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演じてるってことは……女装の子の方だけ出てきたって感じでしょうか……!? もう1人の方がまだ出てこないことでもう色々想像してしまいます……!☺️☺️
トントントンと、肩が叩かれたような気がして、私は目を醒ましました。
随分と長く眠っていたのでしょうか、なんだか頭がぼんやりとしています。
ここは、どこでしたっけ……?
ミア
得心の声。もちろんこれは私の声です。
私の記憶が正しければ、そして私が取り込まれた後誰も取り込まれていないのであれば、この空間には私一人しかいません。
……それにしても、真っ暗ですね。
何もかもが寒くて暗い、路地裏を思い出します。
ミア
ミア
私の独り言は反響することなく聞こえました。
材質がそういったものであるのか、それともこの空間が縦横無限に広がっているものであるのか、判別はつきませんが恐らく後者ではないでしょう。
闇属性の魔法でだって、元ある空間の三割ほどを拡張させることしかできません。
無限性を体現できるのは神のみだからと言われていますが……本当はどうなんでしょうか。
形あるものには必ず終わりが訪れます。
そうだとすれば、身体と精神を持つ神にだって、無限性を体現することは不可能なんじゃないでしょうか。
……少し、状況を整理しましょうか。
まず、私は今人造人間の中の……異空間でしょうか、に取り込まれました。
人造人間は歴史上いくつか出現が認められていますが、この学園に封じ込めれられたものだというと……一つしか該当するものがありません。
六百年前の一体。ここが開園されて、割とすぐの出来事です。
初代怪盗ブラックが、暴れる人造人間をここの地下深くに封じたとか、何とか。
それにしても……なぜ破壊、という方法をとらずに封印したのかが気になる所です。
単にかの方が人造人間を破壊するほどの火力をお持ちでなかったのでしょうか。
もしくは、封印するのが最も人造人間にとって最善だと、考えられたのでしょうか。
そしてなにより……私たち、この人造人間を壊してもいいのでしょうか?
もしもこの方が何の罪も犯していない、自我を持った人造人間だとすれば、何も考えずに壊し、後味の悪い思いをするのはこちらです。
私は被害者ではあるのですが、被害者が加害者の命を奪っていいのでしょうか。
そんなことをしたが最後、どちらが加害者なのかが分からなくなってしまうのではないでしょうか。
そう、例えば。
ミア
ミア
私は何を考えようとしたんでしょう。
頭の中で、急にもやがかかったような……。
……気のせいでしょう。そういうことにしておきます。
とりあえず周りを見渡すために、私は小さな火を無詠唱で起こしました。
ミア
ミア
拍子抜けです。もしやこの人造人間、そもそも人を動力源として動いていないのでは?
それなら、どうして私を取り込んだのでしょう。
レミやサラを、どうして追い回していたのでしょう。
この人造人間は、私たちに何かを伝えたがっているのでしょうか。
……壊すのはやめになりそうですね。
私ははぁとため息を吐きます。
ただ壊すだけなら、誰にでもできる簡単な仕事です。
傷つけずに脱出する。簡単そうに聞こえるこれが、どれだけ大変なことか、私はこの三年間でよく分かっています。
けれど、その不条理を、不可能だと思われていることを覆すのが怪盗です。
ならば私、必ず成功させます。
私は息を吸い込み、全神経を集中。
この空間の全容を把握するため、水を召喚し操って行き止まりを探します。
幸い、迷路状にはなっていないようでした。
その代わりといってはなんですが。
ミア
水から伝わってくる感触ではよく分からないので、そのものがある場所へと近づきます。
ミア
気を抜いていたのでしょう、ごつんと何かに額をぶつけました。
間違いなく、私が探していたものはこれでしょうね。
────それは、透明度の高い水晶でした。
先程私がぶつかってしまったものとは思えないくらい、今にも割れてしまいそうな大きな水晶。
端的に申せば非常に脆そうです。
えぇ、ぶつかってしまったのが嘘のようですよ。
痛む額をさすりつつ、片手で私はその大きな水晶に触れました。
────ドクン。
ミア
水晶の表面が大きく波打ちました。いえ、波打ったように感じられました。
これは、一体……。
────ドクン。
また、振動。
それから、微かに音がしました。
『……けて……して』
小さく聞き取りづらかった言葉は、だんだんと大きくなっていきます。
そして、はっきりと聴こえました。
────『助けて』、と。
────『返して』、と。
誰かに、縋るような声が。
レミ
レミ
サラ
サラ
サラ
サラ
レミ
レミ
サラ
サラの顔が怒りで歪んだ。
も、申し訳ないとは思ってるよ? 思ってるけどね?
