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冬馬の部屋に入ると 彼はソファに座ったまま、ちらりと私を見る。
冬馬
千夏
千夏
嘘をついた。
真尋の部屋にいたなんて、言えない。
冬馬
興味がなさそうに答えながら、彼はスマホをいじる。
私がここに来ても、特に何か言うわけでもない。
それが、寂しい。
千夏
千夏
名前を呼ぶと、ようやく彼の視線が私に向けられた。
冬馬
千夏
千夏
彼は、少しだけ笑った。
冬馬
なんとなく——?
そんな言葉で片付けられてしまうほど 私は軽い存在なの?
千夏
千夏
勇気を出して、そう言った。
冬馬の顔が、一瞬だけ驚いたように固まる。
それから、面倒くさそうに笑った。
冬馬
千夏
冬馬
低い声で、そう言われる。
冬馬
心臓が跳ねる。
千夏
冬馬
冬馬
突き刺さる言葉。
冬馬の指が私の髪を梳く。
冬馬
優しく触れられた瞬間 私はまた冬馬に溺れていくのを感じた。
——抜け出せない。
わかってるのに、求めてしまう。
また同じ夜を、繰り返す。
冬馬の腕の中は、いつもと同じだった。
心を満たしてくれるわけじゃないのに 体が彼を求めてしまう。
唇が触れるたびに、全部どうでもよくなる。
冬馬
冬馬
冬馬が喉の奥で笑いながら、私の頬を撫でる。
千夏
千夏
冬馬
千夏
千夏
私は知ってる。
冬馬は、私が離れそうになると 甘い言葉を囁いてまた縛りつける。
でも、本当に私を大切に思ってるわけじゃない。
それでも、私は彼を拒めない。
千夏
千夏
呟いた瞬間、彼の指がピタリと止まった。
冬馬
千夏
冬馬
冬馬は、ゆっくりと私の髪をかき上げる。
冬馬
千夏
そんなの、決まってる。
冬馬に、私だけを見てほしい。
でも それを言ったら彼は困ったように笑うんだろう。
千夏
千夏
私は目を閉じた。
それ以上何も言わず、ただ冬馬に身を任せた。
——どうか、朝が来なければいいのに。
翌朝、私はひとりで目を覚ました。
隣に冬馬はいない。
見慣れた光景だった。
溜め息をつきながらスマホを手に取ると 通知が溜まっている。
真尋
真尋
私は指を止める。
真尋は、私がまた冬馬のところへ行ったことを なんとなく察しているんだろうか。
答えたくない。
でも 既読をつけずに放っておくこともできなかった。
千夏
そう送ると、すぐに返信が来た。
真尋
短い返事。
それなのに、妙に苦しくなる。
私、何やってるんだろう。
真尋の優しさも、冬馬の冷たさも どちらも私を縛る。
でも、どちらにも答えを出せないまま 私はまた曖昧な時間を繰り返していく。
バイト先に着くと 真尋はいつもと同じように笑っていた。
真尋
千夏
千夏
ぎこちなく返した私を見て 彼は少しだけ目を細める。
まるで、全部わかってるみたいに。
真尋
千夏
千夏
嘘だった。
冬馬の腕の中で 眠ったのかどうかもわからない夜を過ごした。
それでも、真尋に本当のことなんて言えない。
真尋
真尋はそれ以上何も聞かずに 淡々と仕事を始めた。
その優しさが、私には痛かった。
どこかで「問い詰めてほしい」と思ってしまう自分がいる。
でも、真尋はそういうことをしない。
それが、わかってるから。
休憩時間 私はコーヒーを片手にぼんやりとしていた。
ふと、ポケットの中のスマホが震える。
たったそれだけのメッセージ。
どうして? 何かあったの?
そんな期待を抱く自分が嫌になる。
『うん』とだけ返すと、すぐに既読がついた。
だけど、それ以上冬馬からの返信はなかった。
何なの?
心の中で叫びそうになる。
ただ、確認したかっただけ? それとも——。
真尋
突然、真尋の声がして、私はビクッと肩を揺らした。
千夏
千夏
真尋
真尋の目がまっすぐに私を見ていた。
逃げられないって、わかってしまうほどに。
バイトが終わり、私は真尋と並んで歩いていた。
夜風が冷たい。
千夏
恐る恐る聞くと、真尋は静かに口を開いた。
真尋
ドキッとする。
やっぱり、わかってたんだ。
千夏
千夏
嘘をついても仕方がないから、私は正直に頷いた。
真尋は小さく息を吐いて、夜空を見上げた。
真尋
千夏
真尋
その言葉に、胸がざわつく。
千夏
千夏
真尋
真尋
千夏
違うよ、と言いたかった。
でも、何も言えなかった。
真尋
真尋の声が、どこまでも真っ直ぐで、優しくて。
私は、どうしようもなく苦しくなった。
——そんなの、無理だよ。
喉まで出かかった言葉を飲み込んで 私は視線を落とした。
千夏
千夏
絞り出すように、それだけを言う。
真尋は何も言わず、ただじっと私を見つめていた。
千夏
千夏
千夏
真尋
千夏
千夏
本当に、わからなかった。
冬馬の傍にいても苦しいだけなのに それでも離れられない。
真尋に手を伸ばせば、きっと救われるのに。
私は、どうして。
真尋
真尋
真尋が静かに尋ねる。
千夏
千夏
そう答えるしかなかった。
真尋の表情が、少しだけ歪んだ。
真尋
真尋
短く呟いて 彼はポケットの中でギュッと拳を握った。
真尋
真尋
真尋
千夏
千夏
真尋
真尋
真尋の言葉が鋭く突き刺さる。
私はずっと 冬馬の気持ちなんて怖くて聞けなかった。
もし「好きじゃない」と言われたら 全部崩れてしまいそうだから。
真尋
彼の声が、どこまでも優しい。
私はただ、何も言えずに俯いた。
家に帰って、ベッドに倒れ込む。
真尋の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
「俺なら、千夏さんを大事にするのに」
どうして、それだけじゃダメなんだろう。
スマホを手に取る。
冬馬からの連絡は、ない。
いつもそう。
私から連絡しなければ、何も始まらない。
それなのに、私の指は勝手に動いてしまう。
千夏
送ってしまった瞬間、心臓が跳ねる。
すぐに既読がつくことも すぐに返事がくることもない。
それでも私は、冬馬の返事を待っていた。
どれだけ傷ついても、きっと——
私はまだ、彼を諦められない。