今、世間は
"七瀬涙奈"の話題でいっぱいだ。
それは彼女の新作が
今まで以上にヒットしたから。
SNSや本屋だけではない。
テレビにも取り上げられているくらいだ。
僕は彼女の新作を買いに本屋へ
足を運ぶ。
数ヶ月前の僕ならば
この状況が嫌で仕方なかった。
僕は彼女が嫌いだった。
でも今はとてつもなく
好きだ。
とても嬉しく思う。
僕が関わった作品だからではない。
単純に彼女の作品がヒットして
嬉しいのだ。
人はこんなにも簡単に
人を好きになってしまうのか。
単純なのだと思う。
新作を購入したら
いつもの場所へと向かう。
僕のお気に入りの東屋。
最近はずっと彼女の元へ通っていたため
久しぶりに来たと思う。
桜でいっぱいだったこの場所は
あっという間に紅葉に変わっている。
そんな中で彼女の作品を読む。
彼女は本当はこの作品を
世に出すつもりはなかったらしい。
どうせ出したところで
出してからどうなるかなんて
見届けることは出来ないから、と。
でも僕はそれを拒否した。
せっかく完成させたものなんだ。
世に出せるチャンスがあるのなら
チャンスを逃すのは勿体ない。
僕の強引により彼女は
渋々と出版会社に連絡をした。
事は順調に進んでいき
現在に至る。
そんな少し前の出来事を
思い出すと同時に
彼女が亡くなったばかりのことを
思い出した。
僕は翔真と一緒に葬式に出た。
彼女に出て欲しいと
言われた訳ではない。
彼女の母親から
出て欲しいと頼まれた。
最後、彼女の姿を
棺の中で見た時
こんなにも儚く、美しいのだと
改めて実感した。
白い服はより一層
彼女の美しさを引き立てる。
これをこれから火葬すると思うと
なんて残酷なのだろうかと思う。
葬儀はあっという間に終わった。
葬儀の後の食事に誘われたが
食べる気なんて全く無い。
人が死んだと言うのに
ご馳走で賑わうなんて
僕には考えられない。
翔真
1人帰ろうとしている中
翔真も僕に乗ってきた。
唯人
翔真
彼女の母親に挨拶をして
帰ろうとした時
母親に呼び止められた。
そう言って受け取ったのは
彼女のスマホだった。
唯人
スマホに続き受け取ったのは
まだ彼女から受け取っていない
交換ノート。
もう返ってくることはないと思っていたから
正直驚いた。
2つともしっかりと受け取り
その場を後にした。
翔真
翔真
唯人
翔真
唯人
翔真
翔真は彼女が亡くなったことに対して
思ったよりも平気そうな顔をしていた。
こんなにも早く
立ち直るのが普通なのだろうか。
なんて
きっとずっと前から
心構えができていたのだろう。
僕はそれが出来なかった。
翔真とは普通に別れ
真っ直ぐ家に帰った。
慣れないスーツに
慣れない場所。
疲れが一気に溢れてくる。
きっと慣れないことばかりが
あったせいだけではない。
ここ最近まともに睡眠を取っていない。
夜というのは
何とも酷いもので
どうしても彼女のことを考えては
苦しみ、寝かせてくれない。
そんな日々が続いていた。
そのため横になった瞬間
あっという間に深い眠りについた。
次に目を覚ますと
外は暗くなっていた。
気づけば数時間も寝てしまっていた。
目線を窓から部屋の中に戻すと
昼に彼女の母親が受け取った
物を思い出した。
鞄の中から彼女のスマホを取り出す。
電源を入れるとロック画面が
表示される。
いかにも彼女らしさがでている。
ロックはかかっておらず
ボタン1つ押すと直ぐに
お目当ての物が出てきた。
ボイスメッセージを開くと
1つだけメッセージが残っていた。
恐らくこれだろう。
メッセージは10分程ある。
僕はイヤホンを付けて
一息ついた後に
再生ボタンを押す。
彼女の声、息、
少し前まで聞いていたはずなのに
懐かしく感じる。
僕は部屋の電気を付けることも忘れ
ただ真剣にメッセージを聞いた。
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