一つ言わせてもらっていいですか‼︎
こちらの世界にきて一ヶ月と少しで、元の世界では存在すらしていなかった魔法を覚えられると思いますか!?
しかも魔法難しいし!
発音間違っただけでドカンですよ!?
そんなこと音痴な私にできるとでもお思いですか!
過大評価ダメ絶対‼︎
レミ
サラ
サラ
サラ
サラの得意な音符の爆弾を生み出す魔法だ。
音程によって爆弾の威力が違うらしい。
この試験会場を壊すわけにもいかないので、サラは手加減しているのだが、その程度では人造人間を壊すことはできなかった。
私は唇を噛み、背負っているミアちゃんに声を掛けた。
レミ
轟音が鳴り響いているというのに、彼女は起きない。起きる気配もしない。
意識を人造人間に持っていかれてしまったのだろうか。
そもそも私、人造人間がこの世界でどういったものなのか知らないんだけど!
レミ
人造人間からの攻撃。短剣が、次々と飛来する。
どこから出してるんだろう。短剣の総本数は?
走って躱しながら、打開策を模索する。
あぁでもずっとこのままじゃ、先にバテるのは私達の方だ。
体力の消耗が比較的少ない魔法を使わないとこの勝負、勝てない。
とはいっても、私魔法全然覚えてないんだよね。
使えないのなら覚えなくてもいいやーって。猛省。
……サラが使っていた魔法を真似してみようか。
レミ
レミ
レミ
キラキラとした光を纏い、現れた物体は私のすぐ近くで爆発。
私は慌てて横へ飛んだ。
成功するとは思ってなかったけれど、自分の近くで爆発するのはやめてほしい……!
サラ
サラ
案の定サラから苦情がきた。ほんっとにごめん。
でも、サラに迷惑かけてないからいいでしょ、別に。
サラ
サラ
レミ
何が何だか分からなかったけど、慌てて上へ跳ぶ。
そのまま空中で2回転して着地。
……ちょっと腰が痛いかも。
一人でならもっと楽なんだけど、今はミアちゃんも背負ってるしな。
────チュドンッ!
私が先程までいたところを振り返ると、大きな穴が出来ていた。
え、怖。ビームも撃てるの? 危ない危ない。
サラ
サラ
サラの叫び声。切羽詰まった声。
サラ
一度で聞き取れなかった。
故に反応が、遅れた。
ぱっと後ろに目線をやる。
人造人間が私に攻撃を仕掛けるその直前、といったところか。
……もう、避けられないっ!
私は受け身を取れるように構えた。
……来るっ。
衝撃波なら、防げる。ビームなら半々。短剣なら腹を穿たれそれでおしまい。
けれど予想していた衝撃は、どれも訪れなかった。
どん、とたった一蹴り。
……おかしい。今の瞬間、殺そうと思えば私を殺せたはず。
……まさか!
嫌な予感がして、私は周囲を確認。
角に追い詰めらている……!
確実に私を潰そうとしていたのだ、この人造人間はっ。
どうしよう、どうしよう。
私にできることはっ?
走馬灯がよぎる。記憶を辿る。
何か私に、できること。この状況の、打開策。
────答えは既に、私の中に。
それは誰かの、願った奇跡。
“フランド・ラーレラ 光よ怒れ”
人造人間が叫んでいる。目から何かを流しながら、叫んでいる。
人造人間
人造人間
レミ
思考している暇はない。
パッと頭の中に浮かんだあの呪文を、唱える。
レミ
レミ
パァッと眩い光が辺りを包み込む。
視界が一瞬白に染まり、すぐに光は収まった。
……成功、かな?
人造人間は仰向けになって倒れていた。
サラ
サラ
サラがなぜか青褪めた表情でこちらを指さしている。
失礼な。
ミア
ミア
ミア
レミ
ミア
私は目を覚ましたミアちゃんを下ろす。
ミア
彼女はそうされるとすぐに、人造人間の方へ近づいていった。
ミアちゃんは優しい手つきで人造人間の頭部を撫でている。
レミ
ミアちゃんは泣きそうな表情で、ポツリ、ポツリと告げた。
ミア
ミア
何を?
