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津島修治

父様に兄様を修道院に送るように頼みました。

津島修治

ですから、ドストエフスキーの名を捨てて、修道士になってください。

今でも弟に言われたこの言葉が脳裏に残っている。

あまりにも悔しそうで悲しそうで辛そうな声色に、

自分の罪を真正面から突きつけられて、あまりにも申し訳なく思った。

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

……シュウジ

津島修治

兄様……いや、フョードルさん

津島修治

どうぞ、新しい人生を生きてください。

津島修治

あなたの人生に、僕はもう存在しないものだと思ってください

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

……シュウジ

津島修治

……なんでしょう

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

ごめんなさい……

津島修治

……は

胸が、押しつぶされそうだった。

苦しくて悲しくて仕方がなかった。

まだ幼い弟にこんな辛い決断をさせて、

生きたいばかりに、周りを傷つけてしまった。

それが、あまりにも申し訳なくて、悲しくて仕方なかった。

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

ごめんなさい、ごめんなさい、シュウジ

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

すぐ、すぐ、出ていくから、

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

だけど、どうか一度でいいから抱きしめて……

こんなお願いをする自分がたまらなく憎たらしく思えた。

自身で蒔いた種なのに、

こうして報われようとするなんて、

なんて浅ましくて図々しいんだ。

津島修治

ふょ……に、兄様ぁ……!

弟は力いっぱい抱きしめてくれた。

嬉しくて嬉しくて涙が出た。

その分、罪がわらわらといましめる。

アバドン

ここを出るって?

宵の刻。

目の前には契約を交わした悪魔の姿がある。

この時はまだ、彼にも申し訳なく思っていた。

人間のわがままで悪魔の嫌う修道院に行かなくてはならないのだから。

契約したのも願ったのも、すべてフョードルだから、アバドンはいわば被害者だった。

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

うん……

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

修道院に行くんだ

アバドン

私を殺すつもりか?

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

でも、そうでもしないと、僕の罪は消えない……

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

ごめんね、僕のわがままで……

アバドンはふとふんと笑った。

アバドン

修道院に行くだけで、貴様の罪が消えるとでも思っているのか?

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

え?

アバドン

私は気分屋だからね。

アバドン

その日は気分が悪かったから、

アバドン

貴様の願いとともに、この世界に呪いをかけた。

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

……え?

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

の、呪い……?

アバドン

ああ。すべては貴様の願いを叶えるためだ

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

なんで? どうして……?

アバドン

貴様だけが永遠を生きてもつまらんだろう?

アバドン

だから、“貴様”が楽しめるように、貴様の仲間を作ってやったんだ。

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

楽しめる……?

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

一体、どんな……

アバドン

常人では成し遂げられぬ、卓越した能力。

アバドン

貴様の能力は、“貴様を殺したやつが次の貴様になる”というものだ。

フョードル・ドストエフスキー(幼少期)

そ、そんな……

アバドン

よかったなあ、なあ?

アバドン

ちょっと死の痛みは経験するが、そのうちすぐ慣れる。

アバドン

死にたくなかったんだろう?

アバドン

生きていたかったんだろう?

アバドン

自分の人生を狂わせてでも、生きていたかったんだろう?

アバドン

なんて愚かな願いなんだ!

アバドン

人生がむちゃくちゃになっても、生き続けたいなんて!

アバドン

これだから人間は愉快なんだ

アバドン

だから、私は貴様と契約したのだよ

アバドン

これからもっとおもしろいものを見せてくれ。

アバドン

私を飽きさせないでくれよ

アバドン

飽きたら貴様を地獄へ突き落としてやるからな

さあっと、血の気が引く音がした。

もう、逃げられぬと。 この毒牙からは逃れられぬと。

すべては己が犯した“罪”なのだから。

あの後すぐにシュウジの用意した馬車に乗り、

丘の上の修道院に入った。

そこでフョードルは洗礼名を言い渡されたが、

どうあがいても、フョードル以外の名はあらわれなかった。

それらはすべてフョードルが悪魔と化していたからだった。

そのことを悔やみに悔やみ、毎日、礼拝室で祈りと懺悔を捧げていると、

聖母マリアがフョードルにささやいた。

“後悔しておられますか?”

と、優しい声だった。

フョードル修道士

……あなた、は?

“わたくしはマリア。 今日は、あなたをあわれみにまいったのです。”

フョードル修道士

……僕、を?

“ええ。あまりにも可哀想でしたから。”

“あなたには神聖な魂を捧げましょう。”

“ですが、あなたの体にその魂が入るには、あなたは強すぎます。”

“ですから、この世の誰より清く美しい魂を二つ捧げましょう。”

“一つは“今”のあなたの息子として。”

“そして二つは“未来”のあなたの友として。”

フョードル修道士

と、友?

フョードル修道士

ど、どうして、僕なんかに……?

“申し上げましたでしょう? あなたをあわれみにまいったと。”

フョードル修道士

ですが、僕は罪人。……あわれみはいただけないはずです。

“いいえ。それは違います。”

“たしかに、あなたは禁忌を犯した。 ですがその程度で、あなたが我が父の子だという事実が覆りはしません。”

“わたくしは、こうして、誤った道を進んだ者に救いの手を差し伸べているのです。”

“ですから、あなたのこの恵みは我が偉大なる父から贈り物なのです。”

“自分の価値を見誤らないでください。”

“あなたは父の子。偉大なる我が父の子。”

“……今すぐ、自身の部屋へと戻りなさい。 父がくださったら命が産声を上げていることでしょう。”

フョードル修道士

……え?

フョードル修道士

あ、まっ……!

フョードルが何か言葉を発する前に、その聖母マリアの姿はなくなっていた。

見上げると、そこには聖母マリアの像がたっていた。

声の持ち主は、このマリア像だったのだろうか。

そしてフョードルは弾かれるように自室へと戻った。

扉を開けようととってに手をかけた時、

小さな赤子の力強い声が聞こえてきた。

慌てて扉を開けると、そこには

フョードル修道士

……なんて、綺麗なんだ……

真っ白な髪をした可愛らしい赤子がベッドの上で産声を上げていた。

フョードル修道士

……夢じゃ、なかったんだ……

フョードルはその赤子に近づき、その赤子を抱き上げた。

小さい体の割にはずっしりと重く、命の重みを感じた。

フョードル修道士

……ドロフェイ

フョードル修道士

ドロフェイ・ドストエフスキー……

フョードル修道士

今日から、あなたの名前はドロフェイ・ドストエフスキーです

ドロフェイ、間違いなくあなたは、“神からの贈り物”でした。

自分が捨てた愛しい人と同じ名字を、あなたにつけてやりたくなるほどに。

ニコライ・ゴーゴリ

……と、先生は話してくれたよ

アツシ・ドストエフスキー

……

ニコライ・ゴーゴリ

だからね、“敦”くん。

ニコライ・ゴーゴリ

君はここを出るべきなんだ。

ニコライ・ゴーゴリ

君がここに留まっているのは、先生を好きだからじゃない

ニコライ・ゴーゴリ

君がドロフェイと同じ“奇跡の子”だからだよ

ニコライ・ゴーゴリ

本来なら、君は先生の前に、先生の友人として生まれてくる予定だったんだ。

ニコライ・ゴーゴリ

だけど、それはすべて、私たちによって崩されちゃったね

シグマ

……でもこうしなきゃ、父さまは壊れてしまうから

シグマ

やむを、えなかった。

アツシ・ドストエフスキー

……

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コメント

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ユーザー
ユーザー

もう我が一生に悔いないわ………豚骨ラーメンとアイス3個食べ切った時くらい悔いない。

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