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ナルセ青果店

かつて【3D事件】で有名となってしまった地域に昔からある青果店。

ちょうどお昼休憩の時だった。

ナルセ

ほら、ヨウタ。そこの玉ねぎが焼けてるぞ。

ナルセ

肉はお父さんに任せて野菜を食え。今、野菜のほうが高いから。

ナルセのせがれ

ってか、なんで昼間っから焼肉すんだよ?

ナルセのせがれ

店まで焼肉臭くなんだろ?

ナルセ

――分かってないなヨウタ。

ナルセ

いいか?

ナルセ

青果店に寄る、なんか焼肉の匂いがする――「あ、今夜は焼肉にしようかしら?」とお客さんが思う。

ナルセ

そして「せっかく焼肉をするのであれば、デザートに果物のひとつでも出してあげたら、子ども達も喜ぶわ。大将、この高級マスクメロンをください」で、うちが儲かる。

ナルセ

――な?

ナルセのせがれ

――な?
じゃねぇんだよ!

ナルセのせがれ

そんな考えだから、うちの店は客が来ねぇんだよ!

ナルセのせがれ

ただ親父が焼肉食いたかっただけ――あ、肉どこ行った?

油断大敵。どうやらまだ息子は分かっていないらしい。

ナルセ

ふっふっふ――肉はすでに父さんのライスにオンだ。

ナルセ

ヨウタ、まだまだだな!

ナルセのせがれ

うっせぇ!
だったらもっと肉焼けよ!

ナルセのせがれ

ってか、肉食わせろよ!

恒例の親子喧嘩に水を差すかのように、テレビから不吉な映像が流れる。

思わず箸を止める2人。

ナルセ

なんだありゃ――。

ナルセのせがれ

高校の屋上に、ロープに繋がれたおっさんが立ってる。

テロップには【白昼堂々 高校が占拠される】との文字列が並ぶ。

テレビ

あ、ただいま指名された上野原放送局から、内部の映像をリアルタイムに拝借いたしました。

テレビ

みなさま、ご覧いただけているでしょうか?

高校の屋上らしき場所を映していた画面が小さくなり、その代わりに教室らしき場所が映し出される。

ナルセのせがれ

なんだよこれ――あの事件みたいで気味が悪ぃな。

ナルセ

世の中、物騒になったなぁ。

そのままテレビにかじりついていると、教室に息も切れ切れといった様子の男性が飛び込んできた。

ナルセのせがれ

え、マジかよ。

ナルセのせがれ

セイヤじゃねぇか!

ナルセ

ヨウタ、セイヤ君は今何を?

ナルセのせがれ

確か高校卒業してから大学行ってよ、教師になったはずだ。

ナルセ

ふむ、どこで教師をやってるんだ?

ナルセのせがれ

そんなに昔ほど頻繁に連絡取り合ってないから知らねぇよ。

男性をカメラが映した瞬間、ぽつりと漏らされた名前らしきものをナルセは聞き逃さなかった。

いや――名前というより、その声を。

ナルセ

今のセイヤ君の名前を呼んだ声――ヒグラシさんじゃないか?

ナルセのせがれ

ヒグラシ?
あ、ハカセ?

ハカセとはヨウタと一緒に【3D事件】に巻き込まれたクラスメイトだ。

それゆえに、ナルセはある人物との付き合いがあった。

ナルセ

違う、お父さんのほうだよ。

ナルセ

ハカセ君のお父さん。

ナルセのせがれ

え、声だけで分かるの?

ナルセのせがれ

おっかねえ――ってか、親父かなりキモイぞ。

ナルセ

キモくはない!
確かに聞こえたぞ!

ナルセ

彼が助けを求める声が!

ナルセ

ヨウタ、ハカセ君に連絡を取って、今セイヤ君とハカセ君のお父さんがどこで何をしているのか教えてもらいなさい。

ナルセ

お父さんは店を閉めて軽トラを店の表まで持ってくるぞ!

ナルセのせがれ

軽トラを持ってくるって――まさか。

ナルセ

お前の友人とお父さんの友人がピンチっぽいだろ?

ナルセ

我々が助けに行かずしてどうする?

ナルセのせがれ

ちょっと待て、店はどうすんだよ?

ナルセ

しばらく休んでも誰も困らん!

ナルセのせがれ

そんな悲しいこと堂々と言うんじゃねぇよ!

ナルセのせがれ

おい、親父!
待てってば!

せがれの言葉も聞かずにナルセは居間から飛び出したのだった。

思いも寄らぬ再会に、しかしイガラシは首を横に振った。

今はそんなことより優先させなければならないことがある。

イガラシ

いいか、絶対に回答するな。

イガラシ

それこそが、このゲームの解法なんだ!

校内放送

おや、どうやら余計な因子が紛れ込んでいるようだ。

校内放送

これは警告だ。

校内放送

どのロープを選ぶか、その選択権は各クラスにある。

校内放送

権利のない人間が――ましてや教師が口を出すのはやめていただきたい。

イガラシ

いいか、絶対に……。

校内放送

まだ分からないか?

校内放送

権利のない人間に発言権はない。

校内放送

我々からの警告を受け入れないのであれば、それ相応の対処をするまでだ。

イガラシ

くっ……。

イガラシ

(相手の手の内が分からない以上、下手に逆らわないほうがいいか)

校内放送

――それでは、代表者は回答を。

男子生徒

えっと――。

男子生徒はクラスを見回し、そしてイガラシのほうをちらりと見ると、カメラの方へと向き直る。

もはや、男子生徒がどうするかなんて、火を見るより明らかだった。

男子生徒

それじゃあ、ラッキナンバーの【7】で。

そう、イガラシの声なんてかき消されてしまう。

同調圧力という名の無言の重圧の前では。

校内放送

――【7】だな。承知した。

その校内放送を最後に、しばらく時間が空いた。

おそらくは、実際にロープを切っているのだろう。

校内放送

お待たせした。

校内放送

1年1組の選んだロープは……外れだ。

校内放送の内容に、落胆するかのような声が上がる。

イガラシ

(思った以上に生徒達はパニックを起こしてはいない)

イガラシ

(突然逃げ出そうとする者もいないし、妙に落ち着いてる)

イガラシ

(……学校のどこかに爆弾が仕掛けられているかもしれないのにだ)

校内放送

では、カメラは隣の1年2組へと向かってもらおう。

校内放送

なお、カメラの前でなければ、余計な口出しも通用する――なんて考えないことだ。

校内放送

我々は学校中の全てを掌握している。

校内放送

生徒達に下手な介入をするのであれば――分かっているな?

イガラシ

(先回りして生徒達に伝える行為も駄目か。だとしたら――俺にできることは)

カメラを担いだヒグラシがアイコンタクトを取ってくる。

下手な手は打たないほうがいい、今は様子を見るべき。

ヒグラシの目はそう言っているような気がした。

なぜ、彼がここにいるのかは疑問ではあるが、かつて同じような境遇を潜り抜けた仲間がいることは心強い。

イガラシ

(生徒達に介入することはできない。でもそれは逆説的に考えると――)

イガラシ

(それ以外になら介入してもいいってことだよな)

イガラシ

(それなら!)

あることを突発的に思いついたイガラシは、ヒグラシの後に続いて教室を飛び出すと、力強く床を蹴り出したのだった。

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