そう尋ねようと思ったのに、何だかうまく喋れない。
視界が揺れる。
意識が遠のく。
ミアちゃんは哀しそうに、微笑った。
ミア
────ねぇ、止めて。
一生のお願いだから、どうか聴いて。
私の体を改造するのを、止めて。
何度叫んでも、懇願しても、大人達は聴いてくれなかった。
耳はきちんと付いていて、私以外とは会話をしているのに。
私だけ、蚊帳の外。私には、何の反応も返してくれない。
だんだん声を出すことすら億劫になって、ずっとずっと黙っていたら、大人の一人が私の頭を撫でた。
『その調子よ』って。
固くなった腕。自分の意思では動かせなくなった体。
やがて全てが人工物に置き換わった。
その頃にはもう、自分のものが奪われても、何も感じなくなっていた。
ただ、意識が残されているのが不思議だった。
それからしばらく、暗いところに閉じ込められた。
何も怖くはなかった。
次に私が日の光を見た時、大人達は皆一様に笑っていた。
何が嬉しいのか私には分からなかった。一緒に笑おうかと思ったけれど、そういえばこの体は、もう自分のものではないのだ。
大人達は私を兵器として使った。
『あなたのおかげで、何万という人の命が救われるのよ』
……知らない。
『今日の戦果は?』
知らない。嫌。赤黒い液体なんて、見たくない。
『どうしてもっと早くに来てくれなかったのッ⁉︎』
知らない。生きてるだけで、十分でしょう?
『役立たず。戦闘狂』
知らない。そうプログラムしたのはあなた達でしょう。私じゃない。
『もう二度と、顔を見せるな』
知らない。
『代わりに自由を与えてやる、泣いて喜べ』
知らない。自由って、何?
廃棄されたその日、空はどんよりと曇っていて、雨が降っていた。
生まれて初めて、ではないけれど、久方ぶりの雨だった。
赤くもなく、黒くもない。ただ、透明の、雨。
とても綺麗だった。人造人間として失敗作の自分にとって、勿体無いくらいの贈り物だ。
機械になった体を、自分の意思で、動かす。
涙は出なかった。そんな機能はなかったから。
奇跡を扱えるようにと残された意識はあるのに、魔法は使えなかった。
終戦から数年経ったある日、路地裏で子供を見つけた。
死にかけの子供だった。
汚れた私が近づいても、その子は何も言わない。何も投げない。
触ってみたら、どうだろう。
そんな好奇心に突き動かされ、子供の頬に触れた。
微かに、目の前の小さな体が動いた気がした。
でも、それだけだ。拍子抜けした。
興味はすぐに薄れて、手を離そうとした瞬間のことだった。
子供の意識が、私に流れ込んできた。
感情が渦巻いた。春風が舞い込んだ。色とりどりの花が咲いた。
それから、『彼』の声も聴こえた。
そしてすぐに、それらは消えた。
子供である『彼』は、すでに事切れていた。
私は、どうしようもなく悲しくなった。
嵐が私の中を荒らしていった。
────知らない。
こんな感情、知らない。
知らなければよかったとは、思わない。
だから、知りたい。
心の動きに名前が欲しくて、何人かの意識を吸い取っていった。
何も分からないまま、数世紀が経過した。
私は男に封じ込められた。
『おとなしく眠れ』と、言われた。命令された。
────ふ、ざけるな。
ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな。
自由を与えたのはお前達だろう。
いらないと捨てたのはお前達だろう。
それなのに、私の邪魔をするのか。
また、命令するのか。プログラムするのか。
今度は意識も、感情も全て奪うのか。
私は人造人間じゃなかったけれど、それでもその名を受け入れた。
もう一度奪うのなら、私の全てを返してよ。
それから、私、全力で抵抗するから。
今度こそ私は、私の意思で、答えを見つけに行くのだから。
知らないなんて、もう言わない。
それを理由にしてしたこと全部、償うから。
全力で、自分勝手なお前達に抗うから。
ねぇ、返して。返してよ。
そうじゃないと、フェアじゃないでしょう。
だから返せ。
返せ、返せ。
私の人生から、体まで、全て、総て、凡て。
一生のお願いだから。ねぇ聴いて?
