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➰ ✿ nrkr
32
りおん
5,264
みかんのかんずめ
246
診察の時間が近づくにつれて、病棟の空気は少しづつ変わって行った。
いつもなら廊下を歩く看護師の姿が何人か見えるはずなのに、今日は妙に人が少ない。
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ベットに腰掛けながら、こさめが廊下を覗き込む。
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そう言いながらも、いるまは何度も時計を確認していた。
昨日見つけた記録。
今日の日付。
そして、朝から様子のおかしい先生達。
忘れようとしても、頭から離れない記憶。
その時。
コンコン
病室の扉が叩かれた。
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なつが立ち上がる。
けれど、みことはいつもと違った。
笑っている。
けれど、笑顔がどこか硬い。
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慌てるみことをみて、なつは小さく笑った。
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二人が廊下へ出ていく。
その背中を、いるまとこさめが見送る。
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しばらくして…
今度は別の扉が開いた。
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すちの声はいつも通り穏やかだった。
いるまは立ち上がり、すちの横を歩く。
診察室へ向かう途中、いるまは何気なく口を開いた。
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すちの足が、一瞬止まった。
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再び歩き始める。
すちは何も聞かなかった。
それが逆に、いるまには気になった。
診察室の前まで来る。
すちが扉を開けた。
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机の上には、いつものカルテ。
そして、その隣には見慣れない黒いファイルが置かれていた。
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すちはファイルへ目を向ける。
ほんの一瞬だけ、表情が曇った。
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それ以上は聞かなかった。
けれど、ファイルの端に見えた数字が、昨日の記録と同じだった。
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すちは診察の準備を始める。
聴診器を手に取る指先が、ほんの少し震えていた。
いるまは気づいていた。
けれど、何も言わなかった。
一方その頃。
こさめは一人、広場で待っていた。
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窓の外を見る。
中庭では、勿忘草が風に揺られていた。
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花壇の向こうに、白衣を着た人影が立っていた。
いつもの先生ではない。
その人は中庭を見ることなく、病院の奥へ消えて行った。
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その直後。
広場の扉が開いた。
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らんは笑いながら、こさめの隣へ座る。
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返事が早かった。
こさめは少しだけ首を傾げる。
けれど、らんがいつものような笑っているのを見て、それ以上は聞かなかった。
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小指を差し出す。
らんも小指を絡める。
その瞬間、らんの端末が震えた。
ピコンッ
画面を確認したらんの顔から、笑顔が消える。
『予定時刻、変更なし。』
その文字を見つめたまま、らんは小さく息を吐いた。
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らんは端末を伏せる。
そして、いつもの優しい笑顔を作った。
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白い病院の中で。
誰かの名前が、また一つ呼ばれようとしていた。
コメント
1件
みぅ🤍🥀、読み終えたよ…。 うん、この話、すごく空気が重くて苦しいのに、目が離せなかった。診察前の静けさとか、みことの硬い笑顔、すちの震える指先——何かが起きようとしてる感じがひしひしと伝わってきた。黒いファイルの数字とか、らん先生の端末のメッセージ……伏線がじわじわ効いてくるね。 こさめが無邪気に「約束!」って小指差し出すシーン、胸がぎゅっとなった。守られるべき約束なのか、それとも——。次が気になって仕方ないです、りすさん。最近こういう「日常の隙間からじわじわ侵食してくる不穏」が大好物なんだよね🌙