこんなに近くにいて、平常心でいられる人間なんていない
己の肌のコンディションとか、恐ろしいほどうるさい心臓の音とか、荒くなってる鼻息とか、いろんなことが気になって本題をついつい忘れそうになってしまう
僕はゴクリと唾を飲んだ
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勘違い? そんなの、全く思い当たるフシがない
己を指さしつつ、僕はそっと首を傾げる
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待って 待って、待って ありえなさすぎて意味がわからない
初兎様の言葉がすんなりと頭に入ってこない
落ち着いて、初兎様の言葉を何度も何度も反芻する
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ようやく理解が追いついた瞬間、僕は思わず叫び声を上げた