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スマホを握りしめたまま、時間だけが過ぎていく。
冬馬の返信はない。
既読すら、つかない。
——また、いつものことだ。
わかってるのに 何度も画面を確認してしまう自分が嫌になる。
千夏
ため息をつきながら、スマホをベッドに放り投げた。
何やってるんだろう。
期待なんて、しなければいいのに。
『俺なら、千夏さんを大事にするのに』
真尋の言葉が頭をよぎる。
大事にしてくれる人がいるのに 私はどうして冬馬を待ち続けてしまうんだろう
その答えを考えるのが怖くて 私はまたスマホを手に取る。
画面には何の通知もなかった。
それでも、私は冬馬を待ってしまう。
不意に、スマホが震えた。
冬馬
たったそれだけの短いメッセージ。
それでも、胸が締めつけられる。
——結局、こうやって呼ばれたら 私は行ってしまうんだ。
自分に呆れながらも、体はもう動いていた。
コートを羽織り、夜の街へ飛び出す。
冬馬の家へ向かう道は、もう何度も通った道だった。
これが最後になるかもしれない—— なんて、そんなことを思うのは、もう何回目だろう。
彼の家に着き、インターホンを押す。
数秒の沈黙のあと、冬馬の声が聞こえた。
冬馬
扉を開けると 彼はソファに座ったままスマホをいじっていた。
冬馬
冬馬
千夏
私は、何も聞かずに彼の隣へ座る。
冬馬はスマホから目を離さず 適当に私の頭をポンと撫でた。
その仕草だけで、私はまた彼に縛られてしまう。
こんな関係、終わらせるべきなのに。
それでも、私はここにいる
バイトの休憩時間 私は真尋と並んでコンビニの前でコーヒーを飲んでいた。
真尋
千夏
千夏
心ここにあらずな返事をすると 真尋が静かに私を見た。
真尋
ドキッとする。
千夏
千夏
真尋
私は誤魔化すようにコーヒーを口に運んだ。
真尋はため息をついたけど それ以上は何も言わなかった。
真尋
真尋
千夏
真尋
思わず、手が止まる。
千夏
千夏
真尋
心臓がぎゅっと締め付けられる。
千夏
千夏
真尋
真尋
真尋
そこまで言いかけたときだった。
ふと、視界の隅に見慣れたシルエットが映る。
——冬馬?
店の向かい側、街灯の下。
そこにいたのは、間違いなく冬馬だった。 だけれど。
彼の腕には、私じゃない女がいた。
華奢な肩を抱き寄せて、耳元で何か囁いている。
女はくすくすと笑い 次の瞬間——冬馬の首に腕を回し、キスをした。
目の前が真っ白になった。
何かの間違いだと思いたかった。
でも、あの光景が現実であることを 私の体は本能的に理解してしまった。
真尋
真尋が不安そうに私を見ている。
千夏
千夏
必死に震える声を押し殺して、私は呟いた。
真尋
真尋
真尋の言葉が、鋭く心を刺す。
良くないに決まってる。
だけど、私は冬馬に捨てられるのが怖い。
何も言えずに立ち尽くす私を見て 真尋はそっと私の肩に手を置いた。
真尋
千夏
千夏
真尋
真尋の声は静かだった。 でも、そこに滲む感情ははっきりしていた。
優しさと、諦めと、少しの怒り。
私のために怒ってくれる人がいるのに。
それでも、私は冬馬から目を離せなかった。
あの人が他の誰かとキスしている。
私じゃない誰かを抱き寄せている。
そんな光景を 見なかったことになんてできるわけがないのに。
真尋
千夏
必死に笑おうとした。でも、声が震えていた。
千夏
真尋
真尋
真尋の声が優しすぎて、泣きそうになった。
終わらせたほうがいい。
そんなこと、最初からわかってた。
それでも。
千夏
千夏
冬馬を失うのが怖かった。
真尋
呆れたように言いながらも 真尋は私を突き放さなかった。
寒い風が吹く。
冬馬はまだ、あの女の肩を抱いたまま笑っていた。
その夜、スマホが震えた。
いつもと同じ、短いメッセージ。
——さっき、他の女といたくせに。
そう思うのに、私はスマホを握りしめる。
こんなの、おかしい。
それでも、私は立ち上がった。
冬馬の部屋の前に立ち、インターホンを押した。
冬馬
聞き慣れた低い声がする。
ドアを開けると 冬馬はソファに座ったままタバコをくゆらせていた。
千夏
千夏
冬馬
遮るように言われて、言葉を飲み込んだ。
——他の女といたよね?
そう問い詰めたら、私はここにいられなくなる。
千夏
千夏
何も聞けずに、私は隣に座った。
冬馬が私の頭を軽く撫でる。
冬馬
優しく囁かれる。
——本当は、全然よくないのに。
それでも私は、彼の温もりにすがるしかなかった。
千夏
冬馬の手が、私の身体を適当に撫でる。
ただの欲を満たすためだけの触れ方。
それでも私は、されるがままだった。
冬馬
冬馬
突然、冬馬が身体を離す。
千夏
冬馬
そう言って、スマホを手に取り 適当に画面をスクロールし始める。
私は、ベッドの端で取り残される。
冬馬
冬馬
冬馬はスマホを見たまま言った。
——帰れってこと?
そう言われているのと同じなのに 私は「うん」と言えなかった。
千夏
千夏
惨めだった。
でも、ここを出たら 本当に何もなくなってしまいそうで。
冬馬
冬馬は興味もなさそうに言った。
私って、いったい何なんだろう。
帰り道、泣きそうだった。
それでも涙は出なかった。
もう、泣くことにも疲れてしまったのかもしれない。
『俺なら、千夏さんを大事にするのに』
真尋の言葉が、頭の中で響く。
——今からでも、遅くないのかな。
スマホを握りしめる。
真尋に連絡すれば、きっと優しくしてくれる。
でも、指が動かなかった。
その代わりに、冬馬とのメッセージを開く。
そこには 彼からの冷たい言葉しか並んでいなかった。
冬馬
冬馬
冬馬
……もう、やめなきゃ。
わかってるのに、冬馬を嫌いになれない。