返して、私を。
────今日は卒業式。
私は地球で小中と経験してるから、特に緊張しなかったけれど、ミアちゃんとサラはガチガチだ。
二人揃って、右手と右足が同時に出ている。
お、面白いなぁ……。
クスクスと小さく笑いながら、私は試験後のことについて思いを馳せる。
気を失った私が目覚めたのは保健室。
ミアちゃんが運んでくれたそうだ。
聞くところによると、私が意識不明となったのは光属性の最強技(一番強い魔法?)を使ったから、らしい。
凄い、びっくりした。
でも周りの方が私よりずっとびっくりしてた。
それからあの子──元人間の人造人間は、サラのお師匠様の元で暮らすことになっていた。
私が眠りこけてる間に決まったらしい。
…………今度は、幸せになれるといいね。
見つかるといいね。
次に彼女に会ったら、そう伝えたいと思う。
あ、校長先生が壇上に上がった。
そろそろ卒業式も終わりかな。
ちなみに、今年の卒業生は私達のチームだけだそうだ。
…………あれ、校長先生の話長くない? もう十分も話してるよね?
私は大きなあくびを一つして、空に流れる雲の形を眺めた。
卒業式の長い話の後、私はミアちゃんとサラの師匠に会っていた。
失礼の無いようにしないと……!
レミ
キャルル
キャルル
キャルル
サラの師匠、キャルルさんは、私が言葉を返す暇もないくらいずっと喋っている。
明るくて、お喋りな人なんだなぁ……。始終笑顔なのは、何考えているのか分からなくて、ちょっと不気味だけれど。
サラ
キャルル
キャルル
キャルル
キャルル
サラ
サラ
サラ
シャシャラ
シャシャラ
サラ
キャルル
サラ
サラ
キャルル
シャシャラ
キャルルさんとシャシャラさんは揃って顔を見合わせてる。
その顔には、はっきり嫌だと書かれていて。
少し面白くて笑ってしまった。
サラは苦い顔をしていたけどね。
ミア
ミーシャ
ミーシャ
ミーシャ
レミ
ミーシャ
そうしてお互い頭を下げた。
どうにかしてよとミアちゃんを見ると、彼女はありえない、といった表情でミーシャさんを凝視している。
ミア
ミア
ミア
レミ
ミーシャさんは目を泳がせた。
ミーシャ
ミーシャ
ミーシャ
テヘッと可愛らしく笑っているミーシャさん。
そんな自分の師匠を冷たい視線で突き刺すミアちゃん。
それを苦笑いしながら眺め、私は目の前にいる二人と、それからサラとその師匠さん達を頭に思い浮かべた。
……怪盗って変わった人が多いんだなぁ。
レミ
レミ
レミ
私はミティフス学園から出ると、真っ先にクロトを探した。
だってクロトがいなかったら、私あの飛行船に戻れない。
ちゃんと合格したのにと思いながら、キョロキョロと辺りを見回していると、急に頭を叩かれた。
クロト
クロト
意地が悪そうなニヤニヤ顔で私を見下ろしていたのはクロトだ。
でも私だってそんじょそこらのニヤニヤ顔では負けない。
負けていられない……!
レミ
レミ
私が珍しくドヤ顔でそう言ってのけたのに、クロトの反応は芳しく無い。
拍子抜けもいいところだし、何より……恥ずかしくなってきたんですけど!
クロトは淡々と告げた。
クロト
クロト
レミ
昨日、見てた……?
あの異常事態の中何もせず観戦してたってこと……?
嘘、信じられない。
文句を言おうと私は口を開けた。
クロト
レミ
が、何も言えないまま閉じた。
この言葉から察するにあの後の片付けを行ったのはクロトってことだよね。
………………ありがとうございました!
それにしたって、一言くらい褒めてくれてもいいじゃないか。
レミ
クロト
レミ
私は内心ドキドキでクロトに訊ねた。
クロトは難しい顔をして黙っている。
それから額に手を当てた。
な、何か私、やらかしちゃった……?
だから見捨てられてしまうの……?
不安に押し潰されそうになりながら、何秒が経過したのだろうか。
急にクロトが歩き始めた。
レミ
クロト
クロト
レミ
クロト
それは────!
彼の問いかけの前提部分を理解した私の顔は、自然に綻んだ。
気をつけないと、笑い出してしまいそうだ。
レミ
レミ
クロト
私はクロトの後を追い、今晩の晩御飯について話し始めた。